第99話 覚えてる?
「ただいまー」
俺は家の玄関で靴を脱いでネクタイを緩める。
「おかえりー」
リビングの方から瑠奈の声が飛んで来た。
俺もリビングに入るとソファーに体を預けた。
「お兄ちゃん、最近帰り遅いね。ご飯、先に食べちゃったよ」
「そうだな。今、事務所で大きなアイドルオーディションがあるからな」
あのオーディションが始まってから一気に忙しくなった。
「とりあえず、手洗ってご飯食べたら。たまにはお酒でも飲む? 付き合うけど」
「ビールあるか?」
「うん、あるよ」
「じゃあ、飲もうかな」
そういうと俺は手を洗うために洗面所へと向かう。
シャツの袖を捲って手を洗った。
「今日もうまそうだな」
リビングに戻ると温められた夕食が並んでいた。
家に帰ったら暖かい食事があるというのは感謝でしかない。
「はい、お兄ちゃんのビール」
「お、ありがとう」
瑠奈がビールの缶とグラスを俺の方に置いてくれた。
「はい、乾杯。今日もお疲れさま」
「乾杯」
俺は瑠奈とグラスをぶつけた。
「ああ、美味いな」
仕事終わりのビールというのはなぜこうも美味しいのだろうか。
疲れた体に染み渡る感じがする。
「そういえば、お兄ちゃん忘れてないよね?」
瑠奈が突然尋ねてきた。
「ん? 何をだ?」
「やっぱり忘れてる」
少し呆れたような表情を浮かべている。
「もう少しでお兄ちゃんの誕生日でしょ!!」
「ああ、そういえばそうか」
俺はすっかり忘れていたが、後一週間と少しで誕生日を迎えることになるらしい。
最近、一年というものがどんどん早くなっているように感じる。
これが歳をとるということなのだろうか。
「何か欲しいものとかないの?」
「欲しいものかぁ。この年になるともう無いよなぁ。もう、30目前だよ?」
「まあ、そうだろうね。お兄ちゃんはアイドルのことしか考えていないもんね」
瑠奈はもはや呆れている。
「俺がアイドルオタクみたいじゃないかよ」
「違うの?」
「いや、違わないな」
事実、俺はアイドルが好きだし尊敬している。
だって、最高にかっこいいじゃいか。
青春の全てをかけてアイドル界のトップを目指すのって。
「まあ、いいけど。誕生日当日は早く帰ってきてよね。ちゃんと一緒にご飯にしよ」
「うん。分かった。ありがとうな」
俺は本当にいい妹を持ったと思っている。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて言った。
「お粗末さま」
俺は食べ終わった食器の類をシンクへと持っていく。
そのまま食器洗いを済ませると、自室に向かう。
「さて、ちょっとだけ仕事するか」
今日はお酒も入っていることだし、少しだけWhiteの今後のプロモーションを考えることにした。
最近はオーディションの方に時間を取られがちだったが、Whiteもワンマンライブを控えているので、そちらの準備をしていかねばならない。
お読み頂きありがとうございます!
本日、新作の異世界恋愛を投稿しました。
「お前の嫉妬に耐えられない」と婚約破棄されましたが、これって私が悪いんですか?〜宮廷魔術師に推薦されて、何故か王国の次期騎士団長様に守られる生活が始まりました〜
という婚約破棄ものです。
こちらも評価やブクマをして頂けたら大変嬉しいです。
広告下、目次下から飛べるようにしておきましたので何卒!!