第18話〔変革、AT戦闘でのリアルな選択と失意〕⑥
…
開始はシンボルエンカウント――対象に最も早く触れた者が権利を得る。
人間または魔物側から接触した際その場で戦闘空間が形成され強制転移、そこでターン制のコマンド選択バトルを行う。
そして戦闘に勝利した者は空間から強制退出させられて敗けた側は消えて無くなる。
――加護の法則は、人を対象とするあらゆる危機的場面を選定し、働き掛ける。
それがこの世界を支配する自然の――摂理、だ。
『行動…不明種』
「ひぃッ」
『不明種の攻撃→マリアに、ヒット<5>…』
な。
次ぐマリアが自身を魔法で回復する。
また過剰なヒールを――イヤ、そんな事よりも。
何故順当に行動が回らない……?
なにより加護の法則が。
「や、やっぱり加護がっ、神様の加護が壊れてしまってるんですよっ」
壊……確かに以前そんなコトを言って――。
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いったい何が起こっているんだ、と。
二大神の加護が壊れたなどと意味不明な事を告げる、同じ寝袋に入っている相手を下から首を伸ばしてほぼ垂直に睨む。が殆ど胸の隙間に収まっている為か視界不良以上に首筋の方が悲鳴を上げそうなので、即行で思い切り――。
「……ゴブリンさん、なにモゾモゾとしてるんですか……?」
したくてしてるワケではない、全ては肉の所為だ。と。
〝――カゴ ガ コワレタ ドウイウイミ ダ?〟
「ぇっと、私もよく分かってはいないのですけれど……加護の力で起こるはずの順当を無視して魔物が攻撃してきたのです……」
なヌ。
「最初は兵士や騎士さん達が誤って身を守る決定をしたのだと思いましたが、皆さんの動揺した感じとか記録の感じが今までとは違った雰囲気で……」
雰囲気が違う……?
それはどういう。
「私、思わず怖くなって……その戦闘が終わって直ぐ、その場を逃げ出してしまったんです……」
おい。
「無我夢中で、私……」
位置というか状態的に相手の表情は見えない。
ただその声調には自身に対する失意と、誰かへの罪悪感の様なものが感じられた。
……まあ、新人冒険者が仲間を置いて逃げるなんてのは、よくある話。
まして臨んでもいない危機に突然参加させられたのであれば尚のコト。
とはいえ下手な慰めや励ましは逆効果になり兼ねない。
「私、本当は悔しいんです……いつも、情けない自分が、怖くて怖くて小さい頃からずっと……病気なんです、臆病者の」
……。
「だからでしょうか、臆病だから――神様すらも私を護ってくれない」
ったく。
〝――キニ スルナ〟
「……ありがとうございます。ハハ、私ったら魔物に励ましてもらってますね」
〝ビョウキ ナラ イツカ ナオル〟
「ゴブリンさん……、臆病は病とは違いますよ?」
この女、毒を喰らわせてやろうか。
「でも、ありがとうございます。少し元気が出た気がします」
▲
――若干関係ない事も思い出したが、確かにマリアの言った通りだ。
『不明種の攻撃→マリアに、ヒット<3>…』
そして慌ただしく自身を回復する。
MPは――元の数値から全く変わっていない。
さすがは自動回復持ち、如何様レベルで驚異的だな。
というか自動ヒーリングなのだから、わざわざ回復せずとも、この程度の相手なら攻撃一途で――。
「ひっ」
――……余儀ないか。
しからば、面食らいはしたものの先ずは戦いを終わらせる方向で。
「ガぁ」
「ひィ!」
いや、今のはオレだし。
無事、共に戦闘空間からの復帰を成し遂げる。
まあ相手がよかった。
戦闘力が絶望的な二人でも、最下級のゴブリン種が相手ならばほぼ無尽蔵な回復で負け筋がない。
――本当に驚異的だ。と。
やたらと呼吸を乱している喋らなければそこそこ美女を、見遣る。
「ゼーハっ、ヒュ、っ! ハッ、ハーハァー」
「……」
一応軽く回想して確認しておくが、これらを踏まえて望んだのは、忙しなく息をする当の本人、マリア自らだ。
〝――ダイジョウブ カ?〟
「ハ、ハイっ……生きてます!」
そういう意味ではないのだが……。
〝ヤメルカ?〟
「ゥ、……まだガンバリます」
分かったと頷く。
一夜が明けて、まだ午前中だが薄明の中を進み来た。
今は完全に陽光が差し込み進行する上では支障ない。
ただいつまで気持ちが付いて来るか。
「まだ……まだ怖くても、まだ……」
新米に在り来りな事だが。
――それで良い。
現状は前へと進むのが肝心だ。
ただ今し方の戦闘、順当だけではない異様な雰囲気。
一見すると従来の様相に思えるが部分的に違った。
特に眼が光を放っているのではないかと見間違える程に血走った悪意、イヤ殺意に満ちた形相で。
「ゴブリンさーん、大丈夫ですかぁ?」
ぅん――。
「――うが?」
「ぼ、ぼーっとしていたので……」
ふム。――どうやら多少は落ち着けた感じだな。
ならばと小さく手を振る事で問題がないのを知らせ、次いで歩き出しに行くぞと手頃な位置にあった相手の尻を叩く。
「ダハぁん、――ちょ、待ってくださいっ」
元よりお姫様を見付けるのが自分の目的。
そして先に行った二人を追い掛けようと朝っぱらに言い出した、その始末を付けに。
――最弱のパーティが再出発する。
「魔物さんには分からないと思いますけれど……、急に女性のお尻を触るのは巷では嫌がらせって言われてるんですよ」
「……」
「あと先生が、触らせるのなら甲斐性のある奴にしろって」
よしと歯を見せてニカッと笑んでやる。
「ひッィ」
まったく、グダグダ言ってないで、さっさとしてくれよ本当。
変革、AT戦闘でのリアルな選択と失意/了
世間では値上げが続いておりますが〝ゴブ生ま〟も次回につづく。




