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アメムシ戦 その1


 盾を構える俺達の前に現れたそれは、なるほど、液体生物というだけはあるなという魔物だった。


 人の頭ほどの大きさ、丸かったり平らだったり不定形な身体。

 目もなく鼻もなく口もなく、ただ液体が意思を持って動いているかのようなその姿はあえてたとえるなら―――


「わらび餅?」


 だった。


 アメムシというよりも、水の魔物というよりも、何の味付けもされていない、綺麗なわらび餅と表現するのが的確と思えるそれは、先程の連中を追いかけようとしているのか、それとも俺達に狙いをつけているのか、ずるりずるりと水音を立てながらこちらに近付いてくる。


「とりあえず四体、か……よし、ポチとシャロンは手を出さずに警戒を頼む。

 こいつらは壁や天井からの奇襲を得意としているそうだから、そこら辺に気をつけてくれ」


 と、そう言って俺は、盾を構えながらアメムシ達の方へと足を進める。


 兎にも角にも一度ぶち当たってみて、相手の出方を見ないことにはどうにもならねぇと、そんなことを考えながら足を進めた俺は……なんとも呑気に床を這い続けるアメムシに向けて、構えた盾を強く突き出し、アメムシに有効らしい打撃を与えてみる。


 すると盾での打撃を受けた一匹のアメムシは、水の入った革袋をそうしたような感触を伝えてきて……思いっきりに吹っ飛んでべちゃりと地面に落下する。


 その一匹はそれきり動かなくなり……残りの三匹は相変わらず俺達の方へと近付いてきていて、俺はそのアメムシ達に向けて続けざまに盾での一撃を放つ。


 そうしてアメムシ達は四匹全てが吹っ飛んで……地面にべちゃりと落下して、生きているのか死んでいるのかも分からない、潰れた餅みたいな状態のまま、一切の動きを見せてこない。


 ……盾を構えながらその姿をじぃっと睨みつけた俺は、どうしたもんだろうなぁと首を傾げる。


「随分とまぁ手応えがねぇなぁ。

 酸を吐き出してきたのやらもよく分からねぇし……ただ、小鬼の時のように消えないってことは、まだ戦闘中ってことになる……のか?」


 首を傾げながらの俺の言葉に、ポチもシャロンも唸ることで『どうでしょう?』との答えを返してきて……そうして俺が潰れアメムシ達の様子を見続けていると、後方のポチから鋭い声が響いてくる。


「狼月さん! 上です!!」


 その声の鋭さから尋常のことではねぇなと察した俺は、上を確認するよりも先に盾を上に構え、構えながら後方へと飛び退る。


 直後構えた盾にべちゃりとの感触が伝わってきて……天井から落ちてきたアメムシが盾に当たったのだと理解した俺は、兎にも角にもとポチ達の側まで後退ってから、アメムシが乗っかっているらしい盾を、ダンジョンの壁へと叩きつける。


 すると今までの水のような感触とはまた違う、何かが破裂するような……破裂しその勢いでもって雲散霧消するような独特の感触と、『しゅうぅぅぅ』との何かが抜けるような音が伝わってきて……俺は直感的にそれらが、アメムシの魔力とやらを散らした際に発生するものなのだと理解する。


 そうして壁から盾をさっと離すと……その中身を失って薄皮のようになったアメムシの姿がそこにあり、俺は手にしていた鉄の棒でそれをつつき……動かないのを確認してから、棒でもって盾から引き剥がす。


 その薄皮がどういった物体なのか、アメムシの中身がどうなったのか、色々と確認したいことはあったが、今はそれよりも敵への対処が先だと、前方へと向き直り、盾を構え直しながらダンジョンの天井を確認すると……そこには十匹か、二十匹程のアメムシの姿があり……先程見た四匹よりも活発に、その形を激しく変えながらぐにぐにと蠢いていた。


「……あれが本隊で、今のは囮を使っての奇襲ってことか?

 あんな身体の癖に随分と賢いじゃねぇか……あれの何処に脳みそがあるってんだ、まったく」


 その様子を睨みながら俺がそうぼやくと……俺の足元で投げ紐を構えていたシャロンが、投げ紐に薄紙包みを設置してからぶんぶんと振り回し、天井のアメムシ達に向けて放り投げる。


「塩です!」


 投げながらそう声を上げるシャロン。


 これは石灰ではないから、熱やら何やらに気をつける必要は無いとのその声に、俺は頷きながら盾を構えて、塩が着弾後すぐに追撃できるように足を前へと進める。


 するとアメムシ達は、まるでシャロンの言葉を理解しているかのように、それが自分達の弱点である塩だと分かっているかのように、薄紙包みが着弾する前にそそくさと後方へと逃散し……アメムシ達が居なくなり、その粘液だけが残る天井へと包みがぶち当たり、中の塩が周囲に散乱する。


「え、え、え!?

 まさかこっちの言葉を理解している!?」


 全く予想外の事態にそんな悲鳴を上げるシャロン。


「塩という単語を理解したのか、敵の攻撃だからと本能的に回避したのか、それともなんらかの器官であれが塩だと察知したのかはまだ分かりません!

 とにかくあの連中は、思ったよりも賢く狡猾で、連携までする厄介な相手のようです!」


 と、大きな声を返すポチ。


「保育園の子供達とどっちが賢いのか競わせてみたくなるなぁ! まったく!

 シャロン! 避けられちまうんだとしても牽制できるならそれで良い! 連中に塩をぶちまけてやれ」


 続けて俺がそう言うと、シャロンはこくりと頷いて次弾を装填し、投げ紐をひゅんひゅんと振り回し始める。


 そんなシャロンのことを守ろうと盾を構えたポチがシャロンの前に立ち、俺は連中が先程までいた天井を……ねとねとした粘液の残る天井を睨みながらゆっくりと足を進める。


 天井の粘液には先程シャロンが放った塩粒が貼り付いていて……塩が粘液の水分を奪っているのか粘液が塩を溶かしているのか、そこからしゅうしゅうと、先程聞いたばかりの音が響いてくる。


 果たして塩が連中の本体に直撃したらどうなるのか、しゅうしゅうと音を立てながら先程のような薄皮になるのか、それとも別の反応をするのか……。


 そこら辺のことを確かめるために俺は、盾をぐいと構えて、前方の天井を這うアメムシ達を睨みつけるのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回はこの続きです。

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