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第30話〔死闘、最低な選択と最悪な結末〕⑥

 目指すはお姫様がご所望するラコンと言う名の花。


 その幸先は良く、場凌ぎの言い立てで軽く受け入れてくれた馬車に乗る事ができ。


 目的地周辺の街道まで来ることが出来たのだ、が。


「……あの感じだと、焚き火でしょうか?」


 これから進み入る予定の森から昇る一筋の煙、それを見て悪くない推測をするマリア。


 しかし不幸にも自身の耳は、その呟きを普段よりも遠くに感じてしまう。


 ぁ、これは完全に逝ってるわ。


 暫くは不便な時が続くだろうと予感しつつ、愚痴る気も起こせない不満だらけの身体で治療士と同じ空を見詰める。


 推量的にも助けや大所帯でないのは容易に分かる雰囲気。


 何より森全体から発せられる陽気も平和そのもの。


 しかし先ほど聞いた話では周辺に村等は無く、知った懐かしい国も疾うに滅んだとの事。


 自然の火事……? いや、そんなコトが起こりそうな時期でも無いし――これは。


「行ってみましょう」


 それしかないな。


 そして当然のように提案した側が、後ろに付いて来る様だ。






 慣れ親しんだ、とは最早言えないが雰囲気だけなら記憶に残るまま。


 寧ろより平穏になった気さえする。


 まあ方向的には逆側から向かっている事にはなるから、こちら側の事情は元より正確とは言えないが。


 しかしながら魔物の目撃が少ないだけの街道沿いから漠然と入っただけの状況、森という視界の悪さは警戒していてつつがない。


 何より自分にとっては魔物だけが脅威ではないのだ。


 それこそ出合い頭にエンカウントされる可能性すら、ある。


「ゴ、ゴブリンさん……もう少しだけ、ゆっくりと進みませんか……?」


 何を、こんな平和な森の中で。


 そもそもヒト様と言うか後ろに隠れ、きれても居ないけども……。


 端から身長差というか、先ず怯える程のコトか――と。


「ひィ、パキってっ何か踏みましたよッ」


 木の枝だろ……。


「ひ!」


 ああもう、引っ張るなよっ。


 身長――もとい単純な力の差で後ろへと引かれる。次の瞬間――。


 ストン。


「へ?」


 ――つい先ほど居た所の地面に斜で突き立つ一矢。


 な。イヤ、ヤバい。


「ゴブリンさんっ」


 いいから早く、隠れろ。




  …




 ハァハァと息吐く間も無かった状況からは脱しての物陰。


 対称に木の陰で怯えるマリアが居る。


 ――さて、どうしたものか、だ。


 見るからに暫くは役に立ちそうにない娘を余所に、思考する。


 矢は正面から飛んできた、狙いは十中八九自分だろう。


 魔物だしね。


 それよりも目標が“どこまで”対象としているかだ。


 初撃は自分だったが、次は如何なる?


 人を狙っていなかったとしても、今や状況は変わった。


 どう映ったかは定かではないが状況的に魔物を助けたと思われても仕方がない。


 極め付きは、加護だ。


 本人は怯え続けているので今はどうでもいいだろうが、ここぞという時には機能すべき絶対の真理が通用しない可能性を考慮しなければならない――。




  *




 森の奥から一矢を放ち、魔物を射ろうとしたものの動揺する。


 避けた――イヤ、今のはどう見ても後ろに居た奴が。


 なら、何故?


 ――魔物を庇ったのか。


 違う、そんな感じではなかった。


 現に遠目ではあるが突然の事に慌てる様子が伺える。


 何よりあの女は、魔物に触ったのではないか?


 通常であれば戦闘遷移エンカウントされるのが当然だ。


 それがしなかった、何故。


 ――同じ、魔物……?


 無論そんな話は聞いた事すらない。


 しかし魔物が人に化けて、だとしたら何故片方だけが……。


 おっと。――迂闊だった。


 予期せぬ出来事に動揺していたのは自分も同じだった。


 内容はどうあれ、自身の遣るべき仕事は決まっている。


 初撃で決められなかったのは久しぶりだが、ここからも領分であることは変わらない。


 おそらくは回り込もうとするだろうがこの場に置いての優位は圧倒的に上。


 通常であれば居場所を変える等の判断を視野に入れての行動をするが、あの二人。


 おっと、両方人間ではないのか? ――どちらにせよ、実りの価値も無い雑魚だ。


 今回は余裕を持って高みの見物でもしようか。




  *




 さて、単純な話と行こう。


「あのお、どなたか存じませんが撃つのを止めてくれませんか!」


 堂々と姿を晒し両手を上げて示す降伏の意が発せられる。


 その声は必死さ延いては本人の死地へと赴く覚悟をも物語る叫びとなって周辺の森だけでなく上空にまで届く程であった。


「私は敵でも、魔物でもありませんッ! だから撃たないでくださあいッッ!」


 おい、若干自分だけは助かろうとしてないか。


「一緒に居たゴブリンさんもゴブリンなだけで、危なくはありませんよお!」


 ……微塵も説得力ないな。


「だから、どうか、出て来てくださーいッ! 美味しい握り飯もあげますからっ!」


 ちょっと待て、それ俺の分で言ってるだろ。が。


 ――まあいい。


 十分に注意を引く役目は、担った。






 スティンジーバードでの奇襲――。


「なッ? っ」


 ――無論狙いは本体ではなく、その手の武器。


此奴こいつ!」


 反撃の短刀を避けつつ、――変態開始。


「な……ッ?」


 ――等級2、沼手。


 今回は地面ではなく木の上だった為、身体を沈めることはできないが。


「ぉ、おい、ちょっ!」


 足場にしている枝の根本を全身で締め上げる様に纏わり。


「嘘だろッ」


 バギィユと拉げる茎が平和な森に異質な音で鳴り響く。


「うわっ、待て待て待て!」


 手前勝手――世の中そう甘くはない。


 そして諸行無常の音が最後の木片と成って鳴り響く。


「うわあぁぁぁ!」


 お達者でー。






 落下の衝撃で悶えるフードを被った頭がやや遅れて着地した自分の方へと向く。


「……ゴブリン? どうなってんだ……くッ」


 コートの懐から現れる二本目の刃。


 だが丁度の時点、出た矢先に手から短刀が打ち落とされ――。


「っ、だ」


 ――布越しに頬で感じる背後の脅威で、謎の人物が押し黙る。


「……っ」


 しかし緊迫は束の間、一瞬にして。


「ぅぅ、なんかヌルヌルしたりベトベトしたりで、もう最悪ですよ……。こんな目に遭うのなら囮役をすればよかったです……」


 まあ生きてるだけで儲けもので。








  死闘、最低な選択と最悪な結末/了








急に寒くなったのでマフラーを巻いたら、そんな日に限って暑いのよん。(*´Д`)

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