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黒刀


 新たな刀……尋常では無い重さの黒刀を手に入れた翌日。


 俺はポチ、シャロンと共に江戸を離れての、山歩きへと繰り出していた。


 主な目的としてはシャロンの薬草、毒草採集を手伝うということになっているが……俺とポチが手に入れたそれぞれの新しい武器を存分に振り回せる空間で試す、という目的もあってのことだ。


 俺の刀はまぁ良いとして、江戸城に傷をつけてしまうようなポチの小刀は道場内で振り回す訳にはいかず……振り回せるとしたら山奥の、誰もいないような場を見つけるしかねぇだろう。


 とはいえ、あくまで主目的は薬草採取、まずはシャロンの指示に従いながら、山の中を進みながら様々な植物の葉や根、実や茸を集めていく。


「あ、それは素手で触らないでくださいね。

 それはこっちの革袋にいれて……はい、そっちは背負籠にごちゃまぜで良いです。

 あ、あせびは弱毒ですが、他の毒と混ぜることで効果が増すので摘んでおいてください。

 葉を数枚……取りすぎない程度で良いです」


 と、そんなシャロンの指示に従いながら背負籠や腰に下げた複数の革袋を満たしていき……更にシャロンはそこらを這い回っている毒虫まで捕らえては手に持った壺の中へと投げ入れていく。


「……蠱毒って訳じゃぁないんですが、虫も中々の毒を持ってますからね。

 そんな虫を普段から食べている動物や鳥の内臓なんかに毒が貯まってることもあるんですが……こっちは量が不安定なのと、捕まえるのが手間なので、あまり手を出せないんですよね。

 噂ではカラスの内臓は中々の毒が貯まっているとかなんとか……いつか試してみたいものですね」


 流石というかなんというか……シャロンの知識は中々のものだった。

 勿論毒だけでなく薬草や、山菜、木の実なんかも集めていって……それらが一段落したなら、シャロンの案内に従って山の奥へと足を進めていく。


「もう少し行ったらちょっとした広場と言いますか、誰かが住んでいたのか、切り拓かれたような場所がありますので、そこまでいったら鍛錬といきましょう」


 そんなシャロンの言葉に頷き、山道を歩いていって……それなりに歩いた先に、雑草が生い茂ってはいるものの、木の姿がない……誰かの手が入ったらしい一帯が視界に入り込んでくる。


「確かにここなら鍛錬に良さそうだが……どうにも草の背が高いというか、多すぎるな。

 ……ポチ、いけるか?」


 その一帯を見やりながら俺がそう言うと、ポチがこくりと頷き、例の小刀を抜き放って……、


「せぇい! せい! せい! せい! せい!」

 

 との掛け声を共に小刀を振り……小刀の刃から次々と、魔力でもって生み出されたらしい刃が放たれていく。


 魔力。異界の連中や陰陽師達が使いこなしている、神通力とも言われるよく分からねぇ力。


 今ではすっかりと当たり前な……日常に定着した力の一つでもあり、エルフやドワーフが作った品々にはこの魔力が使われていることが多い。


 コボルト達は元々異界の住人だったということもあり、生まれつき保有している魔力が多いとかなんとかで、コボルトクルミにもいくらかの魔力が含まれているらしい。


 そんな魔力によって生み出された刃が、次々と目の前に広がる草を切り裂いていって……周囲に草を刈った時のあの匂いが充満していく。


「……本当に便利な小刀だよなぁ。

 ひとたび放たれた刃は、その力が失われるまで突き進んでいって、元々実体が無いから草の汁なんかで汚れることはねぇし、切れ味が落ちることもねぇし……。

 それでいて切れ味は上等、念じながら振りさえすれば良いから力もいらねぇし、矢弾だとかも必要ねぇ。

 振り方の角度を工夫したなら飛んでいく刃の角度も調整できるし……うぅむ、草刈りにおいては天下無双だな、こりゃぁ」


 低い位置で横薙ぎに振るえば、草を根本から一直線に断つことができて、結構な広さの広場を支配していた草があっという間に倒れ伏していって……倒れた草が敷き詰められた空間が出来上がる。


 そんな事を考えての言葉に対し……一帯の草を刈りきったポチが言葉を返してくる。


「はぁ、はぁ、はぁ……ふひぃ~~~。

 振り回している方としては結構疲れますし、言う程楽なものでもないですが……確かに鎌での草刈りと比べたらかなーり効率が良いですね。

 以前大鎌を振り回しての麦刈りを見たことがありますが、全く比べ物にならない速さですね」


「その上、実体じゃねぇからか、魔力だからなのか、アメムシみたいな存在にも効果的なようだしなぁ。

 全く便利なもんを手に入れたもんだ。

 ……ま、場も整ったことだし、早速鍛錬を始めようとするか。

 シャロン、背負籠やら袋やらはここに置いておくから、後は頼む」


 と、そう言って俺達が籠や革袋をそこらに置くと、シャロンはこくりと頷いてくれて、適当な倒木にすとんと腰を下ろしてから、それらの中身の吟味をし始める。


 そんな中俺達は倒れ伏した草を踏みつけながら広場へと足を進めていって……俺は黒刀を抜き放ち、ポチが小刀をくいと構えて、それぞれ別の方向を向きながらそれらを振り回す。


 今日は防具などは一切装備せずの、山歩きに適した旅装姿となっている。


 袴の裾にも、着物の袖にもサラシが巻きつけてあり……虫やらが入り込んだりしないように、手足を動かす際に邪魔にならないようにしてあり……そんな姿で、重すぎる程に重い黒刀を振り回していく。


 何度振っても中々慣れない重さで、ついつい体が流されてしまう。

 ここまで来るまでにも、重くて重くて、あまりのその重さに投げ出しそうになった程だ。


 しっかりと力を込めてしっかりと大地を踏みしめながらでも体の軸が全く安定しない。


 全く嫌になるほど重く、こんな刀使い物になるのかと思ってしまうが……その漆黒の刃から伝わってくる力強さは確かなもので、たとえ横っ腹を木槌で叩かれてもこの刃はびくともしないのだろうなという、確信めいた予感がある。


 ……実際に折れた日にはシャレにならねぇというか、ネイに何を言われるか分かったものではないので、試す気にはならねぇが……実際にやったなら木槌のほうが砕けてしまうのではないだろうか。


 もしそうなら、こんなに頼りになる刀はねぇだろう。


 その上切れ味もよく、その切れ味が落ちにくいとなったら……大業物どころか、かの童子切すらも霞むと言っても過言じゃねぇ。


 ……とは言え、どんな名刀であれ使いこなせなければただの鉄の棒、鉄の板でしかない。


 なんとしてでもこの黒刀を、この重さを自らのものにしてやるぞと気合を入れ直した俺は……「せぇぇぇい!!」と気合を入れた声を上げながら、黒刀を振り続けるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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[一言] ポ「草刈り…草…緑…。よし、では薄緑と」 シ「ダメです」
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