第15話〔変革、AT戦闘でのリアルな選択と失意〕③
決定力に欠けた戦いの末、他者の介入に因り助かった二人組の兵士らしき男達が改めてマリア相手に礼をする。
「ありがとうございました。貴方の助力で無事部下を死なす事なく戦闘を終えることができました、心から感謝いたします」
そしてその部下と思しき片方の人物が一層深く頭を下げる。
「い、いえっ、私はそんな、たまたま近くに居て……」
しかも魔物に蹴飛ばされて入った、とは言いがたい。
「――本隊を離れ、敵の追撃を防ぐ立場ではありましたが最後に残った部下をせめて死なせたくないという私情が決断する気持ちを妨げてしまい……、隊を率いる者としてお恥ずかしい限りです」
「――……隊長。じ、自分はッ」
「そんなコトはありませんっ、人の命を大事に思うコトは恥ずかしいと思うコトではないのですよっ!」
……。
「アナタも、その部下さんもっ、助かったのですから喜ぶべき時です!」
なんだコイツ恥ずかしいな。
「……君は、――失礼、助けてもらったばかりで不躾な質問と思いますが、貴方は何故この様な所に?」
「ェ? ぁ、わっ私は――従軍治療士として、任に当たってまして……」
「従軍治療士? なるほどっ、そういう事でしたか!」
と途端に威勢が良くなる相手を見て、傍で戸惑う様子を見せるマリア。
「そうであるならば、是非このまま私共と一緒に皆の所へっ」
「……み、皆の所……?」
次いでハッと気がつく様にして相手が興奮気味だった態度を安定させる。
「――し失礼しました。ご存知だと思いますが先の戦いで国王は敗北を悟り可能な限り生存者を連れて避難する事を指示されました。私達はその際にアンジェ様を守る護衛隊として同行したのです」
なヌ。
「ですので、治療士様には共に本隊へと合流していただき負傷者の看護などをお願いしたいと思うのですが……」
少なからず情報を得られればという見込みだったのだが、――これは運が良い。
と思わず後押しする合図を考慮せずに送ってしまう。
「わ。えっと、行けってコトですか……?」
結果今になって男達の注目を集める事となり、明らかな緊張が場に漂い出す。
――……不味ったか?
「……し失礼ですが、その肩に乗っている鳥は、魔物……?」
「ェ? ぁ、はい」
おい馬鹿。
「なな何をッ?」
ああもう、それ見たことか。
「ェ? ェ」
さて、どうしようか?
完全に、ではなく警戒心を最大に一触即発。
未だ武器を抜かず二人の兵士が柄に手を添える。
そんな緊迫した空気の中、相手側の出方を窺う素振りすら見せる事無く。
「まま待ってくださいっ、ゴブリンさんは私の――とと友達なんです! そっそうッお友達ですッ!」
本当に馬鹿な奴。
「お友達……? ――何をバカな」
ホント同感。
故に、逃げる事を選択に入れておくか。
すると部下の男が何か思い当たった様子を見せ。
「……隊長、自分少し前にアン――姫様が、魔物に助けられたという噂を聞いたことが」
「む、その話であれば、私も耳にしたが……」
「噂ではその魔物はゴブリンと聞き及んでおります」
ムウといった感じで注目度を高める男と目が合う。
これは……。
次第によっては逃走せずに済みそうか?
と淡い期待を抱く。
がそういう時に余計な発言をするのが――。
「そ、そうですっ! そのゴブリンさんがッです!」
――いいから黙ってくれ。
下手に後押しなんかすると非合理に疑われる。
「……ですが、と言うより、その魔物はどう見てもゴブリンでは……」
ダメだ決定的な。
「ェ、――ぁ、ナ、名前がゴブリンさんですっ!」
いや強引過ぎる。
ところが、何故か。
「ぁーなるほど……」
鳥のままヘっとなる自身を横目に穏やかな動作で柄に添えられていた手が下がると、もう一人の手も落ち着く。
ぇ、マジで。
「実は私の知り合いに野鳥を手懐けて狩りの友としている者が居まして」
イヤ、鳥と言っても自分は魔物。
「おそらくはそれに相通ずる事とお見受けしました」
そんなバカな。
「事実、治療士様と接触状態でありながら戦闘遷移していない時点で通常の魔物とは異なる実態であると分別できます」
「な、なるほどぉ……」
余計な事を言う前に先ず相手の言ってるコトが把握できていないといった感じか。
まあ今はそれが良し。
「しかし、改めて拝見しましても、信じ難い状況ですね……」
寧ろその速度でよく受け入れたモノだよ。
ただおかげで無慈悲な選択をせずに済む。
「――ぁ、よかったら触ってみますか?」
おい。
犬や猫等と同じ扱いにされて堪るか、――こちとら中身は。
「ぇ……良いのですか?」
――イイ訳が。
「もちろんです、噛んだりしませんから。ですよね? ゴブリンさん」
ヌぐゥ……。
此奴め、態とか。
*※
――数ヶ月前、私の居る東大陸である事件が起きた。
それは突如として魔物が村を襲ったというもの。
しかも略同時期に複数、場所の異なる村でそれは起きた。
その内の一つが領土内だった為、父である王は兵を派遣して調査させたが当時を知るであろう村人は一人も見付からず、結果として実態を把握する事が出来ないまま突発的な魔物の行動であると結論付ける。
不謹慎ながら、私は胸をワクワクと興奮した。
当然犠牲者の事を思うと心は痛む。
けれども謎を残すその事件に、私は惹かれた。
…
――あの日、お父様だけでなく周囲にも本当の事は告げず、顔見知りの商人が居る港町へと赴き事件の事を探り始めたあの日の帰り道で。
運命と――、呼ぶべき出来事と遭遇した。
それは強者と言うには力で乏しく、勇者としては在り方からして難しい。
けれども勇敢な行動だ。
何故そう思うのか? 答えは他愛無い。
窮地を救われたから。
正直、――驚きました。
自分にその様なお姫様の一面があった事や恐怖で身が竦む事、色々と――沢山の発見があり私は予想外の、自身の反応に惑う。
ただ一つ、胸の高鳴りだけは疑う事をせずに。
※
生い茂った木々が成す森の中、空の日は暮れる。
周囲は刻一刻と変化する兵に囲まれて、――また一人。
そして目の前で繰り広げられる戦闘遷移で残された空間がまた狭まる。
「おいっ、これ以上さがるな! 姫様が巻き込まれるぞっ」
「で、ですがっ、うわッ」
また一つ領域球が増えた。
「くっ、このままでは間が持ちませんッ!」
ああ神様、どうか今一度勇敢な彼の姿を一目、見るまでは。
暑さ寒さも彼岸までって……、彼岸て何時よ!グデ




