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49・遠い彼の地から星は想う 6

秋尋編、終了。

当初はこんなに長くなる予定ではなかったんだけど、書き始めたらズルズルと長く……。

2章中盤あたりから設定はあったのですが、ようやく形にできました!

秋尋くんおつかれ〜。




 精霊たちが言うには、どうやらアヴィリアにも幼馴染と同じように前世の記憶があったらしい。しかも、こちら側の世界で生きたものが。

 そのせいで、本来なら性悪になるはずの人柄にも変化がでたのだろうと。


 正直な話、秋尋は安心した。幼馴染の語るアヴィリアの人柄は本当に酷すぎて、そんな女が弟の近くにいるのかと思うと、気が気じゃなかったのだ。


「歳の近い王子様の存在なんて全く気にとめないような性格だから大丈夫よー」

「手のかかる弟程度の存在でしかないないー」

「それはそれでどうなんだ?」


 とりあえず仲良くやってはいるらしい。精霊が教えてくれる内容はいたって平和だった。

 やれ、毎日のように訪ねては食べ物を強請っているだの、こちら側の技術を真似てあれこれ発明しては貢いでいるだの。

 アヴィリアはそれに呆れた顔をしつつも、毎回しっかりと付き合ってくれているようだった。

 完全に困ったちゃんな弟に手を焼くお姉さんて感じだ。弟よ、お兄ちゃんちょっと複雑。


「おおっ、またブックマークが増えてる! 感想もきてる! 何々? “アヴィリアってほんとウザい!”、“早くざまぁされてしまえ(笑)”……。うんうん、みんな分かってる分かってるぅ〜。そう! アヴィリアはウザったらしくて性悪な嫌ぁ〜な女なのよ‼」

「……楽しそうだな……」


 そして幼馴染も相変わらず私怨吐き出し話の執筆に励んでいた。性悪とはとても言い難いアヴィリアを知ってる秋尋としては、こっちもちょっと複雑。その人、弟の友人なんです。


(でも、あの様子じゃあ、こいつが書く小説のような未来はやってこないだろうな)


 小説の中では敵同士のアヴィリアとセシルは、実際にはとても仲の良い親友となっている。

 きっと、断罪もざまぁもない、いたって平穏なハッピーエンドがやってくるだろう。


 そうあって欲しいと、秋尋は願っていた。


 だから、セシルが闇の精霊に取り込まれて意識不明になったと精霊から聞いた時は本当に焦った。

 すぐにでも何とかしてあげたかったけど、こちら側から向こう側への直接的な干渉はとても難しくて。

 どうしようどうしようと秋尋が手をこまねいている間に、アヴィリアは精霊の力を借りて、セシルの精神世界に入り込んでいってしまった。

 結果的には、そのおかげで秋尋も干渉できるようになったので、助かったといえば助かったのだが。

 弟と夢で繋がった時のように、精神だけを繋げることは、かろうじてできたのだ。

 繋げる先がセシルだということも幸いした。バードルディ家には、何代か前に王家の姫が嫁いでいたため、秋尋とセシルの間にも多少なりとも血の繋がりがあったのだ。

 その繋がりが確かな道となった。


「ぱっと行ってぱっと帰ってくるのよー!」

「長居は禁物なのよー!」

「いくらあきひろでも闇の精霊は危ないのー!」

「分かった分かった」


 渋る精霊たちを納得させるまでが少々大変だったが。

 それでも、行かないという選択肢は秋尋にはなかった。

 だって、聴こえた気がするんだ。守ってくれと願う、弟の声が。

 気のせいだったかもしれない。空耳だったかもしれない。

 けれど、その声を無視することは、どうしてもできなかった。


 そうして向かった先で出会った彼女は、いたって普通の、心の優しい女の子だった。


 動き出すことができずにいた彼女の背を押しに行ったはずなのに、結局、押してもらったのはこちらのような気もする。


 秋尋の心の中にずっとあった、自分勝手なわがままを押し付けた弟への罪悪感。

 事情など何も知らないはずの彼女は、優しい言葉でそれを肯定した。


 何かを得るためには、他の何かを手放さなきゃいけないこともある。

 望むもの全てを手にすることができたら、どれほど幸せだろう。

 けれど、それができるほど、世の中はけっして優しくはなくて。


 秋尋はひとつを選び、ひとつを手放した。

 弟の生を望んだのは、自分がこちら側の世界で生きていく未来を手に入れるため。


 そんな身勝手な思いを、彼女は優しく肯定してくれた。

 自分の身勝手な行動を、弟は感謝しているのだと、伝えてくれた。

 嬉しくて嬉しくて、つい涙ぐんでしまったのは、仕方ないと思う。



 “ーーーー…………会いたかったよ、…………兄さんっ”



 ふと、遠い遠い場所から、そんな思いが風に乗って聞こえてきた気がして、秋尋は空を見上げる。


「……うん」


 俺もだよ、と、心の中でそっと返す。


 会いたかった、逢いたかった。あえてよかったと、心から思うよ。

 たとえ言葉を交わすことができなくても。うつつの会合であったとしても。


 ごめんね。俺は帰れない。こっちの世界で大事なものがいっぱいできすぎたんだ。

 それを捨てては、いけないよ。


(ごめんな……、自分勝手なお兄ちゃんで)


 でも、ずっと想ってる。

 遠く離れたこの異世界の空の下から、ずっとずっと、想ってるよ。



 たとえ共に在ることができなくても。

 大切に思うこの気持ちに、嘘はないから。




秋尋

 家族を大切に思う気持ちに嘘はない。

 でもそれはこちらの世界の育ての親も同じ。

 これからもずっと心の中で大切に大切に思い続ける。

 また何か困ったことがおきたら何らかの形で力を貸すのだろう。


幼馴染ちゃん

 恨みつらみを吐き出す執筆の腕が止まらない。

 前世の世界をもとに前世の世界にいた人物たちをキャラクターにしてお話を作ってる。

 つまり内容はほぼフィクション。

 彼女が生きていた前世の世界軸でも「紫水晶の王冠」のような展開があったかどうかは……、


 それは誰にも分からない。


 つまり、セシルが小説の中だと思っている世界はそもそも小説の中などではなく、「紫水晶の王冠」のストーリーはそもそも正史ですらないのです。


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