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アメムシ


 深森の調査に協力するという吉宗様からの依頼をこなし、江戸城へと帰還した俺達は、深森と共に吉宗様の自室へと向かい……とりあえず一回目の調査を終えたこと、成果はいまいちであったことなどの報告を済ませた。


 深森としては自分の目でダンジョンを見ることが出来た上に、自分なりの仮説を立てられたことなど色々な収穫があったようだが……扉の出現条件などについての調査は全く進展しておらず、結果らしい結果が出ていないことから報酬はそれ相応のものとなった。


 とは言え戦闘らしい戦闘も無く、体力的にも物資的にも消耗は無く、報酬も日当と考えれば三人で割っても十分な額であり……歩くだけで転ぶ深森を怪我一つ無く連れ帰ったことから、吉宗様からのお褒めの言葉も頂戴出来たし……まぁまぁ、上々の結果だったと言えるだろう。


 そうして報告を終えた俺とポチとシャロンは、江戸城本丸を後にし……百人番所から少し進んだ先にある大番所へと足を向けた。


 そこには次に攻略する予定のダンジョンが……小鬼のダンジョンに次ぐ難度だとされているダンジョンの入り口があり、それなりに広い大番所の何処にダンジョンの入り口があるのかの確認をしておこうと考えたという訳だ。


 大番所……江戸城のそこかしこにある警備詰め所を統括している、警備の要であるそこには、何人かの役人と、その手足となって働いている何人ものコボルト達の姿があり……その中の顔見知りのコボルトへと声をかけて、ダンジョンは何処にあるのかと尋ねてみる。


「ああ、それなら裏手の元物置にありますよ」


「……元?」


「ええ、いきなり物置の中にダンジョンの入り口ができちゃって、中にあったものがダンジョンの中に飲まれちゃって……もう物置としては使いようがないので元物置です。

 戸に鍵はかけていないので、ご自由にどうぞ」


 そう言ってその手で裏手の方を指し示してくれるコボルトに礼を言った俺達は、示された方へと足を進めて……いかにも物置だと言わんばかりの、木造の建物の中へと足を踏み入れる。


 そこにはつい先程まで居た蔵にあったそれと、全く同じように見える裂け目が、ダンジョンの入り口があり……それを見つめながら俺は、以前吉宗様から頂戴した資料に書いてあったことを思い返す。


「……ここには確か泥の魔物が出るんだったか?」


 との俺の言葉に対し、ポチはふるふると顔を左右に振ってから言葉を返してくる。


「違いますよ、泥じゃなくて液状の魔物……『アメムシ』と呼ばれる魔物が出るんですよ。

 知能を持った液体と言いますかなんと言いますか……生物としては菌に近く、見た目としてはクラゲに近い存在だとされています。

 クラゲのような毒は持っていないのですが、強烈な消化液を吐き出すとかで……個体によっては大きな岩さえもあっという間に溶かしてしまうそうですよ」


「……そいつはまた随分と恐ろしい虫が居たもんだなぁ。

 液状となると刀で叩くのは無理……か?」


「無理ってことはないですが、あまり効果的ではないようです。

 資料を見た感じでは棍棒で叩き潰す、炎で焼き殺す、後は毒も効果的とされていますね」


「そうなると次のダンジョンは得物を変える必要がありそうだな。

 ……そして毒が効果的ということは、次のダンジョンでの主役はシャロンってことになりそうだな」


 と、そう言って俺がシャロンの方へと視線をやると……シャロンは自信無さげに眉を下げて「うーん」との声を上げてからゆっくりと口を開いてくる。


「液体の生き物……なんですよね?

 獣でもなく人でもなく鬼でもなく、液体となるとまずはどんな毒が効くのかを調べる必要がありそうですね。

 菌に近いということは、目とか鼻とか口とかも無さそうですし……効果的な毒が分かったとしてどうやって投与するのかも考えないとです。

 ……そして他の方法についても、色々考えることが多そうですよ。

 炎が効果的とのことですが、燃料を持ち込んで焼き払うとして……煙の発生やこちらへの延焼に気をつける必要がありそうですし……棍棒に関してはコボルトの体型だと威力に期待ができそうにないです。

 ああ、それと消化液の成分を調べるのも大切でしょうね。ある程度の酸であれば革装備で防げるかと思いますが、革さえも溶かしてしまうというのなら、溶かされないように何かで装備を覆う必要が出てくるかと思います」


 ぽんぽんと自らの頬をその手で軽く叩きながら、そう言ってくるシャロン。


 その言葉一つ一つに頷いた俺とポチは、何にしても相応の準備が必要そうだと考えて……何はともあれ続きは帰ってから、家でゆっくり考えようとそんな言葉を口にする。


 そうして頷き合った俺達が踵を返して物置を後にすると……そんな俺達とすれ違う形で、何人かの、黒塗り甲冑を着た筋骨隆々の男達が姿を見せて、大きな金棒を肩に担ぎながらのっしのっしと、物置の中へと足を進めていく。


「……ああ、他の連中がどうしているのかって情報を集めるって手もある訳か。

 ダンジョン関連法案制定後、他の連中がどのくらいまで進んだのかも気になるし……そこら辺のことを調べるのも一つの手だな」


 その背中を見送りながら俺がそう呟くと、ポチはキョロキョロと周囲を見回し、人影が近くに無いのを確認してから……、


「じゃぁそこら辺のことを教えて貰う為に、本丸の方に戻るとしましょうか。

 こういう時、お上との縁がある身は色々な楽が出来て良いですよね!」


 と、そんな身も蓋もない言葉を口にするのだった。


お読み頂きありがとうございました。


アメムシは別名アメーバとも言います。


というわけで次回は対アメムシ準備編です。

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