第29話〔死闘、最低な選択と最悪な結末〕⑤
「――それでアンジェ様は、お忍びでお出かけになるそうです。いやぁ一国のお姫様なのに、本当に変わった人ですよね。ぁ後、付き人のロゼって方とは私どうしてか気が合わないと思うのですよね、こういうのって生理的に受け付けないとかって言うヤツなのでしょうか?」
うん、機嫌よく話してるところ悪いのだが。
「対応は丁寧で、お茶とかも出してくれたのですが」
『マテ』
「ぇ? ぁ、……ハイ?」
『カンジンノハナシハドウシタ?』
「カンジンの話……?」
……。
『マモノガクル、ツタエタカ?』
そして予想通りにぁっとした表情で答えが伝わる。
「ぇ、ぇっと、……もう一度」
『ヤメテオケ』
よくて捕縛されるのがオチだ。
そもそも相手は王族、立場上医療従事者だから叶う事もあるが通常気楽に会える相手では断じてない。
「……ですがそれだと私、何の為に行ったか分かりませんよッ……」
本当ソレな。
自分の場合は偶然だが本来の目的は今後起きる出来事を伝えて如何対処するかを話し合う機会、それを設ける計画だった。
しかも代替え案などを用意していなかった以上、お姫様を助けて国をなんとかしましょうの企画は完全に頓挫する事となる。
ま、端から自分達にどうのこうの出来る範疇ではないのは分かっていたコト。
自身は今となっては魔物だが、中身は元中級冒険者。
おとぎ話に出てくる様な勇者や魔王は、こんな冴えないパーティーとは無縁の存在ってコトですよ。
「……どうしましょう?」
如何しようも無い。
現実的に魔王の討伐を目指していた訳ではないが、あわよくば一国を救おうと言う少女の希望を叶えられる程の決起に実力が伴わなかっただけ。
なので不足は不足、計画性の無さを含め撤退するほか無いのだ。
「……私は――」
雰囲気を察したかまだ何も伝えていない状態でマリアの様子が項垂れて見える程に消沈するのを感じ取る。
「――すっごくバカです」
ヘ? 急に何。
「しかも臆病で、神様にすら見放されています。ですがそんな自分を、大切に思ってくれる人達がちょっとは居るんです」
……。
「このまま見て見ぬ振りをしても誰も私を責めたりはしませんけど、たぶん。でも私は私を責めて、それは凄く嫌な気持ちになるのですよ」
……ったく。
「だから、その……」
分かったよ。
『ホカノテヲ、カンガエヨウ』
「ぇ?」
ぇ、じゃねぇよ。
時間はまだある、というか結構先だ。
諦めるにしてもまだ早過ぎるってなもんよ。
『ヒメサマト、ホカニナニヲハナシタ?』
「ぇ、ぇぇっと」
個人的に気になる事も見付けた、それ等を踏まえ、もう一度練り直しだ。
…
そうしてあまりにも唐突な単語を聞き返す。
『ハナ……?』
「はい、ダンジョン内に咲くラコンと言う名前の花を探しているそうです」
ラコン――。
「何処に咲いているか、ゴブリンさんは知っていますか?」
――知ってるもなにも。
「それを手に入れる事が出来れば、今一度アンジェ様との拝謁も叶うのではないかと」
――なるほど。
それは大いにあり得る。
まあ会ったからと言って、それで物事が全て解決する訳ではないが、それでも現状は。
『イクカ』
「ぇ? 場所、分かるのですか……?」
分かるもなにも、其処は俺が死んだ所だ。
※
魔物に成ってからなんだかんだと時は経ち、合間合間に自分の事を調べたりした。
探すと言っても自身が如何なったのかは分かっているし今が何時で何処かなんてのは直ぐに調べが付いた。
俺は超絶希少な魔物と対峙し半世紀、奇跡的な勝利の後は魔物と成って目覚めた。
――その場所は、意外にも最期に居た迷宮から山一つ離れているだけの近場だったのだ。
そして俺――自分達が好み集まっていた憩いの場レザリオ王国は、その多くの歴史を閉じ完全に廃墟と化して人々の記憶からも忘れ去られようとしていた。
※
「レザリオ王国ですか……? そういえば聞いたことがあるような、無いような……?」
ぁ、知らない時の反応ですね。
「そのロザリオ国がゴブリンさんの出身地なのですか?」
……――。
『――チガウ』
「では何故……?」
と故を聞かれても、なにと説明していいものか。
悩む、すると馬車の前部から御者が。
「そう言やあ俺の爺さんが、そんな国の名を口にしたコトあったっけかなぁ」
「ぇ、――本当ですか?」
「いんやぁ確かなコトかはうろ覚えだけどな、むっかし冒険者で活気づいてたって国の話だったと思うがなぁ。だけんど、百年以上も前の話とかだったから確かめよう無いんでねか、大きな図書館とか、直接行ってみるとかしねえとな」
「なるほど、どっちも面倒なお話ですね」
んだ。と二人の話が一旦の切を付ける。
そうして御者の方を見ていたマリアの顔がこちらへと、向き直り。
「で、何の話をしていたのでしたっけ?」
イヤ……。
『モウ、オワッタ』
はてと言った顔で戸惑うマリア。
とはいえ明確にしたところで今回の目的とは違う。
いずれまた、そういう機会でもあれば――と。
…
「んだば、このくらいの時間にいつもここさ通るで、生きていたらまた会おうな」
「ハイ、ありがとうございました」
「んじゃま、珍しい魔物使いの姉ちゃんとチッコイ魔物さんよ。頑張ってな」
ハーイと小気味よい返事をするマリア。
続いて、小さく手を振ってから乗って来た馬車が去って行く。
イヤァ本当に、運が良かった。ただ――。
「運良く気さくな方と、馬車に乗れてよかったですねー。ちなみに、ここからは?」
――そう、問題はここからだ。
時間的には明るい内だが、構成を考えると事前に準備が必要だ。
「とりあえず食事にしますか? それとも周囲の様子を見に――ぁ」
食事って、ピクニックに来た訳ではないんだ。
「ゴブリンさん、あれ」
と言うか、実際問題戦略性の無いメンバー。
「ゴブリンさん、もしもーし」
前衛と後衛どちらにしても極端で、扱い辛い。
攻撃力は最底辺だし盾役として問題外。
後衛――回復は超が付くほどに厚いが攻撃系、もしくは支援が欲しい、絶対に。
しかし募る事すら出来ない身分では望むべくもない。
いざとなれば一方を犠牲にしたダッシュを試みるのが現実的とも言えるのか。
「ゴブリンさんッッッ!」
エーーッッ?
「見てください! 向こうに煙が昇っているのが見えますよッ!」
エ?
「ゴブリンさんッ? ゴブリンさん――? ……ゴブリン、さん……?」
あれ、声が、あれ? ェ、耳……が?
耳を掃除している時の周囲への警戒心は頭一つ出ますね。(^_-)-☆




