第38話〔終わりと始まり、新たなる選択肢〕②
方向も定まらぬ闇に包まれた異空間、目の前にはその中で最も輝く光の球。
次いで浮き上がっているみたいに見える自身の身体と、他二名。
それ以外のものは何一つ――真っ黒な所。
現状はただ突如として現れた神を名乗る存在に耳を貸す、以外の選択肢は無い。
“遥か遠い昔、ワタシ達はこの世界を創りました。そして幾分か時が過ぎ、人々から神と呼ばれる存在と成ったワタシ達は、ある選択を迫られる事となります”
達と言うのは、おそらくもう一柱である男神のコトをさしているのだろうか……?
“人間と魔物、どちらを優先とし救うべきかという選択です”
なぬ。それは――。
“細かい事情は省きますが、アナタ達の居る世界にとって双方の存在は善でもあり悪でもあります。そのどちらかに与する選択が世界の調和を保つ事となるのです”
それってつまり。
「――古代退魔戦争だろ、そんなコトは神様じゃなくたって知ってる」
久々というか、漸くリエンの口からまともな意見が出たのではないだろうか。
“アナタは……ハーフエルフの子ですね”
「それがナンだよ」
“いえ、であれば歴史を知る機会も多かろうと”
「……べつにそんな大層なもんじゃねェよ」
まあ退魔戦争については子供向きの絵本にすら成ってるし。
“そうですか……、ではエルフの者ですらも真実を知る者は今や限られているのですね”
ん? ああ、心の内を。
「さァな……オレが知ったコトじゃねェよ」
“そうですか。アナタは珍しい境遇で育ったのですね”
「……おい、神だからって勝手に他人のモンを覗き見んじゃねェよ」
“――失礼、以後気を付けるとしましょう。ですがワタシも子らと話すのは久しく言語を介した作法等は疎いのです、理解をいただけますか”
まあそれは、というか。
話を本線に戻そう。と。
「結局、俺らと話している目的は何なんだ?」
ただの世間話なんて童話でも言うまい。
“そうですね、この際差し支える前に申しましょう。――人の子ダンよ、アナタの行動はワタシが望んだものとは異なる消極的な内容でした。故に直接の啓示を試みる事としたのです”
ええと……。
「何のコトだ……?」
“アナタに魔物と成る力を授けたのは、――ワタシです”
な、ちょっと待。
「――待ってください、ゴブリンさんて元は人間だったのですか……?」
む。そっちの方で。
“はい、この者の本来の魂は人の子であり現在はワタシの力を授けた事で魔物を模す成り立ちに変貌したのです”
「と言うコトは……」
何か凄くジトっとした嫌な視線が向けられている様な。
「――話の続きは……?」
ここは空気を変える、もとい本来の話へと。
“今、申した通り、アナタに対する期待が思わぬ方向へと進み現状を余儀なくされた次第と言っていいでしょう”
そうそれ――。
「――何の事を言ってるんだ?」
話す以前に会う事すら初の。
“アナタに魔物と成る力を与え、時間の神が行う暴挙を止めるべく計りました。しかしアナタの動向は抑止どころか抑制にすらならず彼の者へ赴く機会すらも見逃す始末”
い、いや。
「……待て、何の事を……」
本当に何を言っているのかが分からない。
“わけあって直々に話す機会を設けず渋っておりましたが事ここに至っては致し方ありません。――こうして啓示を行う事としました”
「……いや、最初からそうしろ」
唯でさえ困惑してる状況で、有ろう事か神様の裁量等推察できる筈も無い。
言っちゃ悪いが……イヤ。――念の為に思うコトすらも止めておこう。
“……思慮深く、行動をすればいずれ何かしら気付くものと……”
そんなモノ。
「――知りませんよ」
と自分ではない所から。
「神様だろうと他人です。手前勝手な意見は世間では通用しない、と祖母は言っていました。意味は分かりませんが、ゴブリンさんは悪くないと思います」
だったら何故今言った。
“それはこちらにも……。――いえ、確かにアナタの指摘は間違いないでしょう。事実こうして接触する事と次第になったのはワタシの不手際、責任を押し付けるに等しい言動は神として恥ずべき失態と、受け入れる旨を認めます。現状はそれに話を纏める合意で、如何でしょうか?”
