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決戦 その2


 符術が破られることを想定しているからなのか、まずは鉄骨混じりの馬防柵を立て、次に木の枠組みを設置し、そこに土嚢を詰めて壁として……それが終わったなら整列し、銃に弾薬を込めていく。


 以前俺が使った最新式から更に改良されたらしいそれは、鉄板に銃弾を並べて貼り付けたといった感じの、なんとも不思議な形状のものを銃の上部分、銃弾を込める穴へと差し込み、それから銃弾すべてを一気に銃の中へと押し込むもので、押し込み終わったなら空となった鉄板を取り除いて装填が完了となるようだ。


 一度に十発か、そのくらいを押し込めてそれを連射出来て……この短期間でまた随分と改良がされたらしい。


 そんな装填作業を見て俺を含めた前に出ていた連中が馬防柵や土嚢壁の内側に下がると、


「一同構えぇ……撃てぇぇぇ!!」


 との号令が発せられ整然と並んだ銃の銃口が目の前の大物連中へと向けられて……そして一斉に銃口が火を吹く。


 火縄銃よりは音が小さいが、これだけの数が揃っていると流石に轟音となっていて……直後、弾力の壁に張り付いていた大物連中から様々な色の血が吹き上がる。


 唯一大アメムシだけは銃弾を意に介していねぇようだが、そんなもの構うことかと連射が続けられ、さすがの大物連中でもたまらないのか次々に倒れ伏していく。


 倒れて倒れて、消えずにその場に残って積み上がって……そしてそれをかき分けるようにまた別の大物がやってきて。


 それに対して幕府軍はすぐに装填作業を行っての銃撃を行い……そしてそれを見ていたシャロンが何かに気付いたような顔をし、すぐさま手に持っていた投げ紐を構えて回転させて……そしていつかに見た紙袋を大アメムシに投げつける。


「石灰です! あれが魔物の死体を食べて強くなるかもしれないと思ったので……!

 銃弾が効いてなさそうな、泥人形の動きにも注意してください!!」


 いつかに見た石灰入りの紙袋が大アメムシにぶち当たり、中から石灰が飛び散り……大アメムシが悶え苦しみ、それを見てか他のダンジョン探索者からも投げ物が相次ぎ……そして御庭番衆からは油を詰めた壺が飛んでいき、直後松明のような火種が放り投げられる。


 銃弾の雨とそれらの投げ物と、えげつないとしか言いようのない攻撃は何度も何度も繰り返され、かなりの大物達が倒されていくが……どういう訳か、数が減らねぇ。


 数え切れない程の銃兵による銃撃と、油を使った火計までかましてるってのに、未だに視界全てを埋め尽くさんばかりの数の大物達。


 鬼に至っては俺が確認しているだけで五回は倒されていて、そこに五体分の死体があるってのに新たな鬼が猛然と弾力の壁を殴っていやがる。


 たくさんの鬼がいたというよりも、倒された先から蘇っているってか新たに生み出されてるってな印象で……幕府軍も御庭番衆も、弾力の壁を張っているクロコマ達もその光景に気圧され、表情を歪めていく。


 そんな中、最初に動きを見せたのは幕府軍だった。


 銃撃を止めて構えを解いて……そして構えた銃の様子を見て苦悶の表情を浮かべている。


「ありゃぁ連射のしすぎだな」


 そんな光景を見て俺がそう声を上げると……俺の声が届いていたらしい周囲のダンジョン探索者達が舌打ちを始める。


 銃弾は発射の際に火薬を爆発させている。

 すると当然のように熱が発生する訳で……連射を続けると銃身にその熱がどんどん溜まっていってしまう。


 それが過ぎれば銃身が溶けるまではいかないにしても、歪んでしまって弾詰まりや暴発を招いてしまうことがあり……連射可能となった新式の銃だからこその弊害がここに来て出てしまっているようだ。


 中には銃身が熱のあまりに赤く染まっているものまであって……あれがしっかり冷え切るまでは使用不可能ってところなんだろう。


「予備はねぇのかよ!!」


 誰かの悲鳴のような声、最新式のをこれだけ揃えたってだけで大変だったろうに予備までとなると厳しいものがあるだろう。


 かといって水で冷やすなんてことをしてしまったなら強度の不安が出てきちまうし……用意しているのかは知らねぇが旧式の銃と交換するくらいしか手はねぇだろうなぁ。


「一時撤退! 城に帰還する!!」


 幕府軍の大将の一声を受けて誰もがざわつき動揺する中、申し訳なさそうにおずおずと動く幕府軍の撤退が始まり……続いて魔力を使い尽くしちまったのか動揺のせいなのか、クロコマ達が構築している弾力の壁が見るからに緩み始める。


「シャロン、クロコマを助けてやってくれ! 最悪そのまま城まで引き返せ!

