第52話 相談
俺は千鶴と剣道場で対面する形で座っていた。
「それで、相談ってなんですか」
「うん、うちの所属アイドルがストーカーみたいなことされているみたいなんだよ」
「なるほど……」
千鶴は真剣な表情になった。
「具体的にはどんな感じなんですか?」
「まあ、後をつけられたり見張られているような視線を感じたりだな」
「ああ、それだけだと弱いかもですねぇ」
「やっぱりそうだよな」
実害が出ていない以上、警察として動くのは難しい。
せいぜい、周りに注意してくださいくらいで終わってしまう。
「すみません。お力になれそうになくて」
「いや、千鶴が謝ることじゃない」
最初からそんな所ではないかと思ってきたのだ。
「一応、生活安全課の担当の人にも話してみますね」
「ありがとう。助かるよ」
ストーカーなどの対策は本来、生活安全課の担当である。
俺は知り合いの方が話しやすいと思ったので、千鶴に相談したのである。
「それと、これをその子に渡してください」
千鶴は一枚の名刺を俺に手渡してくれた。
「え、お前警部補になったの!?」
名刺には『警部補』という階級が書かれていた。
「はい、昇進しましたー」
敬礼のポーズをしながら千鶴は言った。
「おめでとう。すごいじゃないか」
警部補ともなれば警察階級の中ではそれなりの立場である。
男社会の警察で女性警部補というのは少ない気がする。
「そりゃ、先輩を見てれば皆んな少なからず野心を揺さぶられますよ。私もその中の一人とでも思っていただければ」
「別に俺はすごくはないよ」
「先輩は自分のことを過小評価しすぎですよ」
千鶴は微笑みを浮かべながらそう言った。
ここで、俺が自分の功績のように振る舞っていたらついて来てくれる人も付いて来なくなるだろう。
俺は人の力を借りることで仕事ができているのである。
俺にはできなかった生き方をしている。
自分に出来ないことをできる人が俺の周りには居る。
「まあ、ありがとう。これ、もらっておくよ」
俺は名刺ケースに千鶴の名刺を入れた。
「はい。何かあったら連絡してください! いつでも助けに行きますから」
「頼りにしてるよ。俺の名刺も渡しておくわ」
スーツの内ポケットの中から自分の名刺を取り出すと千鶴に渡した。
「会社変わったんですね。てか、先輩も出世してるじゃないですか」
俺のチーフプロデューサーという肩書きを見て千鶴は言った。
「まあ、俺もいい歳だからな」
「それ言ったら私もいい歳みたいになるんでやめてもらっていいすか!」
千鶴は少し膨れながら言った。
「悪かったよ」
「私、これで稽古終わるんですけど、久しぶりにランチでもどうです?」
「お、いいね」
「下で待っていてください。着替えちゃうんで」
そう言って千鶴は立ち上がった。
「了解! 下で待ってるわ」
俺はエレベーターで下に向かった。
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