最後のドロップアイテム
俺の黒刀がとどめを刺したのか、東を照らすまばゆい光がとどめを刺したのか。
崩れていく魔王を眺めながら恐らく後者だろうなぁなんてことを考えていると、魔王城の外から大歓声と言って良い凄まじい音が響いてくる。
戦いが終わっての歓声か、ドロップアイテムを見ての歓声か、その両方かもしれねぇなぁ、なんてことを考えていると、俺達を包む光が一段と強くなり……それが合図だったのか、光がすぅっと弱くなっていき、城が元の姿を取り戻していく。
「……心の底より感謝申し上げます、様々なことが落ち着いた折には日光に参らせていただきます」
言葉としてこれが適切なのか、そもそも声をかけることが許されるのか、色々と悩みながらも無言はまずかろうとそう言って、それから俺が光の主が居た方へと深く頭を下げると、ポチやボグ達もそれに続き……その直後、何かがコトンと落ちてくる。
それは手のひら程の大きさの箱で……これが魔王のドロップアイテムかと首を傾げながら拾っていると、城全体がなんとも嫌な風に揺れ始める。
それは地震とかの揺れではなく、城全体が崩れかけているかのような揺れで……俺達は何かを言うよりも早く駆け出し、城からの脱出を図る。
ポチ、シャロン、クロコマは俺に張り付き、ペルはボグに張り付き、俺とボグはそんな連中を抱えながら懸命に走り……そうやって城を出ると、俺達のことを心配してくれていたのか、幕府軍やダンジョン探索者の連中が出迎えてくれて……そいつらの両手には山程の金銀財宝が抱えられていて、背負袋は大きく膨らみ、首飾りを四個も五個も首にかけている野郎までいる。
「こっちは箱1個だったのに、そっちはえらい豪華じゃねぇか!!」
なんて声を上げながら俺は駆け続けて……城を出て安心したのか速度を緩めていたボグも慌ててそれについてくる。
何故と問う声がポチ達から出ることはなかった。
何しろ何もしてねぇってのに城が崩れたんだ、城以外の……ダンジョン全体が崩れたっておかしくはねぇ。
そもそもダンジョンそれ自体が崩壊しつつある状況だった訳で、それを思えばいつまでもこんな所にはいられねぇ訳で……案の定数秒後、ダンジョン全体が先程の城のように揺れ始める。
「撤退! てったーーーい! 全員駆けあーーし!!」
そして幕府軍からそんな声が上がり……金銀財宝まみれの連中がそれらをガチャガチャと鳴らしながら俺達を追いかけてくる。
ポチ達を抱えているとは言え金銀財宝に比べれば軽いというか、いざとなれば手放してポチ達に駆けさせるって手が使えるだけこっちは気楽で、さっさと逃げることが出来て……ダンジョンの外に出るなり大声を張り上げる。
「ダンジョンが崩壊してる! これからどんどん中の連中が駆けてくるぞ! 近くにいる奴らは全員邪魔になるから避難しろぉ!!」
するとダンジョンの入口を監視していた連中や、報告のためにと待機していたコボルト連中が大慌てとなって駆け出して……それを追いかける形で俺達も駆けていく。
天守台から駆け出て、入り口広間から離れて、芝生で整えられた一帯へと駆け込んで、収穫用ではなく飾り用のコボルトクルミの木の側へと倒れ込む。
ボグも続いて倒れ込み、ポチ達が俺達から分離してそこらに転がり……青空見上げながら寝転がって、天守台から聞こえてくる様々な声を聞きながら息を整える。
「あー……これで終わりかぁ。
最後のダンジョンも崩壊……刺激的な日々よさらばってとこかねぇ」
それから俺がそんなことを言うと、ポチ達も色々と思う所あるのか、何かを言う訳ではないが視線や態度で同じような気持ちだとそう示してきて……そんなことをしているとダンジョンを脱出してきたエルダーエルフやエルダードワーフ達が合流してきて、思っていたよりも爽やかな表情を見せてくる。
正真正銘これで終わり、向こうに帰る手段はなくなった探る場所もなくなった、本当の意味での終わりを迎えた訳だけども、後悔はねぇようで……最後まで調べ上げたという満足感があるようだ。
ならば何かを言う必要もなし、全員大満足で終われたのだから文句もなし。
そう思って深い深いため息を吐き出していると、ポチが俺の懐に手を突っ込みながら口を開く。
「狼月さん、締めに入っているとこ申し訳ないんですが、魔王のドロップアイテムの確認、しましょうよ。
それが僕達の最後の稼ぎ、どんなに安くとも皆で山分けする品なんですからここで確認をしてく必要があるはずです」
その言葉を受けてそれもそうだと頷いた俺は、拾った箱……良い木材を金属で縁取り、生意気にも小さな鍵穴をつけたそれを取り出し、両手でがっしりと掴んで強引に開けようとする。
するとまさかのまさか、鍵がかかっていなかったようで、力を込めすぎたせいで箱が盛大に、勢いよくがばっと開き、中に入っていたらしい赤い何かが空中へと舞い飛ぶ。
真っ赤な色、金剛石のように透き通った本体、削りも金剛石そっくりで……赤色を混ぜたギヤマン玉か何かだろうか?
あまり価値がなさそうなそれを俺達がなんとも言えない気分で見やっていると、舞い飛んだそれは相応の速度で地面へと落下していき……それを受けてエルダー連中がとんでもなく焦った様子で手を伸ばしてきて、たった一個の石を十数人がかりで拾い上げようとする。
そして見事石を掴んだのはエルダードワーフの一人で、そいつは掴むなり筒型の拡大鏡を取り出し、目のとこに押し込み、頬肉とまぶたでもって挟み込み、じぃっとその石を眺め始める。
「……間違いない、本物だ。
手のひらサイズのレッドディヤモンドだと……? こいつ一つで城が十か二十はおっ建つぞ」
どうやらそれはあっちでは相当の貴重な代物であるらしい。
とは言えこっちじゃぁ金剛石はそこまで人気もねぇしなぁ、そこまでの価値がつかねぇんじゃねぇかなと、そんなことを考えていると、事態を聞きつけたのかネイと吉宗様がこちらへと駆けてきて……そして倒れ込む俺達を一切無視して、ドワーフが陽の光に当てている赤色金剛石の方へと駆け寄っていく。
そしてすぐに吉宗様から帰還した幕府軍へ城内警備を強化しろとの指示が出されて……そうして何故だか知らねぇが江戸城は前代未聞の大騒ぎとなるのだった。
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