第100話 2次選考開始
第1回フルムーンアイドルオーディションは2次選考へと入った。
会場は協賛企業が用意してくれた。
都内の真ん中にこんな大きな会場を貸し切るとは、さすがは大手企業である。
俺の席は中央にあり、『審査員長 四宮渉』と印刷された紙が貼られていた。
その横には望月社長の席があり、俺の両脇には各協賛企業の代表者の席が用意されていた。
「四宮くんお疲れさん」
会場に入ると望月社長に声をかけられた。
「お疲れ様です。この会場すごいですね」
「ああ。無理言って借してもらったんだ。本来はパーティーとかで使われるらしいんだが、今回は特別にオーディション仕様になっている」
確かに、この広さならパーティー会場として向いているだろう。
「そうなんですね。どんな子が来るか楽しみですね」
2次審査は面接での審査となっている。
この広さを有しているが、個人面接である。
2次は特技審査も含まれている為、ダンスや歌唱にはそれなりのスペースが必要と判断した結果こうなった。
「君が選ぶ子を僕は期待しているぞ」
「ありがとうございます。頑張ります」
そう言うと、俺は審査員長の席に座った。
そこで、時間まで1次審査に通過したエントリー者の提出書類を読み込んでいく。
「そろそろ時間だぞ」
望月社長が俺の隣の席に腰を下ろしながら言った。
「そうですね」
腕時計で時間を確認すると、開始時間まで5分を切っていた。
俺は椅子に座り直す。
そして、1人目の子が部屋に入ってきた。
面接は入室から10秒から20秒で印象が決定すると言っても過言ではない。
きちんとお辞儀をするか、笑顔で臨めているかなどは嫌でも目について来るところである。
今日の流れは、入室、自己紹介、特技披露、質疑応答、退室となっている。
「エントリーナンバーとお名前をお願いします」
俺は椅子の隣に立った1次を通過した応募者に言った。
「21番、谷川美波です。本日は貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございます。よろしくお願いします」
美波さんは笑顔で口にした。
「ありがとうござます。お座りください」
「失礼いたします」
俺が座るように促すと、美波さんは椅子に腰を下ろした。
「では、最初に自己PRをお願いします」
「はい。私は、13歳の頃からダンスを続けて来ました。昨年のコンクールでは優勝をすることができました。なので、私はダンスが得意で忍耐力もあると思っております」
アイドルにとって容姿や歌やダンスはもちろん大事なのだが、それを磨くためには根性や体力、諦めない精神が必要になって来る。
そこを考えた時に、彼女には諦めない精神があるのでは無いだろうかと思う。
ダンスのコンクールで優勝したと言ってもそれは一朝一夕でできるものではない。
そこまでには、たくさん練習してたくさん努力してきてるのだろう。
その根性はアイドルになった時に活きて来ると思う。
俺は特技によって見えてくる『人間性』を見たいと思っている。
特技は美波のようにアイドルに直結するとは限らない。
特技は好きなことで構わない。
例えば、絵を描くのが好きとか野球観戦が好きとか、勉強が好きとかだ。
そういう普通のことでいい。
大切なのは好きな事を突き詰めていけるか、というところである。
「ありがとうございます。では、早速ですが、ダンスを披露してもらってもよろしいですか?」
「はい。もちろんです」
そう言うと、彼女は椅子から立ち上がった。
彼女は自分があらかじめ用意していた曲に合わせて、ダンスを披露してくれる。
流石に優勝したというだけのことはある。
見る者を魅了するような何かがそこにはあると思う。
「ありがとうございました」
ダンスを終えた彼女はペコリと一礼した。
「ありがとうございます。お座りください。それでは私からいくつか質問させて頂きます」
美波が座ったことを確認すると、言った。
「ダンスを続ける時に苦労したことはありますか?」
「はい。それは継続するいうことです。なかなか結果を出すことができませんでしたが、それでも優勝という目標を達成するために継続するのはすごく苦労しましたが、結果につながったので、今ではよかったと思っています」
もう一つ、アイドルに大切な要素は目標をしっかりと定めるということである。
夢を語るのは誰にでもできる。
しかし、目標を定めてそこに向かって努力するというのは誰にでもできることではないと思っている。
俺は彼女の発言をメモしながらそんなことを考えていた。
「皆さんから何か質問はありますか?」
他の審査員の方にも何かあるか尋ねた。
「じゃあ、私から一ついいかな?」
望月社長が手を挙げた。
「お願いします」
「じゃあ、私から一つ。美波さんが尊敬している人とかはいるかね?」
望月社長は真剣な目で美波に尋ねた。
「はい。これは忖度とかでは無いのですが、私の尊敬する人は四宮渉さんです」
まさかのここで、俺の名前が飛び出した。
「ほう、その理由を聞いてもいいかな?」
「はい。私は、四宮さんのインタビュー記事を読んだことがあります。そこで四宮さんがおっしゃっていた『人脈はとても素敵な武器である。彼らは皆んな私にはできないことが出来る人間で私では歩けなかった人生を歩いている。そんな彼らの生き方に私はいつまでも憧れを抱いていたい』という言葉に感銘を受けました」
確かに、俺は数ヶ月前にWEBメディアの取材をアイドルプロデューサーとして受けていた。
それが、読んでいる子がアイドルオーディションに来るとは思わなかったが。
「私は人との繋がりを大切にするのはすごく素敵なことだと思っています。それをこうして言葉にしている人に私はプロデュースされてみたいと思ったんです」
そう語る彼女の目には確かな光が入っていた。
「うん、ありがとう。彼はな、そういう男なんだよ」
望月社長は俺の肩に手を置くとそう言った。
「私からは以上だ」
他の人も大丈夫な様子だったので、俺は最後の質疑応答に移ることにした。
お久しぶりの更新になってしまい、申し訳ございません。
今回で記念すべき100話を迎えました。
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