暫し静まり返る。のちにハッと気付き、即時――。
「――……マリア、オマエにだぞ」
次いでヘっとした顔をし。
「……私ですか?」
他に誰が居るんだよ。
“何か、気に障る様なコトをワタシが申しましたか……?”
「ぇ。いェ、難しい感じだったので、てっきり別の何かなのだと……」
そんなにだったか?
“ええと……納得していただけましたか?”
「ぇぇっと私は、今後気を付けてくれる感じでイイと思いますよ」
ふんわりしてんな。
“了承しました”
まさに神の器って感じだな。
“さすれば話を本題へ、入りましょうか”
ようやっと。――実に無駄の多い。
“先に申しました通り、我々の願いは世界の救済と善とする選択――ワタシは人を選び、彼の者は魔を選びました。どちらが的確であるかは関係なく、人を救う道を選んだワタシに協力をしてほしい、それが大地の神たる願い。故――アナタ達の応えは如何ですか?”
――自分達の返答。
「……具体的には何をする?」
“先ずは今一度現世に還り、その記憶に残る痕跡を頼りに彼の者が統べる世界へと向かうのです。其処で企てを知り阻止する事が人を救う手立てとなるでしょう”
要するにもう一度やり直して。
「あのぉ今からその世界に、ここから行くことはできないのですか……? 神様の力的なやつでパパっと」
それは、確かに。
“不可能ではありませんが、予定外の分を踏まえてなるべく力の温存をしたいところ。できればアナタ達の遂行力に期待したいと思う次第なのです”
なるほど。
「でも私、そんな所に行った事も向かう馬車も知りませんよ?」
イヤ――。
“それに付いては”
「――俺に心当たりがある、大丈夫だ」
多分。
「ぇ、ゴブリンさんは行ったコトがあるのですか……?」
「イヤ無い」
あと現状はゴブリン等ではない。が――。
「以前に、それらしいモノを見た気がする」
――今は細かい修正等はと、話を進める事を優先する。
「なるほど。でも合ってるかの確信はあるのですか?」
コイツは――たまに核心を突いてくるのは何なんだ。
“その点は間違いないでしょう。ワタシが把握している範疇に於いても同じ結論に至っており、要となるのはその先、あちら側での行動判断です”
「その判断と言うのは?」
“残念ながら彼の者が支配する世界をワタシは知りません。恐らくは魔物が蹂躙する異世界とは思いますが、実際の状況や成り立ちは憶測以上の事を申せないのが現状なのです”
「マ、魔物……」
ふむ。――まあそれはいいとして。
「で報酬は?」
“……報酬?”
「俺は冒険者だ。依頼には報酬を払うのが当たり前のルールだろ」
ま、最近だと専ら“元”だけどな。
“……そうでしたね。それでは、彼の者の計画を阻止する事を達すれば、望みは思うがまま――で如何でしょうか?”
ま――。
「お礼なんて要りませんよ! ゴブリンさんは正義の魔物さんなのですからっ」
――おい。何を勝手に、そもそも報酬の話をしたのは俺。
“なるほど、実に謙虚な決心です”
「ハイ慎ましいです!」
待て待て。
“さすれば元の世界軸へとアナタ達を送り、再び混沌に至る前の記憶に誘いましょう”
「ちょ待っ」
“釘を刺す意味合いともなりますが過去へ干渉出来るのはこれが最後です。心して問題の解決に尽力し人の住まう世界を救済する事を望みます”
「待ったマテッ」
絶対にわざとだろッ!
“人の子等よ、世界の運命はアナタ方に託されました。どうか彼の者から人々を守り、世に平和をもたらしてください”
「ハイおまかせくださいっ!」
ちょ、何をその気に。
と不服を申し立てる気満々の意義を心身共に包み込む煌びやかな粒子。
“先ずは魔の者が潜む異世界へと赴き、その内情を知り策を講じるのです。決して臆してはなりませんよ”
「待っ――」
――意識はまた遠のく、その先で待つ新たなる選択と始まりを前に幸先は――憂うべき。
終わりと始まり、新たなる選択肢/了
今回の話にて【ゴブなり】の【一章】を終幕としました。
又、一章の終結後は投稿を暫く休止し別作品の物語を進める等したいと思っています。
※なにとぞ、ご理解のほど宜しくお願い致します。m(_ _)m
ここまでご一読くださった方々に、心からの感謝の意を込めて。
“R6.0710”




