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新装備


 三日後。


 工房に向かった俺達を出迎えてくれたのは、牧田の、


「無理だった」


 との一言だった。


 玄関の小上がりにどかんと腰を下ろした俺とポチは無言で右手を差し出すことで銭を返せと訴えかけ……シャロンはそんな俺達を見ながらおろおろとうろたえる。


「待て待て、話は最後まで聞きやがれ。

 割れないガラスは作れんかったが、戦闘用の保護眼鏡は作ってやった。

 それで問題はねぇはずだろう」


 その一言を受けて腕を組んだ俺とポチは、


『さてなぁ、どうだろうなぁ』


 と、声を合わせて唸りながら同時に首を傾げる。


「っとにお前らは可愛げってもんがねぇよなぁ。

 ……何はともあれ、まずは物を見てから判断しやがれってんだ」


 首を傾げる俺達に向けてそう言った牧田は工房の奥へと足を進め、そこにおいてあった木箱を手に取る。

 そうして俺達の下へと持ってきた牧田は、どかんと木箱を置いて……顎をくいとしゃくることで、箱を開けてみろと伝えてくる。


 その箱の中にあったのは、革縁の眼鏡だった。


 革縁……と言うのも少し変な話だが、他に言い様が無いのだから仕方ない。


 全体が革製で、二枚の風変わりな色合いのガラスがはめ込んであって、鉄枠でガラスの縁取りがしてあって、両端に頭に縛り付けるためのものと思われる革の帯がついていて……。


 全体をガラスで作るよりかは良いのだろうが……しかしこのガラス部分を攻撃されたら目がえらいことになっちまうだろうと、そんなことを考えていると、牧田が懐から一枚のガラスを……手元の眼鏡にはまっているそれと同じ色合いのガラス板を取り出し、これまた懐から取り出したノミを構えて、それにがつんと叩きつける。


 当然の結果としてガラス板にヒビが入り、バキリとの音が鳴り、割れてしまったはず……なのだが、ガラス板はひび割れはしたもの割れることなく、その硬さを失ってしんにゃりと垂れ曲がる。


「割れるには割れる。

 だが見ての通り破片は飛び散らず、目を傷つけることはねぇ。

 更にガラスよりも一段盛り上がった鉄枠で縁取ることで、武器での殴打がガラスに直撃しねぇようにとの工夫もしてある。

 槍やら棒でガラス部分だけを突かれたなら割れちまうだろうが……そこら辺は上手く避けるなりしやがれ」


 その言葉を受けて眼鏡を手に取り、じっくりと眺めて、実際に装着してみて、その使い具合を調べたポチが、牧田に短い言葉を投げかける。


「飛び散らない仕組みは?」


「えるふ達が研究中の魔法樹脂ってやつを使ってみたんだよ。

 作り方だとか材料だとかはよく分からねぇが、兎に角透明の液体で……乾燥させると柔軟性のある透明な塊になるって代物だ。

 それがうすーくガラスの表面に塗りつけてあって……ガラスが割れても尚包み込んでくれているから破片が飛び散らねぇと、そういう訳だな」


「なら、最初から眼鏡そのものをその樹脂とやらで作れば良かったのでは?

 透明なのでしょう?」


「馬鹿を言うんじゃねぇよ。

 それなりの強度を持たせるには厚くしなきゃならねぇ訳だが、樹脂を厚くするとなると気泡が入り込むわ、変に歪んじまうわで、眼鏡としちゃぁ使い物にならねぇんだよ。

 気泡まみれの歪んだ視界で戦えるのか? 歪んだ視界で罠だの何だの細かい情報を拾いきれるのか?

 ……まずをもって無理な話だろうよ。

 実際に作ってみて儂自ら使ってみたが、細工すらできねぇ有様だったぜ。

 そういう訳でこのガラス板に薄く塗るだけで精一杯……歪みも気泡もなしで、ここまではっきりとした視界を確保するにはそれなりに苦労したんだぜ?

 あんまりにも薄くし過ぎると破片を抑えてくれねぇし、厚くしすぎると視界の邪魔になるし……今のところはこれが精一杯だ。

 一応この工房でもガラスに樹脂を混ぜ込むことで好いとこ取りできねぇかと研究はしているが……結果が出るのは当分先だろうな」


 その説明にこくりこくりと頷いたポチは、最後に大きく満足気に頷いてから、革帯をしっかりと結び、保護眼鏡を固定する。


「……保護眼鏡、保護ガラス……保護グラス。

 んー……とりあえずゴーグルとでも呼んでおきますか。

 これ汗をかくと湿気が籠もりそうなのですけど、その対策は?」


 保護眼鏡改めゴーグルをいたく気に入ったらしいポチのその言葉に、牧田は当然だろうとばかりに頷いて言葉を返す。


「おう、しっかりとしてあるぞ。

 その革は吸水性の良いシカの革に細工を施したもんでな、吸湿性ばっちりに仕上がってるって寸法よ。

 雨がざぁざぁと降ってりゃぁ曇るかもしれねぇが、普通にしてりゃぁまず曇らねぇだろうよ」


 ああ、それで革製にしたのかと俺が頷く中、ポチはうんうんと何度も何度も頷いて……口元をにっこりと歪める。


 余程にゴーグルのことが気に入ったのだろう、装着したまま周囲を見回したり、工房内をうろつき始めたりするポチ。


 その姿を横目で見やり、満足そうに頷いた牧田は……ポチのことを眺めていたシャロンに声をかける。


「お嬢ちゃんの装備は、奥の客間に置いてある。

 そこに女の職人を任せているから、試着と合わせをしてきてくれや。

 ……とは言え凝った作りにはしてねぇからな、この野郎共の装備と似た作りの、革製の服と外套、履物と手袋……一般的な旅装に近い代物だ。

 お嬢ちゃんの保護眼鏡……ごーぐるもそこに置いてある。

 ああ、ますくだったか? あれも三人分しっかりと用意してあるぞ。

 といっても何枚かの布を縫い合わせただけのもんだがな……それ巻きつけて口鼻を覆えば十分な効果があるだろう。

 がっちり覆うと邪魔になるのと呼吸がしづらくなる関係で、そういう形になった。

 もっと上等なもんが欲しけりゃ十分な銭を用意するんだな」


 その言葉を受けてシャロンが奥の客間へと足を向けて……そして牧田の視線を一身に浴びることになった俺は「満足な出来上がりだ」と頷くことで牧田に伝えるのだった。


お読み頂きありがとうございました。


長くなってしまったためダンジョン突入は次回に

という訳で次回はダンジョン突入です

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― 新着の感想 ―
[一言] 合わせガラスが出てくるかと思ったらコーティングでしたか。 その方式だと外側の魔法樹脂が環境に曝されるけど……内側だけでもいいのか。 何れにしても、WW1時代の技術の先取りですね。
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