コミックス化記念・物語のススメ
コミカライズ版
『ライセット! 〜転生令嬢による異世界ハーブアイテム革命〜』のコミックス化が決まりました〜〜!
それを記念し 久々に小説アップ!
一応最終回後のお話です。
「ねえアヴィ、子供を喜ばせるものって何があるかな?」
「まずその話の過程を話してくれない?」
レグの唐突な問いかけに、私は飲んでいたはちみつ入りカモミールミルクティーを口元で止めた。
向かい側に座るレグは、テーブルの上に肘を立て口の前で手を組むという、いわゆるゲンドウポーズで、至極真剣そうな顔で眉間にしわを寄せている。
が、付き合いの長い私にはわかる。
これは、またなんか面倒なことが始まる合図だな、と。
***
十六の誕生日を期に、正式に公の場に姿を現すこととなったレグは、王子として国のことに関わる機会も増えた。
そのひとつに、国が支援している孤児院の視察というものがある。
「前回と前々回の視察じゃ、『ハーバル・ガーデン』のお菓子を差し入れしたんだけど……」
「あら、ありがとう」
「みんな喜んでたよ〜。『ハーバル・ガーデン』の商品って人気だからね〜」
楽しそうに話すレグに、私も嬉しくなる。
お店は変わらず順調で、ハーブを使ったお茶やお菓子は、貴族のみならず平民の間でも人気だ。
ありがたいことである。
「でね、次の視察のお土産はどうしようかなって。お菓子もいいんだけど、毎回同じだとさ……」
「確かに、飽きちゃうかもしれないわね」
「そうなんだよ〜」
子供はその辺がすごくシビアだ。
同じことが何度も続くと、ぱっと興味をなくしてしまう。
「遊び道具なんかは?」
「それもある程度のものは、すでに差し入れられたり、寄付されたりしてるんだよね〜。もっとこうパンチのあるものが欲しいっていうか」
「孤児院の差し入れにパンチって……」
その意気込みは買うが、方向性が微妙に斜め上ではないだろうか。お祭りの出し物じゃないんだぞ?
(でも、子供が喜ぶようなもの、ねぇ……)
うーん。顎に手を当てて考えてみる。
とは言うものの、今世も前世も、私は一人っ子で下に弟妹はいないし、幼い子と関わる機会というのもないので、いまいちピンとこないのだが。
「……そうだわ。じゃあ、物語の読み聞かせなんて、どう?」
「物語?」
私の言葉に、レグはきょとんと首をかしげる。
子供の遊び、と考えて、ふと思い出したのは、前世で自分が幼稚園児だったときのことだ。
園児たちを周りに集めて、先生がやってくれた。
「向こうの世界の童話とかならレグも知ってるでしょう? それを紙芝居とかにして話すのよ。この世界にはない話ばかりだし、楽しんでくれると思うけど」
平民、それも孤児ともなれば、舞台などの観劇に行く機会もない。
そもそも、紙芝居という形式自体がこの世界にはないものだから、子供たちにとっては物珍しさも相まって、楽しい催しになるだろう。
童話やおとぎ話なら、子供受けもいいだろうしね。
……まあ、ぶっちゃけ完全なパクリではあるんだけども。
「うん、いいねそれ! 絶対喜んでくれるよ!」
レグの目がキランと輝く。
お、これはやる気スイッチが入った顔だな。
「あ、でも絵とかはどうするの?」
「そこは問題ないよ。王室お抱えの絵師を呼びつけるから!」
おい王子。権力の乱用だぞ。
「何がいいかな。桃太郎とか?」
「男の子と女の子で好みが別れそうじゃない?」
「あ、そっか。どっちにも受けがいいものがいいよね。それとも、男の子向けと女の子向けで別々に作るほうがいいかな……」
「あまり世界観が違いすぎる話も、やめたほうがいいと思うわよ」
この世界にない概念や文化が出てくる話は、どうしても説明が必要になってしまう。
話についてこれなければ、物語に集中することもできないだろうし、何より楽しくない。
「じゃ、その辺りは、ある程度この国風にアレンジしてみよっか」
「そうね、あとは……」
あれこれと意見を出しながら、使えそうな童話のタイトルを並べていく。
前から思ってたけど、レグって自分の手で何かを作るっていう行為が好きよね。
私も人のこと言えないけど。
そうやって出来上がったものを、誰かが喜んでくれたり、嬉しいと言ってくれたら、自分も嬉しいし、次への活力になる。
好きだからというのは確かにあるけれど、だからやめられないのよね、きっと。
「よっし! だいたいまとまった〜! ありがとうアヴィ、あとは絵師に相談しながら、実際に紙芝居を作ってみるよ」
「頑張ってね」
「やっぱ君に相談してみて正解だったな」
「子供たち、喜んでくれるといいわね」
「うん! 楽しみだなぁ〜♪」
そう言って、しまいには鼻歌まで歌い出したレグこそが、この催しを一番楽しんでいるように見える。まるで子供みたいだ。こういうところはいくつになっても変わらない。
(ま、何事も楽しんでやれるなら、それが一番よね)
いつまでたっても子供のような遊び心を忘れない王子の姿に、心の中でこっそり苦笑しつつも、どうかうまくいってほしいと。そう思いながら、私はすっかり冷めてしまったカップの中身を飲み干した。
で、結局どうなったかというと。
「アヴィ〜、聞いてよ〜っ! 子供たちにめちゃくちゃ泣かれちゃったあぁぁ〜〜っ」
「なんで⁉」
「うっうっ……。かわいそうだって……、王子様ひどいって言われたぁっ、心が痛いよぉ……」
「あなた結局何の話を作ったのよ?」
「“ごんぎつね”」
「……」
まさかのチョイスだった。
いや、その話が悪いってわけじゃないんだけどさ。何かあっただろ、ほかにさっ!
「ちなみに護衛としてついてきてたジオも微妙に涙ぐんでたよ」
「納得した」
確かにこういう話、苦手そうだわ、彼。
アヴィリア
紙芝居かぁ、懐かしいわねぇ。と案を出しながら内心ほのぼのしてた。
きっと楽しい催しになるだろうなと思ってたらこれだよ。
え? 子供は動物とか好きだろうなと思った……? だからって何でそれだったのよ。
レグ
孤児院の視察では、毎回いつのまにか子供たちに混じって遊んでる。鬼ごっことかかくれんぼとか平気でする。割と本気でやるので子供たちからは「王子様大人げない!」と突っ込まれることも……。
孤児院の先生には「次回はもう少し明るいお話にしましょうね?」と子供にするような注意をされた。
ウェルジオ
……ごん……。
この手の話めっちゃ弱い。狐かわいそう……。グスッ。
しばらく動物を見る目が優しくなる。




