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プロローグ
暗く、残酷な描写があるのでご注意を。人が死にます。
私の命は、私のものではない。
深々と降る雪。遠くの方から聞こえる賑やかな音、鮮やかな色。今日は聖夜。
「お兄ちゃーん! 早く早く!」
真っ白なリボンで高く二つに結い上げられた黒髪を揺らし、少女は笑う。
「―、そんなに急がなくてもケーキは逃げないよ」
苦笑しながらも、先ほどまでより速く足を進める少年。少年が呼んだはずの少女の名は、ノイズでかき消され、聞こえない。
突如暗闇に包まれる。音もなくただひたすらの闇。
しばらくした後、光が戻る。
最初に見えたのは、白に滲んだ赤。ぐったりとして動かない少年。月の光を反射し光る銀。
「やっ、いや、兄ちゃ、ちゃ、お兄ちゃ、いやーーー!!」
少女の悲鳴。それをあざ笑うかの様な笑い声。赤くぬれた銀と醜くゆがむ灰色の瞳、そして声が少女の心に刻み込まれた。