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第22話〔絶望、運命の選択と逃避〕④

 



  *




 ――……コボルトか。


 幸いにも数は一匹。


 やはりさっきの仲間という考えが妥当、って。


 そんな事を悠長に推察している場合じゃない。


 推し測るにしても現場を打開する方法を、イヤ――実をいうと。


「……ロ、ロゼ殿、これはしくも起こった事……追って止む無しとして先にお逃げください。姫様のコトは可能な限り矛先を逸らす考えで対応をいたします……」


「ッ、……しかし、それでは……」


 若き執事が言った通り、お姫様側の様子は手堅い。


 だとすれば現状問題は一つ。


 慎重に――そして迅速に言葉を選ぶ。


〝ヒメサマ タスケル。――テツダエ〟


「……何? キサマ、余計なコトは」


 さあ、――変態開始だ。




  *




 行動順…、――先ずは状態を確認する。



 HP:14



 次は状況の把握――。


 敵コボルトが1体、空間内は自分一人、外界にはブリちゃん加えてロゼが目撃した筈。


 先手で攻撃を受けてしまった後、けれども生命値の分かれ目まで二動作は余裕がある。


 ただ現状の装備で倒すには恐らく攻撃力が足りていない。


 推測では動作にして二回分は、これでは単純に――私の方が先に……。


 不意と思い出す。


 そうですわ、回復アイテムが。


 と、そして思い返す。


 そうアレはブリちゃんに……。


 もしも渡さずにいたのなら、――いいえ。


 何を勘違いしているのでしょう。


 余計な感情はぶんぶんと頭を振るい、払う。


 必ず来てくれる、あの方を信じ待つ。


 私に出来る事はそれだけ。


 今こそ最も嫌う、お姫様らしい選択の振る舞いを。


 ――すると、突如として表し示される謎の見慣れぬ文言。が。



『応援要請を受け付けました、よろしいですか?』

  はい

  いいえ



 ェ――まさか、……そんな?


 どの様に考慮した上でも早過ぎる、まだ小一時間――十数分とすら経ってもいない。


 それなのに。


 分かる、どうしてかは全く分からない。けれども分かる、確信と。


 その選択に手を伸ばす。


 お願い、あの日と同じ様に――今一度、私の所へ!




  *






≪沼手≫

 等級:2、生息域:海(水域)。

 固有技能:誘い手。



 ――……変態完了。


 と先んじて、作られた新たな感覚に惑う。


 全身が手というのは不思議な体感だな……。


 それは文字通り一本の腕、もとい手首から先のみで形成された本来は末端の部分。


 現状それが自分の全身すべてである。


「まっ魔物ッ?」


 伝令の兵士君、まあ落ち着きなさい。


 今混乱されては後が差し支える。


 結局はこの場を収めるに自分だけでは力が不足しているのは確実なのだから、冷静でいてもらわないと困るんよ。


「キサマ……何を?」


 意外に君の方が沈着だな。


 まあそれくらいでないと、お姫様の傍らは務まらないな。


 ――てな訳で時間もない。


 さあお姫様、救いの手に確りとその指先を伸ばしてくれ、よっと。




  …




 等級は2、生息する区域は海と定義されているが沼地に出現する魔物。


 固有技能の〝誘い手〟は戦闘領域内での戦いに時間の制約を強いられる事なく参加、要請が可能となっている。


 仄聞そくぶんすると厄介な能力と思うだろうが、実際のところは本体の弱さと群れる習性から下級冒険者の経験値稼ぎに利用される程度の脅威にその認識は留まっている。



『ブリが戦闘に参加しました』



「――ブリちゃんっ」


 よし。さあ、お姫様――ここからは反撃のターンだぜ。








『行動順…コボルト(A)』


『コボルト(A)の攻撃→アンジェに、ヒット<6>…の状態異常』



 順当、狙いは生憎お姫様。


 状況は――。


 たいを向ける。


「……まだ、一動作の余裕がありますわ」


 ――よし。


「私の装備では痛手とはなりません、当番は防御を提案いたしますわ」


 好い子だ。


 ちゃんとしている、これなら。


「ブリちゃんは、更に応援要請を」


 勝ち確だ。




  …




 刹那の眩さ、広がる世界そして消えゆく領域球。


 ――時を置かず。


「アンジェ様っ」


 若き執事が戦闘を終えたばかりのお姫様に近寄る。


「ロゼ……」


 緊張の糸が切れたか、見るからに疲弊した様子の姫君。そうして。


「ロゼ殿、自分は前線へ……――姫様の事を宜しくお願い致します」


 次いで静かに頷く若い執事の敬意を払った感謝の言葉を受け、臆す素振りも見せずに一礼し兵士は自身が受け持つ死地へと去って行く。


 ただ単に見送る訳ではない。


 代表と呼ぶにも若過ぎる男、その執事たる業務とは掛け離れた責務を見据えている。


 と不意に違和感、もとい確信に変わる。


 これは――しまった。


「――アンジェ様、お疲れのところ折り悪く急がね――……アンジェ様?」


 見定めるまでもない。


 その顔色、呼吸の度合い、明らかな減衰状態。


「アンジェ様ッ?」


 これは中毒の、症状だ。








明けたら早いですね、明けおめ!(2月)

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