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大江戸コボルト【WEB版】  作者: ふーろう/風楼


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一つの時代の終わり


 全てのダンジョンが消滅し、幕府はそのことをダンジョンとは何かという説明付きで公表した。


 世界の傷、あちらへ戻れるかもしれなかった最後の希望、それも綺麗に塞がってしまい、あちらに戻れる見込みは完全に無くなってしまった。


 それはあちらの世界の住民だったコボルトやエルフ、ドワーフが同情されるようにと意図されたもので……彼らの存在を日の本の民達が受け入れやすくなるようにと配慮されたもので、これにより江戸以外の……まだまだ異界の連中を受け入れられていなかった連中も、どうしようもないことなのだと、彼らの存在を受け入れ始めた。


 それでも一部の連中は頑固なまでに反対してきたし、幕府に思うところのある藩の連中なんかはこれを機に騒ぎを起こしてやろうと画策していたが……ダンジョンで俺達を助けてくれたのがかの東照大権現とあって、ほとんどの連中は黙り込み、大人しく幕府の方針を受け入れていった。


 そう、あの時あの光を見たのは俺達だけじゃぁなかったようだ。


 魔王城の外にも光が届き、あの姿を見ることが出来ていたようで……幕府軍には他藩出身の連中も多く参加していたもんで、その話はあっという間に日の本中に知れ渡ることになった。


 権現様が異界の連中を守った、受け入れた、彼らのために光を放った。


 異界の連中を受け入れないということは、権現様を否定するということにも繋がり……そんなことを立場のあるもんが公に口にしようもんなら、謀反を画策しているとして幕府軍を差し向けられても文句は言えねぇ。


 大義名分を与えたが最後、最新式の銃を構えた幕府軍が黒船に乗ってやってくる訳で……そこんところを分かっているなら最初から馬鹿なことを考えるんじゃねぇよと思うが、まぁー……それでも馬鹿な連中ってもんは馬鹿なことを考えるもんだからなぁ。


 ともあれそんな風に日の本全体の潮流が変わる中、これまでは非公式の交流だった人魚の存在が正式に発表され……八百比丘尼みたいな効能はねぇから舐めた真似すると幕府軍が来るぞなんて話も広められた。


 昔話を信じて阿呆なことをしようとするやつは少なからずいるだろうからなぁ……しばらくは気をつける必要がありそうだ。


 漁師なんかは人魚が漁場を見つけてくれて、そこまで連れていってくれて、網の設置なんかも手伝ってくれて、海底の貝やらを拾ってきてくれて……人魚のおかげで驚く程に漁が楽になったってんで、人魚を守るための組合なんかを組織しているそうだ。


 落水や船が沈んだなんて際にも助けてもらえるとなったら、そりゃぁ仲良くしておいた方が得だろう。


 ……そしてシャクシャインとの国交話も大々的に広められることになった。


 既に江戸入りしてあれこれしてるんだから今更って気もするが、それでも遠方の連中の中には知らねぇ奴もいるだろうってことでの発表で……ここら辺に来ると慣れたというか驚き疲れたというか、特に激しい反応はなく、思っていた以上にすんなりと受け入れられることになった。


 それでも中にはシャクシャインを征服しろなんて馬鹿もいたが……ダンジョンのあの暴れっぷりを見ていればあれとぶつかるなんて冗談じゃねぇとなる訳で……そういった声を受けてか馬鹿共はあっという間に黙り込むことになった。


「世並べて事も無しってことなのかねぇ」


 そんな風に世情が激動した冬が終わり、雪が融けての春。


 組合屋敷の縁側で春の日差しを楽しみながらそんなことを言うと……俺の後方、居間でのんびりと茶を飲んでいたネイが言葉を返してくる。


「いや、あんた何呑気なこと言ってるのよ……世界中が大変なことになってるっていうのに」


「……いやまぁ、流石に海の向こうまではなぁ、範疇じゃねぇっていうかなぁ」


 なんて言葉を俺が返すとネイは、背中越しに分かるような大きなため息を吐き出して、ちゃぶ台の上に広げているらしい地図をさっと撫でる。


 ダンジョンが消えたのは何も日の本だけのことじゃぁねぇ。

  

 世界中にあったダンジョンが同時の、あの時に消えてしまっている。


 ……ダンジョンが消えるということはつまり、ドロップアイテムが手に入らなくなるということで、至って平和な日の本と違って戦乱の中にある海の向こうではそれが困ったことになっているようだ。


 長きに渡る戦乱を支えていたらしいドロップアイテムが突然手に入らなくなって……なんとか維持できていた戦線が崩壊、敵も味方も関係なく混乱に陥り、物資がないから仕方なく停戦ってことになったんだそうだ。


 それだけなら平和で良いじゃねぇかとなるが、事は民の生活にまで影響しているらしく、中には幕府に支援を求めてきている国まであるんだとか。


 そんな連中に幕府が出した条件は完全和平……前々から和平を推進してきた幕府としちゃぁ、そこを飲んでくれなきゃ支援はできねぇよってなもんで、民のための最低限の食料は支援するが、それも戦争に使われるようなら即停止……幕府に舐めた真似したってことで敵対国家認定すると、そんな厳し目なことを言っているようだ。


 そういう訳で吉宗様は毎日のように外交の場に出ての忙しい日々を送っていて……そしてその手には例のドロップアイテム、赤いディアモンドをはめこんだ錫杖が握られているらしい。


 赤いディアモンドってのはあっちの世界にもこっちの世界にも数える程しかねぇもんらしい。


 その価値は青天井、積もうと思えばいくらでも銭を積み上げられるもんらしく、日の本じゃぁそこまでの価値がねぇとしても、海の向こうとなれば話は別……外交の場にもっていけばそれだけで場を支配出来る程の代物であるらしい。


 そんなもんを買うとなると幕府でも難しいらしく、所有権は俺達にあるまま幕府に貸出ってな形になっていて……毎月それなりの銭が入ってくるということになっている。


 おかげで悠々自適、御庭番の仕事もする必要がなくなって……俺達はそれぞれ好き勝手なことやるという日々を送っている。


 ポチは山のように積んだ書物を読み漁り、シャロンは薬学研究を専門家を集めてのとんでもない規模で行い、クロコマはこちらの品で符術を作れないかと実験を繰り返し、ボグとペルは江戸観光をこれでもかと堪能している。


 そして俺はのんびりと何もせずに過ごす日々を送っていて……それにもそろそろ飽きてきた頃だ。


「……籠もりっぱなしもいい加減体に悪そうだからなぁ、そろそろポチ達捕まえて食道楽にでもいくかねぇ。

 ……ネイもどうだ? 来るか?」


 俺がそう言うとネイは「は~~~」と大きなため息を吐き出して……それでも一言、


「行くわよ」


 と、そう言って支度を始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


これで大江戸コボルトは第一部 完


とさせていただきます

第一部としたのは、このあと、ダンジョンとかは関係のない日常編を投稿していくことにしたからです


主人公も狼月だったりポチだったり、まだ名もなきコボルト同心だったり、その時々交代しつつ、3・4話完結型で進めていこうと思います


その代わりといいますか、定期更新ではなくネタが思い浮かび次第の不定期更新となります


それでもよければこれからもこの作品を応援していただければと思います


次回については現状、更新日未定となっています

よろしくお願いいたします。

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