 ボグ、他の符術士を頼む! 動けねぇようなら抱えて城まで持っていけ! 

 ポチ、ペル! お前らは下がりながら撤退の援護だ!!」


 そう声を上げながら俺は、手にした黒刀を構えながら前に進み出る。


 大量の大物が倒されたからか、黒刀には十分過ぎる程の力が充填されていて溢れんばかりの炎が滾っていて……まぁ、これならなんとか戦えるだろう。


 俺以外にもダンジョン産の鉱物で武器を作ったのがいるのか、黒刀と似たような武器を持っている者がちらほらといて、そのどれもが雷を滾らせていたり冷気を滾らせていたり、よく分からねぇ光を滾らせていたり……そういった連中はどいつもこいつも自信満々ってな表情で前に進み出ている。


 ここに来た誰もが、もとより楽な戦をするつもりはねぇ、命を賭けるくらいの覚悟は出来ている。


 他の連中が撤退してくれさえすれば、あとは出口に飛び込みゃぁ簡単に撤退出来る訳だし……それまで暴れるくらいはなんとか出来るだろう。


 構築した陣地があるし、馬防柵もあるし、その中を上手く立ち回りゃぁどうとでもなるってもんだ。


 しかしまぁ、まさかこんな形で作戦が破られちまうとはなぁ……そう悪い作戦ではなかったはずなんだが、相手が無限に湧き出てくるってのはなぁ、どうしようもないわなぁ。


 なんてことを考えているうちに幕府軍の撤退が終わり、続いてクロコマを含めた符術士の撤退が始まり……同時に弾力の壁が溶けるようにして消えてしまう。


「よっしゃぁ! 行くぞぉぉぉぉ!!」


 さっきは中途半端なとこで終わっちまったから今度こそは暴れられる、そんな想いを声にして、他の連中も似たような声を上げ……そして全員が一斉に大物の群れに向かって突撃していく。


 大物の数は多いが、どいつもこいつも体が大きすぎる、この陣地の中では数に任せて俺達を包囲しようにもお互いが邪魔でそれは不可能なはず。


 そう考えてまずは大アメムシの下へと駆け寄って、炎滾る黒刀で持ってそのぶよぶよの体を斬り裂いてやる。


 そのすぐ側では大猪鬼の鎧を雷撃が貫き、泥人形を冷気が凍らせ、おかしな光は分裂しながら四方八方に飛び交い手当たり次第の攻撃を繰り返していく。


 そうやって先手を取ったは良いが、当然大物連中も反撃をしてくる訳で、左右前方から同時に攻撃が襲いかかってきて……俺達は飛び退きそれを避けるが、大物連中はそれを予測していたとばかりに追撃をしかけてくる。


 正面大アメムシからは伸ばした体を鞭のように振るわれ、右の鬼からは棍棒が、左の初めて見る人型のなんかは大きな剣が。


 その全てを回避するのはまず無理、ならばこの具足で受けるしかないが受けきれるのか。


 悩んだ所で他に手はなく、覚悟して備えていると一体どれが当たったのか凄まじい衝撃が頭を襲う。


 つんのめってこけそうになって、それでも踏ん張って耐えて黒刀を振り上げて、俺の頭を打ち据えやがった何かを斬ろうとしていると、後方から圧倒的な気配が迫ってきて……俺に群がる大物連中へと襲いかかり、大物達を一気に力任せに押し倒していく。


「ぼ、ボグか!? いや!? ボグがたくさんいやがる!?」


 ボグそっくりの熊、無数の熊、ボグよりも体格が良いのが勢ぞろいしてやがる。


 青地に白色で煙のような図柄を描いた、不思議な柄の布に鉄板貼り付けた防具を身につけ、手には動物の骨かなんかを加工したような武器を装備している。


 そんな熊連中を援護するかのように同じような服を着た弓使いが突っ込んできて、なんとも風変わりな矢を次々に放ち始める。


 そしてまたも同じような服を着た小人、ペルの仲間だろうか? それが何故かふきの葉を持っていて……それを振るってペルがよく使う仲間を強化する魔法を使い始める。


 そいつらに遅れて撤退を支援していたはずのボグとペルがやってきて……一撃なり二撃なり食らって倒れるなり尻もちついてる俺らを見回してから、なんとも楽しげな声を上げる。


「ちょっと遅れちゃったけどシャクシャイン主力狩猟隊! なんとも良い機に大江戸に到着したぜ!!」


「オラ達の怪力っぷり、たっぷり堪能しておくれよぉ!!」


 ペルとボグがそう声を上げたかと思ったら他の連中、シャクシャインの狩猟隊とやらが大きな声を上げ始めて……大物にも負けねぇボグの同族を前に押し出した、これ以上無い力押し戦術が展開されるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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