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寄付


「あーあーあー、今日は遊びに来た訳じゃねぇんだ! 後にしろ後に!

 それとダメダメ狼月とか言ったやつ! 後でぶん投げてやるから覚悟しとけ!!」


 と、両手両足、胴体に背中、頭にまでコボルトまみれとなった俺が、そう言いながら奥へ奥へとコボルトの海をかきわけていくと、手慣れた様子で子供達を引き剥がしては放り投げ、引き剥がしては放り投げ、あるいは飛びついてくるのを上手く回避してと、器用な真似をして見せるポチとシャロンが子供達のそれに負けない大きな声をかけてくる。


「その言い方だと結局、後で遊んであげないといけなくなっちゃうじゃないですか……!」


「そうですよ、この子達が喜んじゃってるじゃないですかぁ……!」


 そう言った二人は子供達の攻勢に慣れきっている様子を見せていて……幼い弟妹達の世話で慣れていることが、その姿から伺える。


 俺も何度かこの保育園には足を運んでいて、それなりに慣れてきたつもりではあるのだが、二人の子供捌きにはまだまだ及ばない部分がある。


 そうしてポチとシャロンの言葉通りに俺の言葉を遊ぶ約束と捉えてしまった子供達が元気になってしまい、嬉しそうに暴れ始めてしまい、そのあまりの攻勢に耐えかねた俺が、


「おらおらおら、今日の俺達は寄付をしにきてやったお客様だぞ!

 俺達の寄付でお前らの飯とおやつが豪華になるってのに、邪魔して良いのか、えぇ!!」


 と、そう言うと、子供達は一瞬で攻勢の手を止めて、ざざざっと俺達の周囲から、前から退いて、運動場の向こうにある保育園本館への道を作り出す。


「……現金っつーかなんつうか、流石コボルトの子供達だなぁ」

 

 その様子を見てそう呟いた俺に対し、ポチとシャロンは素知らぬ顔を作り出し、道を真っ直ぐに歩いていく。


 俺はそんな二人の後を追いかけながら、きらきらと輝く目でこちらを見つめながらそわそわと尻尾を振り回している子供達のことを観察する。


 成長の早いコボルト達は、四歳か五歳になって身体が出来上がればそれで働くことが出来るし、山野などでの狩りなんかを行うことも十分に出来る。


 その時に身体だけでなく精神も大人になっているかは本人の素質と両親の教育次第であり、そして今この保育園にいる子供達は、生まれたばかりから三歳くらいまでの子供達となっている訳だが……。


 ……どうやらその精神の成長は、働いたり狩りをしたりするほどには至っていないようだ。


 色々な勉強や職業訓練は受けているのだろうが、まだまだ遊び盛り、その精神は幼いままで……これはこれで太平の世の光景と言えた。


 子供が子供らしくあれる世というのは、それだけで価値があるものだと俺は思う。


 と、そんなことを考えながらコボルトの道を歩いていって……大きな長屋のような形となった本館へと近付いていくと、本館の中から何人かの割烹着姿の職員と、立派な着物を着た園長が満面の笑みで姿を見せる。


 園長と職員の半分は人間で、もう半分が大人のコボルトで。


 先程の俺の言葉を聞いていたのだろう、その顔はどこまでも笑顔で……その笑顔に負けた俺は、挨拶よりも先にと、懐に手を伸ばし、寄付するための銭を包んだ布包みを取り出す。


 そうして園長の側へといって、それを手渡してやると……その重さで大体の金額を察したのか、園長の笑みが……シワのある、六十代くらいだろうかという女性の笑みが、大きなものとなり、シワがくっきりと深くなる。


「……ありがとうございます、犬界さん。

 おかげで子供達に美味しいものを食べさせてあげることが出来ますよ。

 ……最近は色々とご活躍だとのお噂ですが、このお金もそれに関係したものですか?」


 シワを深くしたままそう言ってくる園長に俺がこくりと頷くと、園長は何度も何度も、心から喜んでいるといった様子で頷いてから言葉を続けてくる。


「なるほど、なるほど。これも全ては上様のご決断のおかげという訳ですね。

 穏やかでこれといった変化の無い日々もそれはそれで良いものですが、良い方向へと変化していく、発展が続く日々というのも、それはそれで大切なこと。

 犬界さんとポバンカさんと、そちらのお嬢さんと……それと上様には足を向けて寝られませんねぇ。

 改めてありがとうございます、大切に使わせて頂きますね」


 と、そう言って園長は一礼をして、職員とともに本館の奥へと歩いていく。


 大事そうに……本当に大事そうに布包みを抱える姿はなんとも身につまされるものであり、これからも出来るだけ寄付するようにするかと、そんなことを考えていると……背後から騒がしい声が響き聞こえてくる。


「上様だって! 上様のおかげだって!!」

「俺知ってる! ダンジョンでリッシンシュッセできるんだぜ!」

「はー! 狼月が遊んでるのは、ダンジョンのおかげかー!」

「ダンジョンにいくと、うまいもんが食えるの!?」


 その声はどうやら、俺と園長の話を盗み聞きしていた子供達のもののようで……とりあえずの用事を済ませた俺は、踵を返して向き直り、いつのまにやらすぐ後ろまでやってきていた子供達へと両手を伸ばす。


「言っておくがなー! ダンジョンはそれなりに危険な、怪我をするかもしれねぇ場所なんだから、迂闊に行こうだなんて考えるんじゃねぇぞ! このガキどもが!!」


 そう言って子供達のことを捕まえて、撫でてやったり、放り投げてやったりしてやって構っていると、子供達は尻尾を激しく振り回しながら、両手両足を地につけて、ぐいと頭を下げて、ぐいと尻を上げて、まるで犬がそうするかのような、今にも飛びかからんという構えを取る。


 それを見たポチが、


「こら!! 僕達は犬じゃぁないんですから! そんな構えをとっちゃいけません!」


 と、大声を上げると、子供達は勝手にそれを合図にして、俺達の方へと力いっぱい元気いっぱいに飛びかかってくるのだった。

 


お読み頂きありがとうございました。


次回はダンジョン突入です。

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