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餅腹


 ネイの手と交互になるようにぺったんぺったんと餅をつき、突き上がったらエルダー達が回収してくれて、次のもち米が臼の中に投下される。


 そうしたらまたぺったんぺったんと餅をつき……俺達がそうしている間、ずっと餅つきをしてくれていたボグとペルの下へと出来立ての餅料理が運ばれてくる。


 ボグには山盛りのきなこ餅、ペルには磯辺焼き。

 それらが入った皿を受け取った二人は、縁側に腰掛けながら餅に手を伸ばし……初めて食べる餅を、どこか緊張した様子を見せながら口へと運ぶ。


「ちょっとよそ見ばっかしてんじゃないわよ!」


 なんてことをネイに言われてしまうが、それでも二人の様子が気になった俺は……今まで培ってきた御庭番としての技能を全力で使って餅つきと二人の様子を見ることを両立させる。


「……もちつきを一旦休めば良いじゃないの……」


 更にネイがそんなことを言ってくる中、ペルは磯辺焼きを少しずつ、惜しんでいるかのようにゆっくり食べて目を輝かせ……ボグはきなこ餅を丸々一つ、口の中に放り込んでもっちもっちと咀嚼し……そして目を見開いて全身の毛を逆立たせて、物凄い勢いで山盛りの餅を口の中に放り込み始める。


「うんめぇよぉ、うんめぇよぉ、お米たくさん使ってるだけあんなぁ」


 なんてことを言いながら次々に餅を放り込み……口を大きく膨らませながらもちもちと咀嚼し。


「おい、そんなに急いで食って喉に詰まらせんなよ? 餅を喉につまらせる事故は昔っから多いんだからな」


 そんな言葉をボグに投げかけるとボグは、口を大きく膨らませながら問題ないとでも言いたげな良い笑顔を見せてきて……そして口の中いっぱいの餅をごくんと一息に飲み下す。


「オラの喉詰まらせようと思ったら、大きなイノシシくらいのもん持ってきてくんねぇとなぁ、このくらいなんでもねぇよぉ。

 それよりも、お餅おかわりくださいな!!」


「おいこら、ボグ! お前だけで食べ尽くすんじゃないぞ!!」


 ボグの上げた声に対し、ペルがそう返し……そしてエルダー達がそれに応えておかわりの餅を用意する。


 朝から今まで働き続けてくれたボグへの礼でもあるのだろう……あんこ餅や辛味餅、様々な味の餅が用意されて……ボグがそれをいつにないご機嫌な様子で食べていく。


 体の小さなペルはその勢いには勝てねぇが、それでも中々の勢いで餅を食っていって……ポチ達もまた負けねぇ勢いで餅を食べまくっている。


「……あれ絶対太るぞ……餅の力を舐めてると痛い目みるぞ……」


 その光景を見やりながら杵を振るう俺がそう声を上げると、ネイは餅を返しながら鎮痛な面持ちとなって顔を左右に振り……そうして俺達はもちつきに集中していく。


 正月の餅は程々なら良いもんだが、限度を越えるととてつもない負荷を体に与えてくる。


 濃縮された米が、滋養が、体にどかんと溜まって膨れ上がってくる……。


 それはそれで寒く厳しい冬を乗り越えるための知恵なのかもしれねぇが……今の江戸の世でそこまで困窮することもねぇだろうしなぁ。


 そのことはポチ達も知っているはず、分かっているはず、初めて口にするボグとペルは仕方ねぇにしても、ポチ達は何をしてるんだと思うが……まぁ、それだけ美味いもんでもあるから、仕方ねぇのかもなぁ。


「こりゃぁ今日は一日食べ正月かねぇ、あの有様じゃぁ食べ終わった後は牛になって寝転がることしかできねぇだろうなぁ」


 そんなポチ達を見やりながら俺がそう言うと、ネイは無言ながら表情で同意だと示してくる。


 ネイもそこら辺には気を使ってるようだからなぁ……正月だからと多少の羽目は外すだろうが、そこまでは食わないはず。


 だがポチもシャロンもクロコマもボグもペルも……ついでにエルダーの何人かも、羽目が完全に壊れてしまっているようだ。


 とはいえ今は正月だ、正月からあれこれ言ってやるのも野暮というもの。


 一年の計は元旦にあり、ここであれこれうるさく言ってしまうようだと、うるさく言い続ける一年を過ごしてしまうことにかりかねん。


 好きなようにやらせてやろうと気にしないことにし、餅つきに意識を向けていく。


 ついてついて、新たな米を投入してついてついて。


 そうやってどれだけの餅をついたか、日が傾き沈み始めて……今日はまぁ、こんなもんかなと肩を回し、臼や杵の片付けを始める。


 中に残った米やこびりついた餅なんかもしっかりとって食べて……洗って乾かし、明日も使えるようにし。


 そうやって片付けを終えてから居間に戻ると……まずポチ、シャロン、クロコマの三人の姿が視界に入り込む。


 おかたく分厚い正月着物だってのに、それでも分かってしまう程に腹が膨らんでいて……本体より腹の方が大きいんじゃねぇかと思ってしまう程の膨れっぷりだ。


 腹を膨らませて天に向けて、息も絶え絶え……三人が動けるようになるのは、当分先になるだろう。


 ペルもまたそんな三人程じゃぁねぇが、結構な大きさに腹を膨らませながらぶっ倒れていて……どういう腹をしているのか、ボグだけが平気な顔をして今も餅を食べ続けている。


 エルダー達も面白くなってきてしまったのかどんどん作って食べさせて、ボグもそれに応えるかのように食って食って食って。


 その腹は一時的に膨らみはするものの、すぐにへこんで……そして厠へと向かって。


「消化吸収がものすごく良いのかしらね……」


 そんなボグを見てネイがそう言ってきて……俺は何も返さずにエルダー達にそろそろしまいにしろとの指示を出す。


「今日は元旦なんだしな、もうそこらで十分だろ。

 あんたらも餅食って酒飲んで、正月料理食って……満足するまで好きに過ごしてくれや。

 酒も料理も俺の奢りで食い放題、またとない機会だぞ」


 更にそう言うとエルダー達は大喜びで宴会の準備をし始めて……そうして組合屋敷での元旦はいつにない盛り上がりを見せることになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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