コミックス発売記念・物語のススメ リベンジ!
孤児院を視察に来た王子が、子供たちを喜ばせるどころか大泣きさせたという紙芝居事件から数日……。
またもや我が家を訪ねてきたレグは、開口一番にこう言った。
「前回の失敗を踏まえて、紙芝居第二弾をやろうと思う」
「……懲りないわね、あなたも」
「だってこのままじゃ終われないよ! 子供たちを泣かせたままだなんて……、俺のプライドが許さない!」
テーブルに手を叩きつけて力説するレグを横目に、私はこっそり深いため息をついた。
言ってることは立派なのだが、いつも微妙に斜め上方向に向かって突き進んでいくので、どうにも不安が拭えない。
「子供は可愛い動物とか好きだろうなぁと思って題材に使ったら失敗しちゃったからね。今回はオーソドックスにいくよ!」
「それでなんで"ごんぎつね"をチョイスしてしまったのか……」
あれは動物が可愛いかどうかの問題じゃない。"三匹の子豚"とかじゃダメだったの? 兄弟たちの劇的ビフォーアフターストーリーよ。
「アヴィ、俺はね、前回の失敗で学んだんだよ。子供は可愛いよりも、夢を求めているんだって!」
いや、だからチョイスの問題なんだって。
「なので、今回は夢のあるお話にしようと思います! 題材はズバリ、"シンデレラ"!」
「あら、いいじゃない。王道ね」
「そう、定番中の定番! 王子様と平民の娘の恋物語! これなら最後はハッピーエンドだしね」
シンデレラが平民か貴族かは諸説あるが、まあそこは置いておこう。
たしかに悪くないチョイスだ。これなら前回みたいなことにはならないだろうし……
「そうだ! せっかくなら、ちょっとした演出もしてみようかな〜。前回泣かせちゃったお詫びにさ」
「演出?」
「実際にかぼちゃの馬車を作って乗ってみるとかどうかなっ!」
「やめときなさい、無駄に目立つから」
こういうところが心配なんだというに。
本当に大丈夫だろうな。なんか不安になってきたぞ……。
***
「みんなおまたせー! 今日は紙芝居、第二弾だよ〜」
「今日はなんだろ」
「このまえ、きつねさんかわいそうだった……」
「王子様ー、今日はだれがかわいそうなの?」
「今日のは大丈夫だから! ハッピーエンドだから!」
子供たちの容赦ない言葉に慌てて反論するレグの姿を、私は孤児院の職員が木陰に用意してくれた休憩用の椅子に座りながら眺めていた。
王子様、すっかり信用を失っていらっしゃる……。
「本当に大丈夫だろうな……」
「今回のお話は私も知っているものですから、大丈夫だと思いますよ。可愛い童話です」
その隣で同じくレグを見守るのは、彼の側近にして私の、こ、こ、……恋人(小声)でもあるウェルジオ・バードルディ。
彼は最近少し背が伸びた。私も成長しているはずだが、今では少し上を向かなければ彼と目線を合わせられないほどだ。
(だいぶ慣れたけど、まだなんか……照れくさいのよね)
微妙に熱を持ち始めた頬を隠すように手で抑える。なんせ前世含め、恋人という存在ができたのは初めてだ。こんな関係になる前は普通にできていた何気ない会話も、関係が変わった途端、やたら気恥ずかしくなった。
そんな状態の私に、呆れたまなざしを向けながらも何も言わずに歩調を合わせてくれた彼には、本当に感謝しかない。
(ほんのちょっと前までは、弟みたいって思ってたのにな……)
なんだかこそばゆい気持ちになって、私は隣に感じる存在からそっと視線をそらした。
「じゃあ始めるよー! ――"シンデレラ"」
そんな私の心境など知らず、レグの穏やかな声が物語を紡ぎだす。
***
「――"魔法使いが杖をふると、ボロボロの服は美しいドレスに代わり、かぼちゃは素敵な馬車に変わっていきます"」
「うわあ! 魔法使いさんすごーい」
「シンデレラよかったね」
(意外に上手いわね)
レグは物語の読み方もだいぶ練習したようで、なかなかに聞きやすかった。子供たちも真剣に聞き入っている。
(心配で思わずついてきちゃったけど……、杞憂だったかな)
おちゃらけてるように見えて、やる時はやる男だ。
そんなレグの姿を、手のかかる弟の成長を見守る姉のような心境で見守っていると、物語はだんだん佳境に入っていく。
「"このガラスの靴を履くことができれば、王子の花嫁になれる! 意地悪な姉はどうしてもその靴を履きたかったのです。けれど、どう見ても自分の足とは大きさが違います"」
「そりゃそうだよ」
「だってそれシンデレラの靴だもん」
「えー、でも靴のサイズが同じ人なんて世の中にたくさんいるよー?」
おっと、なかなか現実的なお子様がいらっしゃる。
それは言わないお約束よ。
「"そこで意地悪な姉はナイフを取り出し――"」
「ないふ?」
「なんで?」
(……ん?)
