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48・遠い彼の地から星は想う 5

久々投稿。呼んでくれてありがとうございます!

最近リアルが忙しくて月一投稿になってきて、さすがにちょっとやべえなと思ったり……。

 


『多分、繋がりすぎちゃったんだと思うのー』

『長い間意識を共有してたから、繋がりが強くなっちゃったのよー』

『あきひろが弟君と意識を共有できるようにー』

『弟君もあきひろと意識を共有できるようになっちゃったのねー』

「そんなこともあんの⁉」


 つまり俺が弟を通してあっちの世界を見てたように、弟も俺を通してこっちの世界を見てたってことか。


「うわ、全然気付かなかった……」

『私たちも気づかなかったのー』


 精霊たちも驚いていたことから、本当に予期せぬ出来事だったと知る。

 だがしかし、これは考えようによっては、いい結果なのではないだろうか。弟が自分を通してこちらを見ることができるなら、交流も可能かもしれない。

 それはちょっとした期待でもあった。


 だか、そんな期待は、またしても精霊たちによって砕かれる。


『あきひろー、もう弟君のところに行かないほうがいいのー』

『このままじゃ二人とも精神が壊れちゃうのー』

「は?」

『お互いに意識を共有し合うってことはー、二人の精神がすごく近づいてるってことなのよー』

『このままじゃ混ざっちゃって危ないのー』

『危ない危ないー』

「……えーと、ちなみに混ざったら、どうなんの……?」

『『頭パーになる』』

「おいいぃーーっっ⁉」


 ちょっとシャレじゃすまねえ返事が帰ってきて本気で焦った。頭パーは普通にヤバい。


「でも……」


 すぐに返事はできなかった。どんな形であっても、この一年、秋尋は弟と共にいたのだ。

 その時間の中で、秋尋は実の両親の姿も見ることができていた。

 覚えてなんていないのに、見た瞬間、なぜだか泣きたくてたまらなくなった。

 自分の本当の名前を知った時と同じ。記憶の片隅に微かに残っていた記憶のカケラが、しっかりと形を取り戻したようだった。

 たとえ会話ひとつできなくても、姿を見れるのは嬉しかった。

 弟を鍛えるためと思いながら、いつしかそれだけが理由ではなくなっている自分がいることにも、秋尋はちゃんと気づいていた。


 弟を通さずに向こうの世界を見ることはできない、でも…………。


『あきひろー、弟君ならもう心配いらないのー』

『もう前みたいな死の匂いはしないからー、ちゃんと長生きできると思うのー』

「そ、っか……」


 本当は、ずっと見ていたい。

 とくに、俺のわがままを押し付けるような形になった弟のことは、ずっと見守っていたかった。

 でも、そのせいで障害が出たりしたら、何の意味もない。


「俺がやめたら、弟も共有ができなくなるのか?」

『しばらくは繋がることもあるかもしれないけどー、だんだんできなくなってくよー』

「……そっか、ならよかった」


 会えなくなるのは寂しいけれど、もう心配はない。

 それなら、大丈夫だ。


 俺の弟、俺の両親、俺の、家族……。

 捨てられたわけではないと知って、本当に嬉しかった。大切に想っていてくれて、嬉しかった。

 その確かな事実は、ちゃんと自分の中にあるから。


 だから、大丈夫だ。


(逢えて、よかったよ……)



