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照らす光


 城の最奥、石柱が何本も並び赤い布が床に敷かれたおかしな部屋には、あんなもんに座ってたら疲れちまうんじゃねぇかと思うような、厳つい作りの石椅子があり……そこに魔王であろう何かが鎮座していた。


 おかしな南蛮服に赤い外套、頭には煌めく王冠、手にはおかしな作りの錫杖を握っていて……そして目はどうしようもない程にうつろで。


 なるほど、人間が……元人間が再現されるとこうなるのかと思っちまう程度には生気がなく、俺達のことは視界に入っているだろうに、一切の反応がなく、ただぼんやりと……呼吸すらせずに椅子に座り続けている。


「……部屋に入った瞬間、襲ってきてた大物連中とはちげぇようだな」


 なんてことを言いながら俺が前を進み、それにボグが並び、ペルとポチ達はその後を追うように足を進めていく。


 恐らくはこいつは最後の相手だ。


 ……敵の親玉というか黒幕というか、全ての原因というか、因果応報と言ったら良いのか、全ての始まりであるこいつに、ありとあらゆる結果というか因果が絡みついているような気がしてくる。


 そんな相手があっさり倒せるとは思えねぇ、かといって強そうにも思えねぇ。


 ここまでに出てきた連中は小鬼と同程度と思うような雑魚ばかりだったし……。


 なんてことを考えながら足を進めていると、突然魔王が立ち上がり……生気のねぇまま、無表情のままその右手をすっと上げる。


 それを受けて攻撃が来るかと警戒した俺達は足を止めてそれぞれの獲物を構えて……そうしてそのまま少しの時が流れる。


「……で、だから何だってんだよ?」


 俺がそんな声を上げても返事はない。


 魔王はただただ右手を上げ続けて……そのまま硬直して、何も起こらねぇもんで警戒を解いた俺達が更に進むと、今度はその右手を大きく振るう。


 まるで誰かに指示しているように、あるいは俺達に下がれとそう命令しているかのように。


 仮にそう命令したとしても、知ったことじゃぁねぇ訳で、構わずに足を進めていると魔王が座っていた椅子から黒い影が広がり……そこからずるりと黒い何かが這い出てくる。


 鎧姿の何か、杖を持った何か、弓を持った何かに槍を持った何か。


 それはここまでに戦ってきた雑魚連中で……いや、杖やら弓やらを持ったのはいなかったなと、そんな事を考えていると、連中が構えた杖の先から火の玉が迸る。


「魔法!?」


 そう声を上げたのはポチだった、俺とボグは火の玉をなんとかしようと武器を構え、それぞれ魔力をまとわせた攻撃でもってそれを迎撃する。


 するとそれを待っていたかのように他の連中が連携しての攻撃を仕掛けてきて……させるものかとコボルトクルミをたっぷりと頬張ったクロコマが符術を発動させ、続いてシャロンが毒を敵陣に投げての攻撃を仕掛ける。


 ……が、毒は連中に一切効いてねぇようだった。


 まぁ、見た目からして生物じゃねぇってのは分かるが……魔物でさえ効いていたもんが、全く効かねぇってのは中々参るもんがある。


 仕方なしにシャロンは礫での攻撃を開始し……弾力の符術で弾きながらの攻撃は、連中を一方的に弱らせ、倒し……そうしてどんどんと数を減らしていく。


 が、魔王が手を振ると再びそれらが現れ、魔王を守るかのように布陣し……こいつぁ魔王を倒さねぇことには話にならねぇようだと魔王に狙いを定めるが、連中が邪魔して中々上手くいかねぇ。


 遠距離攻撃が得意なポチの斬撃やシャロンの礫も、杖持ちが作り出したおかしな小さな盾のような壁……弾力によく似た壁に弾かれちまって、全く届かねぇ。


 ならばと突っ込もうとするが、延々湧き続ける連中がそうはさせまいと動くもんだから上手くいかず、ここに来てまたも蘇り続ける敵に阻まれちまう。


「厄介なことしやがってこの野郎……!

