第31話〔対決、最弱vs.最弱な選択〕①
「つまりアンタはこの先の迷宮へ行きたいだけの…、魔物使いだと…?」
「はい、その通りです。あと出来ればお風呂に入りたいです」
「……魔物使いね、聞いたことないがな」
「私も無いです。なので、よければ水場でも構いません、知りませんか?」
「あぁ、まぁ……」
余っ程に不快なのだろうな。
「と言うか、そもそもアナタの罠が原因なのですから責任を取るべきですよ」
「それはアンタが強引に突っ込むから……、大体魔物を連れて歩いていたら敵対されても仕方がないだろ。だから」
「だから何ですか、森の中で女性に粘着く液体を掛けたり衣服が乱れる様な仕掛けを施したりしても何とも思わないって言いたいのですか?」
言い方よ。
「ちょッおま、……っ、分かったよ。ついて来い……」
そう言うと謎のフードは独りでに森の奥へと歩き出す。
やや驚きはしたものの、後を追う。
「ちょっと待ってくださいよ!」
――やれやれ。
ま、結果としての流れは悪くもなさそうだ。
…
唐突に始まり、唐突に終わる。
戦いとは大抵がそういうモノだ。
予め計画した通りに事が進み、想像の範疇で終了するのは極めて稀である。
それは敵とて同じ道理で互いの素性や立場などは知る由もない。
イヤ、寧ろ知らない方が――好かったりもする。
謎のフードに付いて歩くこと数十分、目的の場所へと思わず辿り着く。
……ここは。
「井戸はそっちに在る」
背を向けたまま素っ気なく、指が示す。
「助かりまーす!」
そして疑う事を知らぬ治療士様は早速と――走り去る。
マジで後先見ずと言うか、後先無しな性格をしてるな。
「……オマエは、行かないのか?」
ん? ああ、オレのコトか。
『アトデイイ』
僅かに相手の肩が揺れる。怖さと言うかは、純粋な驚きだろう。
「……そうか、オレは小屋の中に居る。用が出来たら、――好きにしろ」
フム。
まあ心置きなく、本来の目的を果たすだけだ。
――見るからに怪しい、と言う訳でもない。
寧ろ魔物連れの若い娘の方が余っ程に不審だ。
外見としての特徴は森に馴染む緑色のフード付きケープだが、弓を携えていた感じからも一般的な狩人の服装だ。
性別は――中立的な体系だが、まあ男だろう。と。
「あれ、ゴブリンさん?」
一応無事を確認。
「ゴブリンさんも浴びに来たのですか?」
て言うか――。
『――……サムクナイノカ?』
季節的に寒い時期ではないが決して肌着一枚で安易に浴びる程の気温でもない。
「ちょっと肌寒いですけど、気持ちの方が悪いので……」
『……――カゼヒクナヨ』
「大丈夫です、私風邪を引いたことがないので」
マジかよ。本物の――。
「それに、引いても魔法で治せますから……」
――ェ。
『マジデ?』
そういえば解毒治療の。
「なんちゃって嘘でーす、魔法は便利ですが病気は治せませんよー」
ガブ。
「イダァーーイッ!」
さてと、そろそろ本筋に戻ろう。
そもそも自分達が此処に来た理由は――。
「……今度ギルドへ行く機会があれば、絶対に討伐依頼を出しますからね……」
ゴブリン一匹に幾ら出すかは知らんが先ず誰も来ないと思え。
大体それこそ魔法で、もといマリア自身なら魔法すら使わずに。
「そういえばさっきのフードさんは何処に行ったのですか?」
さっきのフード、ああ。
言葉にするまでもない質問と、チョイっと指先で示す。
「ぁ、ここがあの人の家だったのですね」
家なのか……?
まあ、造りは簡単でも建物である事に変わりはないか。
「では」
ちょっと。
『マテ、ナニヲ?』
「ぇ、行こうかと」
何処に。イヤ。
『カカワルベキジャナイ』
「何故ですか?」
『モクテキヲワスレルナ』
「目的? 花を取りに来たのですよね?」
こくりと頷く。
「それって、あの人に井戸を借りたお礼を言ってはイケないコトになるのですか?」
……まぁ。
のんびりとしていられる訳ではない、が確信をもって言える事も現状ではない。
「ちょっと顔を見て言うだけなので、直ぐに終わります」
『……ワカッタ』
「では直ぐに行って、ぬ?」
『イッショニイク』
結果的ではあるが、――目的の迷宮までは迷わず来れたのだ。一言くらい。
至って普通の木造建築――もといボロボロの小屋。
周辺は多少整備がされている土地ではあるものの、必要最低限の範囲。
裏には井戸、脇に真木が積まれた様子を見つつ小さな段差を上がって扉を開けると――。
挨拶まじりに刃物が首元に突き付けられた治療士様の小さな悲鳴。
――内装は中央にテーブルが置かれた質素な暮らし。
「ひィ」
「何しに来た……?」
やってるコトが若いねェ。
「ワタ私はッ、アイっ挨拶をしに!」
「あいさつ……?」
「井戸を借りたお礼を!」
そして暫し沈黙が続いた後、スッと刃物が下げられる。
ヌ。
「……用が済んだのならどっかへ行け、この森には入って来るな。特に魔物を連れてな」
何処であっても、それは尤もだ。が。
『コレカラメイキュウニイク』
「……迷宮? お前ら」
「ひィ!」
再び上がる短刀に再度悲鳴も付随する。
「私の時は刃物なんて使ってませんでしたよ! お互いさまですよ!」
意味は分からんが。
「ぁぁ、悪い……」
引き下がる様で。
「本気で悪いと思っているのなら名前を教えてくださいよ! ちなみに私はマリアです」
「ハ? ぁ、ぁぁ、ええと、リエンだ……」
「リエンさんですか、名前からしてエルフっぽいですね。ついでに申しますと後ろに居るのはゴブリンさんです」
まんまだし序でにするな。
「……そうか。用が済んだのなら」
「リエンさん今晩ここに泊めてください」
ヘ、ハ――。
「ハアッ?」
――ぁ、勢いでフードが外れた。
今年も何だかんだで書き続ける事が出来ました。
来年も皆さんの応援を受けて、頑張りたいと思います! わっしょーい(*´Д`)




