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小刀


 運びやすいようにまとめた鉄の山を、何度か往復することで運び出し……そうして俺達は江戸城へと帰還した。


 帰還後ただちに吉宗様の下へと向かい、事の次第を報告し……ポチが手にしている小刀と、金貨を一人一枚ずつ持ち帰る許可を頂いて……お褒めの言葉と労いの言葉を頂戴し、吉宗様の自室を後にすると、報告に同席していたハーフエルフの深森が大きな声を上げながら追いかけてくる。


「ちょぉぉおっと待ってくださーーーい!」


 俺とポチとシャロンはその声を無視して足を進めて、江戸城の廊下をすたすたと歩いていって……廊下の先にある階段に差し掛かろうとした時、深森が俺達の前へと躍り出る。


「まっ、まっ、待ってくださいよぉぉぉ!

 話くらい聞いてくれても良いじゃないですかぁぁぁ!」


 息を切らし、肩を揺らし、そう言ってくる深森に俺は面倒だなとため息を吐き出し、言葉を返す。


「……どうせポチの小刀をよこせとか、そんな話なんだろう?

 お前に譲る気なんかはさらさらねぇから、さっさと帰れ」


「んぐ……そ、そ、その通りなんですけどー、あまりに無体が過ぎませんー?

 少しは交渉をしてくれても良いじゃないですかー」


「誰かに譲ると言うのなら、誰あろう上様にお譲りしている。

 上様にも譲らなかった品をどうしてお前なんかに譲らなければならねぇんだ」


「ひどい!?

 待ってください待ってください、そのナイフをよく見てくださいー!

 明らかに不必要な過剰な装飾に、精緻な模様に綺麗な刃紋、絶対に何か意味がありますよー!

 文化的か、宗教的か、あるいは魔法的な特別な意味が! それを研究するだけでも様々なことが分かるかもしれない訳で! 宝飾品としての価値よりも文化的な価値が高いんですよー! 

 それに一体全体そのナイフをどうする気なんですかー! まさか実戦で使うなんて言いませんよねー!?

 そんなことしたら刃がかけて刃紋に込められた意味が解読不能に……!!」


「そんなこと言われてもなぁ……。

 ポチがあれこれ試していたが、あの小刀、思ってた以上に切れ味が良いんだよ。

 下手な刀より良いくらいでなぁ……あれなら戦闘にも他にことで重宝しそうだしなぁ。

 ……ま、お前に譲ることだけは絶対にねぇから、諦めろ」


 小刀の性能の良さを語るうちに深森がその目を煌めかせ始めて……これは面倒なことになりそうだと、そう考えた俺は、それで話を打ち切って階段を降ろうと足を進める。


 それにポチとシャロンが続き、深森が意地になって追いかけてきて……江戸城の一階、玄正面関まで至ったところで、深森が最後の粘りを見せてくる。


「な、ならせめて、その刃紋をもう一度、もう一度見せてください!!」


 俺はその言葉に今日一番のため息を吐き出して……仕方無しに言葉を返す。


「見たければ上様付きのコボルト達が記録のためにと描いていた、写しの方を見たら良いだろう。

 薄紙張り付けて、浮き出る刃紋をなぞりながら描いただけあって、正確な写しに……」


「ほ、本物が見たいんですー!

 この目で! 目の前でーー!!」


 そう言って大騒ぎする深森。


 そもそもこの江戸城で刃を表に出すなど余程のことがなければ許されないことだ。

 実際に今ポチが手にしている小刀も、間違いがないようにと麻ひもで、鞘ごときつく縛り上げられている訳で……その刃紋を表に出せなど、深森は一体何を考えているのだろうか。


 俺はなおも騒ぎ続ける深森の声に顔を歪めながら、数人の人間とコボルトの警備員達へと視線を送るが……警備員達は見て見ぬ振りと言った様子で、何も言ってこないし、何もしてくれない。


 むしろその目は、さっさと刃紋を見せてさっさと深森を大人しくしてくれと言っているようで……大きなため息を吐き出した俺は、ポチとシャロンの方を見て、二人に確認を取ってから、足を進める。


「ま、ま、待ってくださいーーー!

 見せてくれるまで、見せてくれるまでは逃しませんよーー!」


「うるせぇ!

 江戸城の中で刃を抜ける訳ねぇだろうが!

 玄関を出たらそこで一瞬だけ見せてやるから、それで納得しやがれ!」


 深森の言葉にそう返して、俺が足を進めると……先程までの醜態は何だったのやら、にこりと笑い大人しくなった深森が、素直に後をついてくる。


 この女はまさか上様の前でもこんなことをやっているんじゃねぇだろうな? と、そんなことを考えながら玄関を出て、数歩進んで……そこでポチが小刀の封を解き始める。


 それを受けて深森は、ポチの側にしゃがみ込み、その様子をじっと見やりながら子供のような歓声を上げる。


「おおー! ……おおおおーーー!

 先程も見ましたが、美しい装飾ですよねー。

 実戦用というより儀式用……でもこの感じ、なんだか臭うっていうか、やっぱり魔法的な意味が込められてそうな……。

 あ、ポチさんポチさん、あの壁に向かって軽く振ってくれません? こう、壁を切り裂けって念じながら!」


 壁を切り裂けも何も、今俺達が居る位置から深森が示した壁……江戸城の壁まではそれなりの距離があり、小刀の刃が届くような距離では決して無い。


 それでも深森がやってほしいと、やらなければさっきのように騒ぐぞとの態度を見せてきて……仕方ないかとため息を吐き出したポチは、小刀をぐっと握り、壁を切り裂けと念じているのだろう「むむむ」と声を上げて……、


「えいっ!」


 との掛け声と共に小刀を振るう。


 その瞬間起きたことを、俺は生涯忘れられそうにない。

 小刀の刃紋が淡い光を放ち、柄や柄の宝石がきらりと煌めき……何がしかの力が刃から放たれ、江戸城の壁にざくりと傷跡を作り出す。


「は、はぁぁぁぁぁ!?」


 小刀が見せたまさかの現象と、江戸城を傷つけてしまったというまさかの事態に、俺はそんな声を上げて……深森がきゃっきゃきゃっきゃと騒ぐ中、愕然とするのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回は小刀についてあれこれです。

その次から道楽パートとなる予定です。

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