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1・世界を見守るものは全てを知る

 


 一面に広がる真っ白な空間。

 風の音も水の音もなく、上も下も、空も大地もない。

 徒人の目にはそうとしか見えぬ場所。

 けれど、その空間に住まう住人にとっては、眼前に広がる鮮やかな景色が当たり前のように目に映る場所。


 ここは『魂の管理施設』。

 この世に存在する数多の世界を見守る場所。

 そこに魂の管理者と呼ばれる者たちは存在した。

 彼等に個体を表すような種族名はない。時には神、時には死神、時には鬼と呼ばれることすらある。


 そんな中、自らを天使だと恥ずかしげもなく言い放った一人の管理者は、水鏡のように揺らめく不可思議なスクリーンを眺めながら、まるでストーリーのあらすじを語るように言葉を紡いだ。


「アヴィリアに成った咲良が精霊に選ばれた、か……。まぁ、もともと魂が綺麗な形をした子だったからありえないことではない、かなぁ」


 スクリーンの向こう側では薔薇色の髪を揺らす少女が小さな小鳥の姿をした精霊と楽しそうに戯れている。その様子はどこから見ても仲の良い飼い主とペットそのもので、良い関係を築いているのがよく分かる。


「うーん、ここでフォーマルハウトに!ってことにでもなったら二次創作的な展開ではありがちなことになってただろうけど……。まぁ、そんな都合よくいい展開になんてならないよね、“現実”はさ」


 ゆらり、波紋が揺らめいて映しだす映像が変わった。鮮やかな薔薇色が消え、金の髪を翻す少女の姿に。


「あの子はいつ気付くかなぁ」


 死して尚、意識を保つことが困難なこの場所においてさえ、はっきりと自我を持ち言葉を交わすことを可能とした少女は、心の内に強い想いを抱きながら世界を渡っていった。


「当分無理そうだよね、あの状態じゃあさ……」


 唯一、二つの世界の繋がりをしっかりと知る者。

 あの子だけが、自分のいるその世界が小説の中に作られた仮想世界だということを知っている。


 いや、()()()いる。


「『紫水晶(アメジスト)の王冠』……、確かそんなタイトルだったっけ?」


 スクリーンから視線を外した天使は、ふいに可笑しなものでも見たかのように笑い出した。


()()()()()なんて、面白いこと考える人もいたもんだよねぇ」


 それがこの先、あの世界の今を生きる彼女にとってどんな風に影響を与えるのか、それを考えると天使の胸はワクワクが止まらなかった。


 今を生きる現世の魂たちの生き様は管理者である者たちにとって、一人一人を主軸に描かれる人生という名の映画のようなものだ。

 そのほとんどは多少の違いがあれど、みな似たり寄ったりなストーリーを進んでいく。良く言えば定番だが、悪く言えばありふれていて見飽きたストーリーだ。

 けれど極たまに、ほんの一握りの魂は、こちらが思いもしない以外な展開に向かっていくことがある。

 そんな魂のストーリーは、人生という映画を数多く見てきた管理者たちからすれば心踊らさずにはいられない最高の娯楽だ。

 悪趣味と言うなかれ。ここはそういう場所だと思って諦めてほしい。


 そして今現在。この自称天使の関心は自らが異なる世界へと送り出したふたつの魂のうち、全ての事情を知る魂のほうに向けられていた。


「知ってるはずの未来が壊れた世界で、君はこれからどうするかな」




 ねぇ、気づいているかい?

 向こう側からそちら側に繋がることができるということはね。

 その逆もまた、可能だということなんだよ?


 ねぇ、君が物語の中だと思っているその世界はさ。











 ――――――――本当に『物語の中』なのかな……?




新章スタート。


始まりは魂の管理施設から…………。

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