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22・ほんとの親友になりたいから

 


「セシルなら屋敷にいる。忙しいとは言っても四六時中バタバタしているわけじゃないんだ、わざわざ僕に頼まなくても訪ねてくればいいだろう。何を遠慮してるんだ?」

「そ、れはそうなんですが……」


 ウェルジオの追求は止まらない。

 それが見事に私の心のど真ん中を打ち抜いてくるものだから、声が引きつってしょうがない。


 駄目だ。こんな風に動揺していたら、痛いところを突かれたのがこの人にバレてしまう。

 ここしばらくの間、ずっとずっと影のようにくすぶっていた『それ』。




 もう数ヶ月近く、セシルの顔を見ていない。

 じっとしていることが大嫌いな行動派の彼女は常に自分の足で動くことを好んだ。機械越しに声を聞くよりは直接会いたいと、トランシーバーを渡された時もそう言っていた。


 そんな彼女が最近になって急にその行動を変えた。


 忙しくしているとは聞いたが、普段の彼女なら「もううんざり! ちょっと息抜きさせてよー!」くらい言いながら飛び込んできそうなものなのに。

 連絡は今も普通に取っている。別に無視されてるとか、そんなことはない。でも。

 鈍いと言われる自分でもなんとなく感じている。


 セシルに、避けられているような気がする、と。


 あの令嬢たちの言葉にどうして動くことができなくなったのか。

 どうして、何も言い返す言葉が出てこなかったのか……。


 心の中で、もしかしてと思っていたその図星を刺されてしまったからだ。

 けれど、その理由が何も分からない。自分は知らぬ間に、セシルに何かしてしまったんだろうか。一体何を? 

 考えても考えても、思い当たるものはなくって、どうすればいいのか分からなかった。


 けれど、距離感が多少変わっただけで繋がりがなくなったわけじゃない。

 こちらから連絡を取る時もあれば、セシルから連絡が来る時だってある。

 だから、嫌われたわけではない、と思う。


 それなら、ちょっと待ってみようと思ったのだ。

 セシルにも何か思うものがあるのかもしれない。ただ本当に忙しいだけかもしれないと、そう、思って……。


 そのままずるずるとここまで来てしまった。

 それが正しかったのかなんて、それさえも分からないけど。


「僕は」


 そんな私の心の内を知ってか知らずか、ウェルジオが静かに呟く。

 ゆっくりと、けれど芯のある強い声で、まっすぐな真剣な眼差しで、私に向かって言った。


「君たちは親友だと思っていたんだが……、違ったのか?」


 しんゆう。


 その言葉はまるで雷のように私の全身を突き抜けていった。


「……あ、」


 ――――そうよ。私は、何を当たり前のように、()()()()動いてくれるのを待っていたのかしら。


 いつもいつも、こちらに向かって手を伸ばしてくれるのはセシルのほう。

 私はいつもその手を掴んで、並んで歩き出す。それが私たちのカタチだった。


 でも。それが本当に親友と呼べるのかしら。


 いつもいつも、片方ばかりから与えられ求められ、それを受け止めるばかりのカタチが私の思う親友なのだろうか。


(違う)


 違う。そんなのは全然対等じゃない。私はセシルと、そんな風になりたいんじゃない。



 私はセシルと。もっともっと対等な関係でいたい。後ろでも前でもなく、隣にいたい。

 これからも、ずっと。ずっと。



 知らず、ぐっと握りしめた拳に力がこもる。


「……ウェルジオ様、申し訳ありません。先ほどのお願いは、聞かなかったことにしてくださいませ」


 突然の言葉にウェルジオは驚いたように目を見開く。


「近々、お屋敷を訪ねさせていただいてもよろしいでしょうか」


 繋げた言の葉には迷いのない強さを込めて。

 彼は、一瞬目を丸くした後、口の端を上げてふっと小さく笑った。


「ああ、わかった。うちの者にも話を通しておいてやる」

「ありがとうございます!」


 私の意志はきちんと彼に伝わったようだ。

 それがただただ、嬉しかった。



 進み出した歩に合わせて長い髪が揺れる。

 まるで背負っていた荷物を降ろした後のように不思議と体が軽かった。



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