はて、どこからナイフが出てきたのだろう。
思わず隣を見ると、ウェルジオも怪訝な顔で首を傾げている。
待って待って、何やら雲行きが怪しく……
「"なんと! 自分の足の踵をザクッと切り落としたのです"」
「えええーーっ‼」
「いやぁーーっ‼」
「「ちょっと待てぇーーーーーーいっ!!⁉」」
思わず叫んだ。ウェルジオも叫ぶ。二人の心がシンクロした瞬間。
そして私たちは風になる。
はびゅんっと風を切る音とともに、急いで子供たちからレグを引き離した。
きょとんとした顔の子供たちの視線を感じるけども、ごめんね、今それどころじゃないのよ。
「おまっ、お前な! 何考えてんだっ⁉」
子供たちに聞こえないような声量でウェルジオがレグに詰め寄る。
「え〜? でもこれがシンデレラという話で……」
「違うわよ⁉」
いや、違わないこともないかもしれないが、それはあきらかにグリム版だろう。相手が幼い子供だってわかってるのかこの男は。
「あれぇ〜? おっかしいなぁ、俺の知ってるシンデレラはこうだったんだけどな〜?」
「そんなことある⁉?」
途中までは夢いっぱいのペロー版だったのに、なぜいきなりグリム版にジョブチェンジした。しかも物語の見せ場とも言える最終局面で。明らかにわざとだろ。誰だ、こいつにシンデレラ教えたやつ。
(事前に中身の確認をしておけばよかったわ……)
やるときはやる男だなんて思ったことを心底後悔した。やはりレグはどこまで行ってもレグである。
「……」
「な、なんです? ウェルジオ様。人の顔じっと見て……」
「………………可愛い、童話……?」
「違います誤解です」
ちょっとした解釈の違いというものがあったんです。
だから裏切り者を見るような目で私を見ないでくださいな。
言うまでもないが、リベンジは見事に失敗した。
「ぐぬぬ、次こそは……」
「懲りろ、いいかげん」
「そうよ、レグ。あなたは十分頑張ったわ、ええ、ほんとに」
「でも……」
「紙芝居以外の方法を考えましょう、それがいいわ。ね?」
ウェルジオも無言で頷いている。やたら力強い頷きだった。
レグはしばらく悩んだようだが、やがて観念したように肩を落として頷いた。
((……ほっ))
こうして、王子によるお騒がせ紙芝居大作戦は、静かに幕を閉じたのである。
アヴィリア
さすがに紙芝居の案を出した者として結果が気になったのでついて行った。気分は保護者。
そしたら案の定やらかしおった、この王子。
むしろ何でこの内容で大丈夫だと思った……??
レグ
シンデレラの内容は夢の中でいつも自分と一緒にいるとある女の子から教わったもの。
最後は王子と結ばれてハッピーエンドだからいいと思ったんだけどなぁ〜。
ウェルジオ
思いが通じ合った直後、明らかに自分を意識してオタオタするアヴィリアに、心の中で密かに悶えたりしてたのは内緒。
そうか、女というのはこういうのを可愛いと思うものなのか……。そうか……。(誤解)
夢の中の女の子
もちろん秋尋くんの幼馴染ちゃん。
悪気はない。遊び心はあった。
作者
レグと幼馴染ちゃんってめっちゃ気が合いそうだなぁ、と本編終了後に気づいたとかなんとか……。




