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アメムシ攻略法


 江戸城へと引き返した俺達は、情報を求めて吉宗様の下へと向かっても良かった……のだが、お忙しい所に何度も邪魔するのも悪いだろうと考えて、吉宗様の自室ではなく、江戸城東棟の情報室へと足を向けた。


 通気性を重視した造りの情報室には、いくつもの書架が整然と並んでいて、その書架全てを隙間無く埋め尽くそうとしている無数の本達と、それらを手に情報の分析、研究に励んでいるこれまた無数の研究員達の姿があり……俺達が足を踏み入れたのを見るなり、情報室室長が……裃姿の黒毛のコボルトが裾を擦りながらこちらに歩いてくる。


「やぁやぁ、犬界殿ではありませんか。

 こちらに来るとは珍しい……何か情報がご入用ですかな?」


 もさもさとした眉ともさもさとした髭ともさもさとした体毛と、ピンと立った尖り耳。


 情報室室長クロヴィス・ベルナドッドは手にした本をぱたりと閉じて「こちらでお話を聞きましょう」とそう言ってから自らの机がある一画へと足を進めて、机の前の椅子にゆっくりと腰を下ろす。


 俺達は壁際に置いてあった椅子を手にとってクロヴィスの下へと向かい……椅子を横一列に並べて腰を下ろす。


「ダンジョンに出現する魔物に関して、最新の情報をもらおうと思ったんだが……問題はあるか?」


 吉宗様直属の御庭番衆である俺やポチでも江戸城に集約された情報の全てに触れられる訳ではない。

 立場や役職などが影響する様々な制限がある訳だが……椅子の隙間から顔を出したクロヴィスの尻尾がゆらゆらと揺れているのを見る限り、どうやら問題は無いようだ。


「最新のと言いますと、やはり探索者達から収集した情報のことなのでしょうな。

 はいはい、閲覧は全く問題なく行なえますよ。

 犬界殿達が集めてくださった情報もそうですが、情報に相応の報酬を出しているということは、その情報を幕府が買い取っているということと同義。

 ……幕府が買い取った情報を、幕府の職員が閲覧することに、問題などあろうはずがございません。

 で、具体的にどんな魔物の情報を欲してなさるので?」


 そう言って興味深げに前のめりになるクロヴィスに、俺が「アメムシに関して」と返すと、クロヴィスはその毛をふさりと揺らして渋い顔を作り出す。


「ああ、アメムシですか……。

 犬界殿、その呼称に関しては我輩、すこーしばかりどうかと思う所がありますな。

 かの小鬼についてもそうですが、彼奴らにはゴブリンという正式名称がございますし、ダンジョンのアメムシにもスライムという正式名称がございます。

 そも、アメムシとはこちらの世界にも生息している単細胞生物のことでございます。

 似ているとはいえ、かのスライムをアメムシと呼ぶのは全くもって正しくなく、正しくない呼称を定着させようという動きというのは、知識に対する情報に対する反逆であり、我輩の立場上そういったことを放置しておくには―――」


 どうやら面倒くさい部分にある逆鱗に触れてしまったらしく、加熱しながらそんな言葉を吐き出し続けるクロヴィス。


 そんなクロヴィスを見てシャロンは俺とポチに対して「止めないのですか?」と言わんばかりの視線を送ってくるが……このクロヴィスに関しては下手に口出しせず、放置しておくのが最善だと知っているので、俺もポチも何も言わないまま……シャロンにも何も言わないでおけと、仕草で伝えて、口を閉ざし続ける。


 そうしてクロヴィスの口の暴走を、ただただ静かに見守っていると……気が済んだのかハッとなって冷静さを取り戻したクロヴィスが「―――で、何のお話でしたかな?」なんてことを言ってくる。


 それに対して俺が「スライムに関してだ」と返すと、クロヴィスは「なるほど」と一言つぶやいて立ち上がり、書架の方へと歩いていって……その情報が記されているらしい書類の束を持ってきてくれる。


「スライム……ダンジョン関連法案にあるところの『第二ダンジョン』の主敵。

 生態などについてはっきりしたことは分かっておりませんが、その身体と行動を維持しているのは魔力であると、あちらの世界での研究結果が存在していたそうです。

 そしてこのスライムに関しての最新情報となると……探索者達からの報告について、ですかな?

 ああ、犬界殿達の立場からするに、討伐方法に関して……でしょうか。

 基本方針は簡単です、その魔力を散らせばそれで良いのです。

 つまり最適解は魔法ということになりますな、次に火が効果的とされていて……電気なども効果的なのではないかとの研究が進んでいます。

 斬撃はあまり推奨されません、そも彼奴らは通常の生物ではなく、ただ水と魔力だけの存在ですので、斬ったところで怪我も絶命も何もない訳でして……むしろ下手に斬ってしまえば、分裂という結果に繋がり、彼奴らの数を増やすことに繋がってしまいます。

 打撃が有効とされているのは打撃そのものが有効というわけではなく、広い面での衝撃がその魔力を散らすのに効果的である、というだけのことなのです」


 書類を持ってきながらそう言ったクロヴィスは、書類に目を落としたまま椅子に再度すとんと座る。


「ちなみに……ですが、現在第二ダンジョンに挑んでいる者達はそのほとんどがスライムに苦戦しており、攻略は遅々として進んでいません、最奥到達者は皆無です。

 ここまで時間がかかってしまうとなると、いっそ第二ダンジョンを飛ばして第三ダンジョンに挑んだ方が良いのではないかと思われていますが……そこは新法の落とし穴といいますか、見落としと言いますか、不可能ということになってしまっていまして、今お上の方で法改正の議論が進んでいるところです。

 ここで犬界殿達が効果的な攻略法を見つけてくださるとそこら辺のことが綺麗に解決してくれてありがたいのですが……。

 え? 毒? ああ、スライムに効果的な毒の種類ですか?

 それはえぇっと……おや、毒を使っている者がいないのか最新の情報には記されていませんねぇ」


 そう言ってクロヴィスは立ち上がり……再度書架の方へと向かって別の書類を持ってきてくれる。


 そして足を進めながらクロヴィスは一言、


「えぇっとスライムに効果的な毒は……塩と乾燥石灰?

 ああ……水ですものね、そりゃぁそうですよね」


 と、そう言ってその書類を俺達へと手渡してくれるのだった。

 

お読み頂きありがとうございました。


次回も準備編の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵に塩を送る(物理) ぷるぷる、ぼくはわるいあめむしじゃないよ!
[一言] 塩と乾燥石灰。蛞蝓ですね。
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