第9話〔変態、等級変化における魔物の選択〕③
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――等級1、ゴブリンと並ぶ最下級に位置する魔物スティンジーバード。
そのコソ泥な生態である鳥型の魔物は、迷宮だけでなく地上にも出現し冒険者だけでなく多くの民を困らせる。
だがそもそも第五元素で構成される世界の不純物である魔物は人間や動物で言う栄養を必要とせず、食糧等を盗む必要性は無い。
ただ人間など他の生き物が嫌がる事をする。
ある意味で純粋な不純物としての在り方を体現しているとも言える存在。
無論その戦闘力は無いに等しい。
と――到着した。
久し振り、一ヶ月振りに見る王城その姿は――。
……なんてこった。
――風に晒される瓦礫と立ち昇る白煙に囲まれ静かに佇んでいた。
凡そ一ヶ月前、成り行き任せで行動を起こした末に招待された華やかな場所。
其処が今や酷く不気味ですらある。
そんな城の現状を捉えつつ、途中目にした城下町を顧みる。
全体的に跡形もないという訳ではないが壊れ方が異状だ。
そもそも一口に戦争と言えても、実際はそう簡単に始められるものではない。
冒険者などが迷宮に挑む際がそうであるように、何事も準備が必要。
国家間ともなればその規模は計り知れない時間をも費やす。
仮に条約違反の奇襲だったとしても二大神の加護が在る以上は人間同士の争いは膠着状態に成り易い。
とはいえ単純に数の多い方が有利である事は大規模戦闘だとしても変わりはない。
にしても……。
建物に対する損害が多過ぎる。
……何で、あんな風になるんだ……?
一先ずこの辺で。
空からの散策を終え、城の壁に空いた手頃な穴から城内へと入り安全そうな梁の上で変態を行う。
もし敵となる相手が居た場合、鳥のまま戦闘になると不利過ぎる。
と言ってもゴブリンだって大概だが。
まあどちらにしろ戦闘になれば即アウトくらいに思ってはおかないと、簡単に。
途端カンッと甲高い音し直後カランカランと城内の石床を何かが滑る音。
うわぁ……。
行くべきではない。
自分の事だ、誰よりも頭では分かっている。
なのに――行動が伴わないのは、何故なんだ?
状況の分析、と言っても完全に視覚頼りの元戦士脳。
……おいおい。
梁の上を移動し崩れて偶然空いていた穴から音のした、部屋へと入る。
そして直ぐに眼下となる室内で音の出所を発見した。
動きがあるのは二つ、部屋の一番奥で壁に背を預けて座り込んでいる騎士の前で自分達へとにじり寄る魔物と対峙するやや軽装で小柄な騎士。
「ひィ」
いやいや。
オマエ武器はどうした? ――ぁ、アレか。
魔物側の後方、部屋の通常出口となる扉付近に小振りな剣が落ちている。
という事は先ほどの音から推測するに。
「こ、来な……!」
投げたのか、なんてバカな騎士だ。
普通に考えてそんなコトするか? ましてや訓練して、習っているだろうに。
平和ボケというやつなのだろうか。
だとしても新米冒険者ですらやらないレベルの失態だぞ。
……全く。
何もかもが好都合だ。
相手は格上だが注意は完全に目の前の獲物へと向いている。
その背後には自身でも扱えそうな小型の刃物。
加えて魔物間の戦いに加護は発動しない。
本当に、好都合だ。
――ドサッと倒れる自身と比べてやや体格の増した緑鬼の類い。
上から飛び下り拾った短剣で急所を一突き。
若干物音が立ったので気付かれそうにはなったが有利性の覆る程ではなかった。
故に一安心。
で、だ。
「……ヒ」
ゴブリン程度に怯えている騎士な奴と、この後どう接すれば良いのだろうか?
危機感を持った人間に近づくのは正直避けたい。
一応武器は手中に収めたままだが、戦闘となれば実力だけがものを言う。
其処では精神的動揺が干渉をしない以上到底有利にはならない。
なので――。
「ひ……、ェ?」
――ちょいと通してくださいと言いたいが言えないので極力刺激しない様、手持ちの刃物は逆側に持ち替えつつ素通りする。
さて、と。
「何を……?」
座り込む騎士の下から鎧兜の隙間に手を入れ、脈を確認する。
駄目だな。
次いで見込みなしと判断し、まだ比較的現実みのある方へと向き直る。
「ヒィ」
おいおい……。
見るからに戦う意思はなく、何故か顔面を守る様に縮こまる持ち主であろう相手に剣の柄を向けて差し出す。
「がう」
「ひィ!」
おっと、これは自分の不注意。
結果余計に小さくなってしまった相手を見、直接渡すのは無理だろうと判断。
代案的そっと足元に物を置く。
そして今度は声には出さずに。
達者でな、と言う気持ちをもって部屋の出口へと歩く。
「ヘ……?」
率直に道草を食う暇はない。
――食べられる草なら確保はしておきたいが。
ともかく、出来る限り、さっさと安否を確認したい。
護衛や道案内ができる人材ならば未だしも、自身ですら危うい状況で足手まとい等は。
「ま、待ってくださいっ。アナタはひょっとして、姫様がお話になっていたお友達のゴブリンさんでは……?」
これは驚いたと足が止まり――。
声色からして。
騎士、女だったのか。――と振り返る。
やや手こずりながらも自ら脱いだ兜の下の素顔。
「い今しがたは命を救っていただきまして、大変感謝をいたします!」
深々と、下げる頭の髪留めが勢いで外れ纏まっていたものが一気に解放される。
「ぅわッ」
なんだこの女は……。
「ス、スミマセンっ」
鎧を着てる以外に騎士っぽさが全く感じられない。
というか何ならそこそこの美人だ。
「……量が多いと、直ぐに留め具が壊れちゃうんですよね……」
なら切ればいいのにと思いつつ、新たな物で髪を留める相手を観察する。
「よしと、――お待たせしました!」
取り敢えず一々騒がしそうな奴ではありそうだ。
投稿が遅くて申し訳ありません。m(_ _)m
公開をしている別作には完結済みもございますので、宜しければご一読ください☆




