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第17話〔変革、AT戦闘でのリアルな選択と失意〕⑤

 ――魔物図鑑。


 これはお姫様から受け取った物の中に入っていた至って平凡な品だ。


 それは文字通り魔物に関する情報、生態などが記載される――コト冒険者に関して言えば著しく大事な書物だ。


 しかしながら本と言っても実質形状なもので内容は直筆された物とは違い、ちょっとした魔法が付与された更新型の書冊となっている。


 まあ実際に刷新するにはギルドへ出向く等、情報を改められる所に行く必要はあるが。


 言うまでもなく冒険者からみて、これほど命に関わってくる知見はない。


 ただイマの自分は冒険者でもなければ人ですらない。


 現状敵を知るというより、己をより理解する為に開くのが専らだ。


 さて、ブックでの開示は済んだし、お次は図鑑に記入されるであろう目新しい情報を探して見るとしようか。


 開示書による認識、そして図鑑への認証を経て新たに加わる記録的瞬間。


 まるで未発見の迷宮を見付けた時の様な鼓動の強まり。


 さあ予測する事柄に見当を付け、開き見る。



≪スティンジーバード≫

 等級:1。


『新情報』

 対象個体がLv2になると〝特技:鵜の目〟を覚える。



 ――鵜の目、やはり初めて見る名称だ。


 鷹の目とは別物なのか?


 ま、詳細を見れば分かるっと。



[鵜の目]

 特技。

 実際の効果は未知数だが、その目付きは鋭い。



 ……――何これ?


 なんだ鋭い目付きって、眼差し? そんなので大切な動作を消費できるか。


 まったく。


 少しは役に立つものかと期待をしたが所詮は万年嫌がられる魔物首位。


 戦闘でも、遷移ではロクにダメージを与える事が出来ないので不毛だし。


 できればゴブリン――いや、更に上の。


 途端急に外が騒がしくなる。


「治療士様ッ宜しければ出て来れますでしょうかっ?」


 なんだナンダ。


「ェ? ぁ、ハイ」


 ぇ、ちょ。


 透かさず自分優先、入り口から見えない陰に隠れて身を潜める。


 そして予期した通り無防備な格好のまま天幕の布地を捲る金髪美女を、傍目に。


「ち治療士様ッ? そ、その様な格好では……っ!」


「ェ? ――……、、」


 次いで上がる女子の悲鳴。


 その間に変態を済ませ、準備は整ったものの出張る場面でもないので。


 ――眼光炯々(がんこうけいけい)、鋭い眼差しとやらを取り敢えずしておくか。


 キラりんと。






「……もうお嫁に行けない身体になりました」


 何を勘違いしているのか、それに悪いのは体と言うより頭の方なのでは。


 と、一応女子らしい目標は持っていたのだなと内心で思いながら着替えをして野営地から直ぐそばの集合場所へと向かうマリアの肩に着地する。


「お待たせしました……」


 あからさまに余所余所しげな態度を見せる。


 だが肝心の対象二人は目を合わせる事もなく向こう正面木々の合間から星空を客観的に分かるほど注意して見つめていた。


 そして単眼鏡を手にしていた男が徐にもう一人の方を向き。


「隊長、僅かではありますが、やはりまだこちらの方角で煙が上がっています」


「そうか……なら、直ぐに出立の準備だ」


 次いでハイと返事をする男が野営側へと去ったのち既知であったかの事実は定かではないが自分達を見、性急な様子で距離を縮めて隊長が開口し。


「治療士様、折角の安息時に声をおかけして申し訳ございません。実は先刻見張りを行っていたところ、いささか距離はありますが我々の目指す方向にて煙の様なものが上がっているのを発見し確かめました」


 なるほど。


 今の状況からして検討より直接と言った感じか。


「延いては私共が先行し真相を確かめるべく偵察へと向かいたいのですが……、宜しいでしょうか?」


「ェ、今からですか……?」


「無謀である事は承知の上です。ですので治療士様達はこの場に残り、私共の帰りを待つか……独自の判断で身の安全を第一にお考えください」


「で、でも、明るくなってからでも……」


 普通はそうだろう。


 時の流れはこれから夜を深くする。


「はい。……――これは決して勇気のある話ではありません、ただ危険と指摘されるだけの無闇な一存です。しかし正解はさておき今この場を離れなければ、直ぐにでも向かわなければとそう私自身が告げている様な気持ちに駆られるのです。どうかお許しください」


「ゆ、許すも何も、私は……」


「万が一に備えて魔物が嫌う香木で作った匂い袋をお渡しします。こちらは燃やす事で効果を発揮する形式の物ですので、いざという時にお使いください」


 と素直に受け取るその顔は何故か惚けて見え。


「それでは準備が整い次第、部下と出発します。治療士様も、どうかお気を付けて」


「ぁ、ハィ」


 そうして改めて礼をする隊長が去る、その背中をぼけっと見送る。


 もしやコヤツは……。




  …




 二人組みの兵士が闇深い夜の森の中へと去った後。


 開けた天幕の布地から燻ぶる焚き火の明かりを見る様に膝を抱えてテント内で座る。


 ――マリアは、一言も発さずに何か思いを馳せているみたいだった。


 自分はというと人目を気にする事が無くなったので、文字通り手足が伸ばせる平生で持ち物の整理などをしている。


 冒険者たるもの所持品管理は基本中の基本。


 ――まっ今や何の利益があって試みているのか、そもそも魔物だし。


 てな具合でゴソゴソとやっていると不意に。


「……命って何なのでしょうね」


 青い、だが素っ気無い対応はしない。と送る。


〝ドウシタ?〟


「……ぃぇ、なんでも。――ぁ、やっぱり話してもいいですか?」


 やや小馬鹿に御自由と言った顔で頷き返す。


「どうもです。実を言うと私、中央大陸の出身者なのです」


 何が実なのかは分からないが暫く黙って聞き置く。


「中央大陸の、北に在る小さな農村で三年前まで暮らしていました。そして身売りされ、今の医療施設に来たのです」


 ああ、だから出稼ぎって言ったのか。


「遊女の買い手でなかったのは幸いでしたね。と言っても、私にそんな価値はありませんけれど」


 ……。


「ここ笑っちゃって良いところですよ」


 ならお言葉に甘えて、ニチャアと。


「……ヒ」


 本当に、どう接すれば良いのだろうか?






 それではと仕切り直す感じで。


「両親の医療費代わりに売られた身でしたが、私を引き取った先生は弟子として扱ってくださり施設での仕事する一方で借金の返済も兼ねいずれは自由にしてくださると約束を」


 めちゃくちゃイイ先生やないか。


 となると気になるのは当然、と――気掛かりな見方になり。


「ぁ、えーと先生は暫く行方不明中です」


「ゥガ?」


「ィ、時々ふと居なくなって……、急に帰って来るんです」


 ……なるほど。


「きっと先生が居れば、もっと命が助かったかもしれません……」


 ふム。


 そう言いたくなるのは分からなくはない。が。


〝キニスルナ〟


 と同じ感情に乗り合わせる事はせずに宥める。


 それよりも――。


〝――コレカラ ドウスル?〟


「ぇっと……眠たいので、取り敢えず寝ます」


 弱音を吐くかと思えば意外に図太い、女子の性格って本当にいちじるしいよな。








ここらで、作品名やあらすじの内容を見直すのもアリでしょうか……。

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