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第20話〔絶望、運命の選択と逃避〕②

「とんだ目に遭いました」


 状況的に仕方のない事ではあるが、言い掛かりを逃れその場で解放されたマリアがぼやく様にして言う。


 というか、よく一人でここまで来れたな。


 一応戻るつもりで待機を指示したのだが。


「しかしマリア様はどの様にして、この場に? 周辺には魔物も徘徊しているとの事ですのに」


「はぃですので何処かに身を潜めて待つ積もりだったのですが、その前に魔物に見付かって……死に物狂いで、逃げて来ました……」


 いや、だったら戦――、そうか加護が無いんだったな。


「それは大変な目に遭われましたわ……」


「ホントですよ……、――ん?」


 やっと気付いたか。


「ぇーと、何処かでお会いしましたか?」


「ええ城内で何度か」


「城内……? と言うことはお城の使用人さんでしょうか」


 おいマジか。


 確かに現状お姫様とは言い難い服装ではあるが、普通に分かるだろ。


 それ以前に、何度も。


「お掃除をするのは好きなのですが、残念ながら雇い主側の方ですわ」


「雇い側……ああ、ひょっとして奴隷貿易に携わる方でしょうか?」


 うおいっ。


 流石に無礼と動ける体に鞭を打ち、鳩を送る。


 結果その内容を見た馬鹿なとぼけ面が忽ちに青ざめ。


「ッハ――お大変ッ失礼を致しましたっ!」


 見応えのある跳び後退土下座。


「い、いえ、あの、以前に幾度かお会いしましたよね……?」


「滅相もございませんっ、私風情が姫様の御顔見て話すなど失礼過ぎて出来ませんッ!」


 失礼かそうではないのかなんとも判断が難しい。


「そ、そうでしたのね……。いえ、どうかお顔をお上げください」


「ひィッ、どっどうか首根だけはお許しくださいッッ」


 兎にも角にも落ち着け。


「首ね……?」


 と困った表情をし、お姫様の瞳が自分に向く。


 途端なにかに気付いた様子で。


「そうでしたわ。たしかマリア様は治療士であらせられるはず」


「ハヒィっ」


 何に怯えてるんだ、コイツはホント。


「……もし宜しければ、こちらの魔物さん。ブリちゃんを診ていただけませんか……? わたくしを助ける際に、足首を折ってしまいましたの」


 ついでに言うのなら全身も打撲気味です。


「ェ、ゴブリンさん……?」


 イヤずっとここに横たわって居ただろ。


「……お怪我をされたのですか?」


 見れば分かるだろ。と思いつつ頷く。


「それは大変です、直ぐにヒールを掛けますね」


 是非とも頼んます。


「あら、お二人には面識がございますの?」


「ぁハイ。――なんやかんやゴブリンさんと此処まで一緒に」


 なにもかも半ば強引に同行されただけだがな。


「まあそれはとてもステキな事ですわ。ブリちゃんに新しいお友達が出来たのですから」


 能力以外は願い下げたいところ。


「きっとブリちゃんがここまで辿り着けたのはマリア様のお力添えがあってのこと、大変感謝をいたしますわ」


「い、いやあ」


 照れるなよ。


 実際戦闘では助かっている様に見えるだろうが、事実単独なら危機的状況も楽に済む。


「それにここに残された者達も治療を必要とする者は多く、マリア様のお力は正しく神の御加護と言い表すに過言ではありませんわ」


「ェへへ、ままそんなぁ」


 ……。


「分っかりました! ですればっ救いを求める患者の所へ、と!」


 その急患がここに居るんじゃいッ。


「うガぁ!」


「痛ーッ!」






 おぉ……。


 完全に折れていた骨が、もとい痛みすらも無く――回復した。


「引っ掻くって、もう完全に魔物ですからね、ホント」


 いや、本当に魔物なのですが。


 そしてイテテと言いつつ見る見るうちに傷は無くなり。


