第28話〔死闘、最低な選択と最悪な結末〕④
面倒な出会いの後、今後の方針は――。
『――デ、ドウヤッテアウ?』
「ぇ、ドウとは?」
いや、まさか。
『シロニイクノカ……?』
「はい、姫様はお城に居ますので」
んなバカな。
『ムリダ』
「ぇどうしてですか?」
『ハイレルワケナイ』
しかも魔物を連れてなど以ての外。
「姫様とはこれからお会いする予定がありますので」
やっぱりな、そもそも気軽に会える様な立場の相手では――……フェ?
「今日はお城へ定期健診に赴く日なので、会えます」
イヤ、でも。
「行くのは私一人ではありませんが、前回……生き返る前の時は私が担当になっていたので、保障までは出来ませんが多分大丈夫と思います」
それは、……なるほど。
確かに可能性は十分にある。
しかしそれならば――。
『ナンテキクツモリダ……?』
「ぇ、魔物が攻めて来るので逃げましょうでは駄目ですか?」
――オウケイ、やっと安心した。
さすがにそこまで頭は回らないようだ。
ならば念入りに、計画を練るとしようか。
…
そうしてマリアとは一旦別れて行動する事となり二時間が経過した。
自分はその間に城や町から離れた周辺の様子を空から隈なく調べる作業を再開する。が。
取り分けて変わった所は、やはり何も無い。
本当にこんな平穏な状況が一変するのか……?
イヤ実際にしたから、あの悲惨な結果となった。
しかしながら、こうも変哲のない平原で突如として魔物の大群が押し寄せるなどと、想像すら付かない。
何より見晴らしの良いこの場所で、気付かない訳がない。
ま、だからと言ってこれ以上空から当てもなく眺めていては解決策に繋がる糸口すらも定かではない。
ここは一先ず――下りて休憩しよう。いい加減に疲れたわ。
城や町からは数キロ地点――平原の馬車や人などが行き交う街道から少し離れた木々の上、周辺の安全確認をしたのちに降り立つ。
まあ自身は、どこからどう見ても魔物なので人目は気にしなければならない。
という訳で平原にいくつか点在する感じで密集する木々の比較的目に付かなそうな場所を選んで降りた。
マリアと約束した時間までは、まだ少し余裕がある。
木陰で休むのも良いが正直小腹が空いた。
この辺は穏やかで気候も安定しているから森程の規模で無くとも果物などの食べられる実が成っていることも多い。
ただ、軽く周囲を見た所でそれらしい物は見当たらない。
フム……。
とりま、ゴブリンに戻って探してみるか。
小さなと言っても半径数十メートルの範囲で密集した木々。
確か地下水脈と大地に通う魔力の流れが重なり合う場所に起こる自然現象だったかな。
まあそれは、さておき――。
食い物食い物と周囲へ目を向ける。
――ぉ? 発見。
見たところ一般的によく知られた果実、が地面に落ちていたので拾い上げる。と。
ヌ? これは――噛み跡。
誰、イヤそれよりも断面の乾き具合からして、真新しい程に最近の。
刹那で切り替え、て悩むよりも早く、周辺警戒へと移行する。
緑が茂る穏やかな空間に異質な緊張が奔る、が取り分けて何の異常も感じられない。
そんなコトはない、確かな異物が落ちていたのだ。
人、いや魔物――だが人の気配は無いし魔物であれば、そもそも食事を必要としない。
心当たるのは一つ、しかし確証がない。
澄ませ、耳を、何より心を。周辺の状況に集中し僅かな変化をも拾う。
サク、再度同じ音が微かに。
居る――こっちだ。
全身の感覚に注力し過ぎて過度に感じる短い草を踏む足裏の刺激。
音を立てず、忍び進む先に、違和感の正体がある事を見越して――。
*
自分で言うのも何ですが、私は馬鹿です。
師である先生には〝愛嬌がある。それに言いたかないが女としては、自分よりも上だ〟
等と、おちょくられるコトは多々。
本当にヒドイ。
弟子がこんなにも苦労をしている時に傍にも居てくれないなんて。
まぁ、いつもの事なんですけどね。
「――治療士様、アンジェ様がお越しになられました」
「ぁハイ」
こうなったら何処かで見ててくださいよ。私、頑張ってますからッ。
*
小さな体を活かし茂みの中を潜る様にして進む。
――その行く先、緑を陰に葉の隙間から疑わしい光景を窺い見る。
音は然程気にする時間帯ではないが姿を見られては尾行の体を成さない。
そう、自分は現在、怪しい対象を追っている。
先刻僅かな切っ掛けを頼りに始めた調査は、直ぐさま尾行へと移り変わった。
そして程なく追跡は静かに足を止め、キョロキョロと周囲を確認する一体の魔物――例の亜種が何かを取り出す。
……何だ?
宝石の様に見えるがあからさまに怪しい、雰囲気からしても放つ光が異彩だ。
と次の瞬間、魔物の指を離れて空中に放られた石から魔力の歪みが渦を巻き発生する。
なっ、転移魔法――?
既存と比べて多少形状は異なるが都市部などに設置されているものと凡そ同一のモノだ。
しかし許可なく開くコトは禁じられている。
まあ魔物が許可を求めたりはしないだろうが。
とはいえ、そう簡単に使用できるモノでもない。
次いで当然の事だがそうこうしている間に魔物は一時的に開く時空の歪みへと消えて、次第に扉は収縮して無くなるのだ。
考えている暇はない、だが危険過ぎる。
言うまでもなく戻って来れる保障は無きに等しい。
……どうする?
決断、自分の選ぶべき道は――。
…
「お待たせしました」
約束の時間ぴったり、しかも何処か楽し気な雰囲気で現れたマリアによっと手を挙げる。
「長く待たせましたか?」
『イマキタ』
「それはよかったです。して、ゴブリンさんの方は? 私は、上々でしたよ」
『……マァマァダ』
――結果的に言うと危険は冒せなかった。
しかし現状は無理をする様な状況でも、理由も無いのが事実。
――なので先ずは。
『ハナシヲキカセテクレ』
「もちろんです、大変有意義な時間となりましたよ!」
それは楽しみだ……。ついでに後ろめたい気持ちとなりそう。
少々流行り病に伏せておりました。とか言っても、普段と投稿間隔そんなに変わりませんけどね……。




