第54話 ランチに
俺たちはランチを食べながら積もる話に花を咲かせていた。
「にしても、先輩がアイドルのプロデューサーになるとは思いませんでしたよ」
「俺も今、生きて不思議なくらいなんだよな」
俺はほぼ何のプランも決めずに大学を辞めた。
前の社長がたまたま俺を拾ってくれたから生きてこれただけだ。
「先輩、今の仕事向いてると思いますよ」
「なんで?」
「だって、先輩人脈すごいじゃないですか」
千鶴はニコッと笑って言った。
「何でお前が知ってるんだよ……」
「学生の頃から先輩の人脈には驚かされることがありましたから」
確かに、大学生だった頃も人よりは人脈があったかもしれない。
ただ、それは今となってはまだまだだと思っている。
「そういう仕事って人との繋がりが大事なんですよね?」
「まあ、確かにそうだけどな」
俺の武器は人脈である。
その他は特に取り柄のない普通の26歳である。
「それだったら俺からしたらお前だってすごいさ。男社会で中々出世しにくい警察で警部補って。所轄なら係長クラスだろ?」
「そうですね。でも、私は剣道補正もありますから」
「ああ、そうだったな」
警察の剣道大会で優勝するくらいの腕なら、組織から一目置かれても不思議ではない。
そうこう話しているうちにランチを食べ終えた。
「今日はありがとうな。色々相談に乗ってくれて」
「いえ、先輩の頼みですし、市民を守るのが警察官ですから」
千鶴は誇らしげに言った。
「頼りにしてますよ。ここは、俺が奢るから」
俺は伝票を自分の方に持ってきた。
「じゃあ、ごちになります!」
「はいよ」
お会計を済ませると俺たちは店を後にした。
「じゃあ、その女の子に何かあれば私に連絡するように伝えてください」
「分かった。助かるよ」
「いえいえ、それじゃあ私はこっちなので」
千鶴は俺と反対方向の電車に乗るらしい。
「おう、気をつけてな」
「はい! それじゃあ先輩もお気をつけて!」
そういうと、俺は千鶴と別れた。
「さて、俺も帰るか」
電車に30分ほど揺られて帰路に就く。
「久しぶりに佐藤さんにも挨拶した方がいいよな」
俺はスマホでメールを作成する。
きっと、佐藤さんは忙しい人なのですぐに会うのは厳しいと思っていた。
しかし、その反応は違った。
『娘が世話になっているそうだな。近いうち会いたいと思っていたところだ。今週末、時間を作ろう』
メールの内容を要約するとこんな感じの内容であった。
今週末なら俺も午後なら空いているので問題ない。
大手企業の代表取締役ともなれば相当スケジュールが詰まっているだろう。
そんな中、わざわざスケジュールを割いてくれた佐藤さんには感謝しかなかった。
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