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44・遠い彼の地から星は想う 1

 


「私、前世の記憶があるの。こことは違う西洋ファンタジーみたいな世界のよ」


 幼馴染の少女が、ある日突然、何の前振りもなく言った言葉だった。

 それを聞いた少年は言葉を失い、親切心のつもりで病院を勧めた。


 ぶん殴られた。




 ***




 少年の名前は白崎秋尋(しろさきあきひろ)

 本当の名前は分からない。彼は孤児だ。秋尋という名は施設でつけられ、現在の家族である白崎家に引き取られて名字が白崎になった。

 不幸だと思ったことはない。血が繋がってなくても、両親はめいっぱいの愛情を注いでくれたし、白崎家に迎えられたことは、自分にとって間違いなく幸せなことだと思っている。

 自分の出生や本当の両親がどこにいるのか……、気にならないわけではなかったけど……。


 そんな秋尋には、いわゆる“霊感”というものがあった。

 物心つく前から、自分の周囲をよくふよふよとただよっている“不可思議な生き物”の存在をはっきり視界に捉えることができたのだ。

 秋尋はそれを妖怪、物の怪の類いだと思っていた。ぼんやりと発光する光の玉のような姿をしたそれは、人語を話し、よくよく秋尋に対して親しげに話しかけてきたりしたが、秋尋がそれに応えたことはない。正体のよく分からない変なものに迂闊に応えを返すのは危険だと思っていたからだ。

 だって応えたら最後、なんか変な世界に連れてかれるとかさ、ホラーによくあるじゃん⁉

 秋尋はホラー系が地雷であった。


 そんな日常を過ごす、ある日のこと。


「私、前世の記憶があるの。こことは違う西洋ファンタジーみたいな世界のよ」


 小学校の帰り道。家が隣という理由でいつも一緒に帰っていた幼馴染が、突然そんなことを言いだしたのだ。


 聞けば、彼女はこことは違う世界で生きた記憶があり、大きなお城で未来のお妃様候補がたくさん住む後宮で働くメイドの一人だったとか。


「そのお妃候補の中に、アヴィリアって女がいるんだけど、そいつのせいで私は死んだの!」


 そんな話をおもいっきりぶん殴られて痛む頭を抑えながら秋尋は黙って聞いていた。


 彼女曰く、アヴィリア・ヴィコットというその女は、とにかく最悪、の一言に尽きるらしい。

 傲慢、わがまま、癇癪持ち、高飛車。百人中百人が顔をしかめるような、古典的な“ヤな女”。

 使用人なんてのは彼女にとってはただの奴隷で、少しでも気に入らなければ、立場という権力を利用して力ずくで排除する。

 前世の彼女もその一人で、出された紅茶がぬるいだとかいう、くっだらない理由で勤め先だった後宮を追い出されたらしい。そして実家に帰る途中、獣に襲われ、そのままムシャリと餌になったとか。

 秋尋は背筋がゾワッとした。可愛がってる近所のワンちゃんにもしばらく近寄れないだろう。


「私はそこで確かに死んだんだけど……、次に意識を取り戻したら、人の魂を管理してるっていう天使の職場にいたのよ」

「なあ、本気で病院行ったほうが良くないか⁉ 一人が心細いって言うならついてってやるから!」


 心の底から幼馴染(の頭)を心配しての言葉だったが、本日二度目の拳をもらい、秋尋は意識を飛ばした。

 そのまま少女に背負われて家まで送り届けられ、生暖かい目をした母から詳細を聞かされて、幼馴染(少女)の男前さにちょっぴり泣いた。

 秋尋少年はお年頃であった。


 それからも、彼女は前世の記憶だというその話を、ちょくちょく秋尋に語っては聞かせた。


 中世ヨーロッパ風の街並み。お城には剣を持った騎士がいて、道路には馬車が走り、夜はランプに灯した明かりで道を照らす……かと思えば、スイーツにはショートケーキがあったり、料理の味付けには味噌や醤油が使われていたりする。

 秋尋は半分以上、設定のあやふやな夢の話だな、と思っていた。割と本気で幼馴染(の頭)を心配してる。実は密かに病院を探していたりした。彼女には内緒。ぶん殴られるので。


「その国にはね、赤ん坊の頃に行方不明になった王子様がいたんだけど、十七年ぶりに発見されて無事に帰ってきたのよ。で、その王子様の名前が“あきひろ”っていうの。すっごい偶然よね、私びっくりしちゃった!」

「西洋ファンタジー風の世界なのに日本名かよ」

「もちろん本名は違うわよ、保護先でつけられた名前なんですって」


 それでも違和感しかないだろう。


「その世界には精霊が存在しててね、アースガルドでは神様みたいに祀ってるんだけど、その精霊に一番好かれてるのがその王子様なのよ。“精霊の愛し子”なんて呼ばれててね」

「だんだん設定がラノベになってきたな⁉」


 それ夢の話だよな? あ、いや違う、前世だっけ?

 そう思いながらも秋尋は幼馴染の話を真面目に聞いていた。意外に付き合いがいいタイプである。

 しかし、ここで思わぬ横槍が入った。


『ラノベじゃないよー』

『あきひろの話だよー』

『アースガルドだってー』

『あきひろそこで生まれたんだよねー』

『懐かしいねー』

「……はぁあっ!⁉」


 始終辺りをふよふよしてる妖怪(仮)が突然会話に入ってきたかと思えば、予想外の爆弾を投下したのだ。

 秋尋は思わず奇声を上げた。隣の幼馴染から「え、いきなり何。どうした」と奇怪なものを見る目を向けられた。お前にそんな目で見られる筋合いはないわ、と言いたかったが、振り下ろされる拳の威力を思い出し必死で耐えた。秋尋は自分を褒めた。……いや、今大事なのはそこじゃない!


(俺の話ってなに。生まれたってなに。懐かしいってなに⁉)


 あれ? もしかしてこの妖怪(仮)俺の出生知ってたりすんの!!?


 今の今まで視界に入れないよう存在をシャットアウトし、何を言われてもガン無視決め込んでたことをちょっぴり後悔した秋尋だった。




白崎秋尋

 アースガルドの第一王子レギュラスこと、原作主人公。

 自分は霊感持ちだと本気で信じていた。

 同い年の少女に背負われて家に送られた。男のプライドが傷ついた。

 二人のヒエラルキーは幼馴染側に傾いている。


幼馴染ちゃん(ネームレス)

 男前。男の子だって平気で背負う。

 前世はアースガルドの後宮に仕えていたメイド。

 実は獣にムシャリは予期せぬ事故だった。魂の寿命が残っていたので別の世界で生きてきてくれと天使に言われた。

 セシル(と咲良)の逆バージョン。


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