第18話 昇進祝い
翌日の夜のことである。
今日は、珍しく一日オフだった。
俺はいつものように最近の流行りをリサーチしていた。
こういう情報のインプットが意外と大切だったりするのだ。
「お兄ちゃん、ご飯食べよー」
リビングの方から瑠奈の声が飛んできた。
今日は瑠奈が食事の当番だった。
「今行くわ」
俺はノートパソコンを閉じると、リビングへと向かった。
「お、今日はなんか豪華だな」
リビングのダイニングテーブルには唐揚げに炊き込みご飯、サラダにスープが並んでいた。
「お兄ちゃんの就職と昇進祝いです。ビールもあるよー」
そう言って、瑠奈は冷蔵庫の中からキンキンに冷えた銀色のやつを持ってきた。
「おお、ありがとうな」
「いえいえー」
瑠奈には俺が再就職したことなどを話していた。
妹に余計な心配はかけたくなかったのだ。
「ではでは」
瑠奈は向かいの椅子に座ると、ビールをグラスに注いでくれる。
「再就職と昇進おめでとーう! 乾杯!」
「ありがとう。乾杯」
そう言って、軽くグラスをぶつけた。
「なんか、お兄ちゃんまた楽しそうだね。あの頃に戻ったみたい」
「うん、そうだね。面白いかも」
瑠奈の言うあの頃とは、俺がユメミヤをプロデュースしていた初期の頃だろう。
あの頃はまだ、メンバーも慕ってくれていて楽しかった。
「そんなにいいの? 次のアイドルの子たち」
瑠奈が唐揚げを口に運びながら言った。
「まあ、いいというかな。見てみたくなったんだよ。あの子たちがこれから先どんな面白いことをやってくれるのか」
「何、そのお父さんみたいな言葉」
若干の苦笑いを浮かべていた。
「お父さんか……」
まあ、表現としては近いのかもしれない。
売れてくれなきゃ悲しいし、成長を見れるのは嬉しい。
頑張っていることも誰よりも近くで見てきたのだ。
「まあ、お兄ちゃんが楽しいならいいよ。前の会社よりもホワイトみたいだし」
「確かに、残業は減ったな」
最近は遅くとも20時過ぎには帰ってきている。
前の会社ではあり得ないことであった。
「てか、お前また料理の腕上げたな」
「え、嬉しいじゃん」
瑠奈の飯は普通に美味しい。
「なんか、母さんの味に似てきた」
「それ、私が歳とったみたいなんですけどー」
「いや、褒めてるんだよ。お前を嫁に出すのは惜しい」
俺は心底そう思ってしまった。
「じゃあ、お兄ちゃんが養ってよ」
瑠奈は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「一生俺と一緒に暮らすことになるぞ」
「あ、それは嫌かも」
「おい!!」
そんな仲がいいと思われる会話をしながらご飯とビールを進めて行った。
「ごちそうさま。美味かったよ」
「お粗末さまー」
そういうと瑠奈は食器をシンクへと運んで行った。
「洗い物くらいやるぞ?」
「今日はお兄ちゃんのお祝いなんだからいいのー」
「なら、お言葉に甘えようかな」
俺はダイニングテーブルの上にあるビールを飲み干した。
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