 表でも魔物が湧き続けてるのはお前のせいか……!

 そういうことならこの野郎、こっちにも考えがあるぞ!!」


 敵は延々湧き続け、遠距離攻撃は届かず、俺達がもたもたしていたら表の戦況が悪化するかもしれねぇ。


 そうなったらもう連中が邪魔しようがなんだろうが突貫決めて、魔王を討つしかねぇだろうと覚悟を決めて……一応連中に作戦がばれねぇように言葉にはせずに視線でもってポチ達に伝える。


 俺だけの突貫、ポチ達はここで陣地を守って援護をしてもらって……それで勝負を決めるぞと、そう伝えると付き合いが長いおかげかポチ、シャロン、クロコマの三人はすぐに理解をしてくれて、ボグとペルは少し遅れてからなんとなしに理解したと、そんな表情をする。


 それを受けて覚悟を決めた俺は黒刀に魔力をたぎらせ、炎をまとわせ……何も考えずに魔王の下へと一直線、全力で駆けていく。


 黒刀を振るうのは目の前の相手だけ、倒せずとも怯ませたらそれでよし、倒したところで蘇るんだからとにかく魔王の下へと一直線だ。


 杖が作り出す盾は避けて、黒刀を振るって振るって、多少の攻撃は構わずにあえて食らって、それでも黒刀を振るい炎をそこら中に撒き散らして駆けて、ポチの斬撃やシャロンの礫や、ペルの魔法が飛んでくるのを感じながら駆け続けて……そんな突貫は連中の度肝を抜くことに成功したようで、対応が間に合わず……というか対応せず、ただ緩慢な動きでもって俺やポチ達を攻撃しようとし続ける。


 迎撃する気がねぇのか、状況を見極める知恵がねぇのか……そんな動きを見せる連中の中をかき分けて、椅子へと向かって上がっていく階段を駆け上がって、あと少しってなところまで突き進むとそこでなんとも舐めた事態が巻き起こる。


 突然現れた黒い壁、椅子から広がっていた影が壁のようになったもんが俺の行く手を完全に塞ぐ。


 体がぶち当たり、慌てて黒刀を振るっても、何度振るってもその壁はびくともせず、そうこうしているうちに連中が後ろから迫ってきて……、


「狼月さん!?」


 なんてポチの悲鳴が聞こえてきて……それでも俺は魔王を倒すためにと前に向けて、その壁にだけ向けて黒刀を振るい続ける。


 今更退いたところで何になる、魔王を倒さねぇことには勝機がねぇんだぞと気合を入れて力を込めて、これまでの人生で一度もねぇってくらいの会心の一撃を壁に放つ……が、びくともしねぇ。


「だぁぁぁぁぁ、なんだってこんなに堅ぇんだこの壁は!?」


 そんな声を上げながら黒刀を振るっていると、背中に何故か日光を感じる。


 暖かく明るく、これはまさかと思わず振り返ると、城の中だったはずの空間の天井の……その向こうに太陽が出ていて、暗くどんよりとしていたこのダンジョン内全てを明るく照らしていた。


 そしてその日光の中には一人の人影の姿があり……その人影は歯朶の葉をあつらえた大黒頭巾形の兜を被っていた。


 そんな太陽の光は影から産まれた連中全てを溶かし、ついでに目の前の壁も溶かし、初めて表情を見せるというか、困惑したような態度を見せる魔王の周囲の影をも溶かし尽くす。


 そうして魔王は無防備と成り果てて……それを見た俺は人影に深く頭を下げてから駆け出し、魔王に向けて黒刀を振り下ろすのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵の総大将である魔王との戦い! 最後の一手がどうしても届かない所に、手を差し伸べてくださったのが、お名前の通りに日光を伴った"あのお方"なのが憎い演出w
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