 そうして、秋尋は夢で繋がることをやめた。

 それでもやっぱり、ふとした瞬間に気になってしまって、ついつい向こうの世界に思いを馳せる時間がふえた。

 そんな秋尋を見かねて、精霊たちがたまに向こうの様子を教えてくれるようになった。

 一番多いのは、やっぱり弟のこと。

 元気そうに走り回っていたとか、友人をおちょくっていたとか、突拍子もないことをやらかして両親に怒られていたとか、友人に怒られていたとか。


 どうやら弟はなかなかに愉快でしたたかな性格に育ったらしい。様子を教えてくれる精霊たちも「あれはもうほっといても全然大丈夫よー」と言っていたくらいだ。

 元気そうで何よりだが、思い描いてた結果とちょっと違うような気がしなくもない。


 それでも、何も知らずにいた頃よりはずっとよかった。


 そんな想いを心に抱え、遠い異世界の家族の幸せをひっそりと祈っていた秋尋であったが、数年後、さらなる衝撃がその身を襲う。

 長かった受験も終わり、めでたく高校生としての生活をはじめて、しばらく経った頃のことだ。


「ねえねえこれ見て! なかなかいい評価なのよ!」

「……『紫水晶(アメジスト)の王冠』? “主人公、白崎秋尋は突然召喚された異世界で自分がこの世界の王子だと知る。頼りになる仲間たちに支えられながら立派な王になるべく奮闘する中、ヒロインとの仲を邪魔する性悪令嬢アヴィリアが現れて…………”って、なんじゃこりゃっっ!⁉」


 幼馴染が何やら得意げに差し出してきた携帯に表示されていた、どこかのWebサイトの1ページ。

 その一番上に書かれた小説のあらすじを呼んだ秋尋は、思わず心の底から叫び声を上げた。


「小説投稿サイトにね、私の前世経験をもとに話を作って投稿してみたのよ」

「何してんの⁉」

「生まれ変わっても消えないあのアヴィリア(クソ女)への怒りを吐き出す場所が欲しくてさ〜。そしたらなかなか評判良くってブックマークもどんどん増えてってね」

「何してんの⁉ ねえ、何してんの!⁉」

「しょうがないじゃん! 仕返ししてやりたくてもできないんだから! せめて自分の作った話の中で思いっきり「ざまぁ!」ってやってやりたいのよ! ……んふふっ、やっぱ美少女ヒロインをいじめる性悪悪女って設定にして正解ね、正統派ヒロインの存在がアヴィリアのクソっぷりをこれでもかと際立ててくれてるわ……。このまま読者のヘイトをめいっぱい集めて、救いようもねえ性悪クソ女に育ててから誰もが口を揃えて「ざまぁ」と指さして笑うような悲惨な最後を迎えさせてやるわ……。くけけけけっ」


(や、闇が深ぇ……)


 なんとこの幼馴染み、知らない間にネット作家デビューなんぞしてた。しかもその理由が私怨過ぎて酷い。


「なあ、この主人公ってさ……」

「勿論、あんたがモデル」

「勝手に⁉」

「結構読者人気高いわよ、よかったわね。あ、心配しなくてもちゃんと美少女ヒロインとラブラブハッピーエンドにしてあげるから安心して」

「俺が言いたいのはそういうこっちゃねーよ⁉」


 相も変わらず思い立ったら即実行の幼馴染は人の話をちっとも聞きゃしない。

 秋尋はどうにかして書くのを辞めさせようとしたが、結局止めることはできず、そうこうしてる間に読者数は増えに増え続け、気づけばそれなりの人気作へとなっていた。


「いい感じいい感じ〜、この調子で行こう! 目指せ書籍化! あの女の性悪っぷりを世に広めてやるわ。くっくっくっ……」


(ああ……、ただの私怨吐き出し話が世に拡散されていく……)


 その小説が何を目的にして何のために生まれたのかを知る秋尋は、何とも言えないしょっぱい気持ちでその光景を見ていたが、予想だにしなかった出来事が起こる。


 精霊が教えてくれる弟の近状報告の中に、“アヴィリア”の名前が出てくるようになったのだ。


 けれどその姿は、幼馴染曰くの性悪クソ女とは似ても似つかない、全くかけ離れた姿だった。



秋尋

 夢渡りは終わり。私情を押し付けた弟に対して罪悪感はある。

 会えなくなってもいつも心で想ってる。

 幼馴染が意外な方向に進んでて頭抱えた。


幼馴染ネームレス

 なんとびっくり、前世セシルの愛読書『紫水晶(アメジスト)の王冠』の作者。

 幼馴染の幼馴染による幼馴染のためだけの、大っっ嫌いなあの女(アヴィリア)を思いっきり「ざまぁ!」として心の底から嘲笑ってやるためだけの小説。それが『紫水晶(アメジスト)の王冠』。

 とんでもねえ真実。


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