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大江戸コボルト【WEB版】  作者: ふーろう/風楼


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秘銃


 鉄砲、あるいは銃を手に入れるというのはそう簡単なことじゃぁねぇ。

 猟に使うだとかそれ相応の理由を提示した上での幕府の許可が必要になってくるし、その値段も決して安いもんではねぇからだ。


 旋条式……鉄砲の銃身に螺旋状の溝をつけて銃弾を回転させることで真っ直ぐに、より遠くまで飛ぶようにした最新の鉄砲なんかは特に高価で、ものによっては刀よりも良い値段がついていたりする。


 そういう訳でダンジョンから一旦撤退した俺達は、以前よりもだいぶ少なめとなったドロップアイテムを提出するついでに鉄砲の所持、携帯、使用の許可を取ろうとした訳だが……手続きを進めてくれていたはずの担当者から、どういう訳か急に吉宗様の下へ行くようにと言われてしまい……そうして俺達が言われるがままに上様の自室へと足を運んだのだった。


「……秘銃を知っているか?」


 自室へと入り時節の挨拶を済ませ、いつもの場所に座って……その直後に上様が口にしたのはそんな言葉だった。


「秘銃……?」


 聞き覚えのない言葉に俺がそう返して首を傾げていると……俺達の中で唯一心当たりのあるらしいポチが声を上げる。


「……まさか噂のあれのことですか?

 幕府が秘密裏に開発した噂の、旋条式の鉄砲を超えた威力と射程と連射性を誇るという最新式の……」


「うむ、それだ。

 秘銃とはすなわち威力も射程も連射性もこれまでのものとは段違いで、そんなものが一般に流通してしまっては、何かあった時に困ったことになるだろうと、前の将軍が秘匿を決めた銃のことだ。

 秘匿を決めたものの、他国がそれ以上のものを開発しては困ったことになると、研究自体は幕府の……ある奉行の下で続けられていてな……。

 犬界、お前にはその秘銃の、最新の数歩前の作……いや、数十歩前の作を貸し与えてやろう」


 ポチの言葉に頷いて、そんなことを言ってくる吉宗様に、一瞬なんと返したものかと悩んだ俺は……頭を下げて「謹んで拝受いたします」とだけ返す。


 吉宗様のことだ、何か考えあってのことなのだろうし……鉄砲が楽に手に入るというのなら、それに越したことはねぇ。

 ここは一つ吉宗様の世話になるとしよう。


「よしよし、それでこそ犬界だ、話が早い。

 ……こちらに思惑があることにも気付いているようで、その点でも話が早い。

 という訳でここからはその思惑についての話になる。

 年月と金銭をかけただけあって秘銃の研究開発は順調に進んでいるものの、実戦あるいは演習での使用というのはその秘匿性から一度も行われていなくてな……前々から外界から遮断された環境であるダンジョンでの試験使用を出来ないかと、そんな案が練られていたのだ。

 だがダンジョンにはどうしても危険がつきもので実験場としては最適とは言い難く、中々許可を出来なかったのだが……閉鎖中のあのダンジョンであれば、猪鬼を容易に抑え込む事のできるお前達であれば、秘匿性、安全性、その両面において安心して任せられるのでは? と、そう思い至ったという訳だ。

 それでも最新式のものは任せられんし、使用はあのダンジョンに限定することになるし、使用後に薬莢……と言ってもお前達には分からんか。ある部品をしっかりと回収してもらう必要があって、面倒なことかと思うが……余の顔に免じてここは一つ頼まれてやってくれんか」


「御意」


 吉宗様にそこまで言われたなら、そう答えるしかなく、俺はもう一度頭を下げてそう即答する。


 すると吉宗様は「よしよし」とそう言って立ち上がり……その背後に隠していたらしい、両手で抱える程の桐箱を取り出し、俺の前にそっと置く。


「これが秘銃……鎖閂式と呼ばれる形式の銃となる。

 開けて確かめてみよ」


 箱を置いたまま、俺の前にしゃがみこんだままの吉宗様の言葉を受けて、俺が箱の蓋をそっと持ち上げると……中には火縄銃とは全く違う仕掛けのものが入っていて……そっと手を伸ばした俺は、それを持ち上げ、恐らく発射機構と思われる、銃身後部に押し込まれている、変な取っ手付きの長い棒へと手をやる。


「……火縄は使わないのですね」


 火皿と火ばさみが無いのでそれは明らかだった。

 妙な形の引き金は随分と固い手応えで……どうやら取っ手付きの棒の動きと連動しているらしい。


「ああ、使わん。火薬も使わん。

 それらの発射機構は全て薬莢という形で弾の方に仕込まれることになった。

 薬莢とはすなわち、銃の方で叩いてやるだけで火薬のように弾けてくれる便利なものでな……火薬込めの必要はなく、ただ弾を込めてその取っ手を動かし、引き金を引くだけで弾が発射される。

 これだけでどれだけ便利なものか分かるだろうが……更に銃身と発射機構そのものも改良されていてな、五発までの弾を込める事が……出来てしまうのだ。

 つまりは弾込め無しの五連射が可能という訳だな……。

 取っ手を引いて引き金、取っ手を引いて引き金、これを繰り返しての五連射だ。

 その取っ手と棒は、発射機構に弾を装填するためのもので……発射後に銃身内に残る部品、空薬莢を排出するものでもある。

 開発したドワーフ曰く、ボルトアクション銃……とのことだ」


 実際に弾を込めて撃ってみないことには何とも言えないが……吉宗様のその説明だけでとんでもない代物だということが分かる。

 

 そして幕府がこれを今まで秘匿していたというのも納得だ。

 この銃が十丁か二十丁程並んで、一斉に撃たれたなら、どんな猛者でも魔物でもあっさりと命を落とすことだろう。


 どんな相手でも引き金一つで倒せて、どんな数でもこれを揃えたなら圧倒出来て……。

 鉄砲というのは元々そういうもんだが、それを更に凶悪にした、なんとも嫌な感じがこの取っ手から伝わってくる。


 ……全くもって好みじゃねぇというかなんというか、今回以降俺がこれを使うことはねぇだろう。

 吉宗様のために試験使用をたっぷりとやって……それでおさらば。


 その銃をそっと桐箱の中に戻しながら俺は……こういうのはずっと秘匿されたまま、使われないのが何よりなんだろうと、そんなことを思わずにはいられないのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 離菩留馬亜ー! 火縄銃も頑張ればいける!だが威力と射程と重量がな~
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