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第21話〔絶望、運命の選択と逃避〕③

 とは言っても、そんな感じで所持品から出されたのは乾燥した木の実だった。


「今はこの様な物しか、辛抱していただけますか?」


 いや……。


 我慢も何も、それは自身で。


「お気になさらず、私は先刻いただきましたから」


 だとしても現状は特に腹も減ってはいないし。


 しかし折角頂けると言うのであれば、食える時に食っておくのが冒険者である。


 有り難く――。


「ふふ、幾度かお手紙にも添えましたわね」


 ――甘。


 食って分かる、この味には飢えていた。


「突然の襲撃……そして束の間の敗走、懸念していた事が現実に起こりつつある――いいえ、実際に起きてしまったのですわ」


 ……? 何の事だ、あと急。


「それも含めて原因解明に急がなければなりません。先んじては港より東大陸オステンを出、中央へと渡って各国に連絡を――」


 モグモグ。


「――そうですわ、確かあの港町にはお父様の好むお酒を扱う店が」


 ごくん。


 ご馳走様。さて、どうやって伝えるべきか。


 とかくこの身体は話しがし辛い。


 いっそ別の、あの種族なら――身振りを媒介とした、手段を選ぶ余地のない伝達を。


「何はともあれ脱走の手筈を」


 ハッキリと断言しちゃったよ。


 本当に困り果てる。


 しかし、今更ながら決めた事でもあると思うのだ。


「決めましたわ、ロゼの協力を仰ぎましょう」


 いやぁ、無理だと思うが。


 と言うか逆に――。


「すれば早速」


 言いながら徐に立ち上がる。


 ――ヌ?


「少々ロゼと話をしてきますわ、ブリちゃんはこちらでお待ちを」


 ぇ、――ア。


「直ぐに戻りますわー」


 行ってしまった。


 すると直後に立ち止まり、――その振り向き様。


「なんだかワクワクして止まりませんの、ブリちゃんもですわ?」


 ナ――何を呑気な。


 だがそれも悪くないのかもしれない、もとよりこんな少女に何を背負わせようと言うのかだ。と思うが早いか。


「……何ですの?」


 葉が揺れ動く小さな音が次第に激しく、――確かな音となり。


 しまっ。


「キャーッ」


 駄目だ間に合わない。


 次の瞬間、眼前で広がる異空間が少女とそれを狙った悪意を呑み込む。




  …




 油断した。


 緑鬼類は基本徒党を組む。


 単独で行動する事は、珍しい。


 さっき倒した奴の相方か……。


 もっと周囲を警戒するべきだった。


 クソ、……どうする?


 錯綜する――後悔と対処、そんな中。


「姫様っ!」


 若き執事が離れていた所から声を上げて駆けつける。


 そしてその勢いを表情に残して地上から一メートル程の高さに浮く球を見詰め。


「こ、こんな……! 自分が側に居ながらッ、何で……っ」


 次いでキッと向けられる視線――。


 おいおい。


 ――が直ぐに逸らされ。


「悪いのは自分だ、離れた非は自分にある」


 ム。


「だがしかし、どうすれば……」


 自身を責める感情かそれとも糸口を見出す衝動的行為かクシャクシャと書き殴る様に若い執事が鮮やかな赤い髪を掻く。


 どうするも何もこうなってしまったのなら、やれることは一つしかない。


 とは思うものの、こんな状況カラダだ。


 為念的に――。


〝――マツ オウエン〟


 すると一瞬驚いた表情をしつつ。


「……これは姫様が贈られた鳩、こんな使い方があったとは……。そして当然そんなコトは理解している」


 ならよかった。だとすれば問題は……。


「……――心配ない、アンジェ様はそのくらいのコトは充分に把握されている。キサマとの出会いの後、これまで以上に熱心なお勉強をなされていたからな。だが、事はそれほど気楽な状況ではないんだ……」


 どういう意味だ……?


 途端場の空気を読んでいたかのように一人の兵士が、見るからに慌てふためく様子で来たると、開口一番。


「敵襲です!」


 なン。


「……敵襲、よもやこの状況で……っ」


 言を俟たず兵士の訴えは続く。


「ロゼ殿は我々が時間を稼ぐ内に姫様とお逃げになられよと仰せつかっております」


 マジか。となると、当然。


「それで、姫様の方は……?」


 辺りを見回しながら問う兵士、がその答えとなる球を見付ける。


「まさか……」


 そう、そのまさか。


 最悪である――。






 ――領域球、それを見詰める男二人と魔物一匹。


 戦闘遷移後は二十四時間、一日が経過しないと基本的に応援――追加で戦闘に参加が出来ない。


 ……通常であれば待つだけでいいが。


「く、どうすれば……っ」


 今しがた受けた報告では猶予は、無い。


「ロゼ殿……」


「じょ、状況は? どのくらいちますか」


「……正直今すぐにでもお逃げになられるのが、良策かと……」


 無論そうなる。


 連絡に来た兵士も当て付ける気などなく、そう告げるしかない。


「ぐ、こんな、有ろう事か……」


「……ロゼ殿、どうされますか……?」


 とまあ切羽詰まる展開の輪に立ち入る事すら許されないであろう、立場。


 だとすれば自身のやれることを探す為には先ず、中の様子を――。




  *




 瞬く間に侵食された現実が別の似た世界へと切り替わる。


 分かる。――恐怖は、今や無い。


 驚きこそしたが冷静に状況を見ることができる。



[コボルト(A)]



 緑鬼類、等級は2の陸の魔物。


 特徴は――、……単独? いえ。


 先刻の仲間だ。


 他に傾向としては。


「ガ、ガガガぁ」


 ニヤリと笑む、その開いた唇からのぞく鋭い歯。


 一瞬にしてゾッと冷たい感覚が体を支配する。


「ヒ……ッ」


 駄目、絶対に、心まで引き渡してはイケない。


 そうなってはこれまでと同じ、ただ護られるだけの存在に成り下がる。


 考える、考える、考えて、現状イマの自分に何が出来るのかを私に考えさせる。


 あれから一層学び密かに実戦も行った。


 あの時はロゼが居たけれど、今は居ないだけ――他は、何も。


 そう何も変わらない、私は居る、いつだって私はここに居るのだから遣れる事を。


「ガぁ!」



『行動順…コボルト(A)』









ガスコンロ、ガステーブル、ガスレンジ、全部コンロでした……。

よいお年を!

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