「ともあれマリア様、多くの者が治療を必要としております。どうかお力を」


「ハイ、勿の論ですよ!」






 お姫様の指示を受け、やって来た兵士の男とこの場を去る救世主ならぬ治療士様マリア


 残る自分は周囲を刺激しない程度に身体の調子を確かめ、所持品の確認を行おうとした矢先に――。


「ブリちゃんッ逢いたかったですわっ」


 ――前日から続く女子の柔らかい感触、しかもこちらは増して匂いが良い。


「私、怖かったのですわ恐ろしかったのですわ心細かったのですわ」


 そう言ってグリグリと頭部を押し付けられる。


「もう二度と会えないのかと、ずっと不安でしたの」


 おおよしよし。


 ポンポンと頭頂を撫でる様に叩き、宥める。


 ただこれ以上は止めておこう。


「……アンジェ様、そのくらいに」


 木陰からその髪色以上の熱意、もとい殺意の籠った視線を――自分に、向けている青年執事が告げる。


「あらロゼ、居ましたの?」


「……――当然です。自分はアンジェ様の御側を離れる訳にはまいりません」


「あら、度々他の者と話をしに行ってるではありませんか」


「そっそれは必要に応じて仕方なく……!」


 これこれ、相も変わらず――。


「それでは主君が久方振りの親しき友人とお話をしているのです、場を弁えるのが必要不可欠ではなくて?」


「なっカ、……アンジェ様」


 ――顔に似合わず気立ての強い、姫様だ。


「……分かりました。しかしながら遠目には見させていただきます。それ以上はどう働きかけても従う気は一切ありません」


 そして彼もまた兼ね合う主従関係の気質の持ち主である。


「ありがとうロゼ、貴方が私の従者であったコトを心から嬉しく思いますわ」


「いえ、自分は感謝など……。――当然の義務を果たすのみです」


 きっと傍から見る以上に、二人の関係は特別なのだろうと。チョット悔しい。






 とまあ素直に従ってくれた若き執事、が離れた場所から送り続ける朱い視線を姫様越しに受けながら――話は進む。


「お父様は自ら王座にとどまり近衛兵と私達が脱出する時間を稼がれたのです。……ご無事であれば良いのですが」


 ふム。


 城を出る前、雑にではあるが一通り目を通して来た。


 が、殆どがもぬけの殻。


 遺体がこちらに残った者も、この身体の片手にも満たなかった。


 加えて玉座の在る部屋を見た感じ――。


「ぅが……」


 ――計らずも予想が声に漏れる。


 言っちゃ悪いが。


「ですが覚悟は出来ています。王の娘として、私がすべき事はもう決まっております」


 ム……? ――何を。


 するとその心持ち、気合いを入れる為か胸の前で握り拳を作り。


「冒険ですッ旅立つ時がとうとう来たのです!」


 ハフェ?


「王は倒れ、国は滅び、身分を失いし今、かねてより目論んでいた旅へと出発するに絶好の機会と思いますわっ」


 な、何を。


 あと内容的にも少し抑えた方が。


「当然ブリちゃんも、ご一緒していただけますわよね?」


 近ィ。


 それでもって、それはそれとして、それよりも、だ。


 言葉にならない分自然と態度で表すしかない。


「出発は今夜の内、皆が寝静まったのを見計らい」


 駄目だ全くこちらを見ていない。


 なので、指先でちょいちょいと興奮気味な相手の裾を引いてから――改めて示す。


「ブリちゃん……? ――いえ、そうですわね。私、浮かれてしまっていましたわ」


 うムうム。


「腹が減っては胃が痛い。冒険者に成る者として、出発点となる初歩を踏み外してしまうところでしたわ……、先ずはお食事を致しましょう」


 なんでやねん!








若干執筆速度が落ちていますが時期的な問題です、安心してください。書いてますよ!

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