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年末大買い出し


 正月に餅つきを行うと決まったが……まずはその前の大掃除からだ。


 実家と組合屋敷を徹底的に綺麗にして、道場も綺麗にして。

 掃除が終わったら神棚と仏壇も綺麗に磨き上げ……一年間ありがとうございましたと、神棚から札を下ろす。


 他にも魔除けやらお守りやら、干支の書かれたもんやら、今年いっぱいの仕事を頑張ってくれたものを下ろしたなら、それらは近くの神社へと持っていく。

 

 また来年、縁日参りの際には新しいもんをお願いしますとそんなことを言いながらそれらを神社の連中に託したなら、今度は市場に行っての買い出しだ。


正月となったら正月が終わるまでは財布の紐を緩めねぇ、正月に緩めると一年間緩みっぱなしになっちまうなんて話があるからだ。


 そういう訳で正月いっぱい分の食料を年末のうちに買い込んで置く必要があり、うちみたいな大所帯は場合によっては荷車を用意しての買い出しが必要になることもあり……組合やボグやペルのことを思うと、今年はそんな例年以上の量を買い込む必要があるだろう。


 ……まぁ、ネイに頼んでおけば市場に行かずとも、必要な分を届けてくれるだろうから、そこまで気張らなくても良いのかもしれねぇが……大通り市場での大買い出しもまた年末の風物詩だ。


楽しいというかこれをやらねぇと一年を終われねぇというか、弟妹達にとっても待ちに待った行事だったりするので、ネイに任せきりにしないでしっかりと楽しんでおくことにしよう。


「はぁ~~~……魚魚、貝に魚、蟹に海老に魚に魚に、そうかと思えば野菜も肉もしっかりあって……。

いやはや、こいつぁたまげたね、シャクシャインの漁港全部合わせたってこんな市場にはならないよ」


「オラ達と一緒に来た商人も店を出したらしいけど、ここまでとは思っていなかったのか、商品の量が全然で、半刻待たずに品切れしたみたいだねぇ」


 そんな買い出しに着いて来たペルとボグは、港までの大通りの左右を埋め尽くす露店を見やりながら、そんなことを言っていて……同じく着いて来た俺の弟妹であるリンと弥助と、ポチの弟妹であるポールとポリーとポレットはそんなボグ達の周囲をうろちょろとしている。


 聞いたこともねぇ国からの珍客であるボグとペル、そんな二人とも遊びたいし買い物もしたいし、俺達からダンジョンの話も聞きたいし……ついでに年末の騒がしさにも当てられて、浮ついた気分を押さえられなくなっているらしい。


「お前ら迷子になるなよ、スリに気をつけろよ、ついでにふっかけようとする商人達にも気をつけろよ。

 好事魔多しってのは世の常だからなぁ」


 そんな弟妹達に向けて俺がそう言うと、弟妹達だけでなく俺の足元を歩いていたポチ、シャロン、クロコマまでが警戒感を顕にし始め……いや、お前らは大人なんだから最初から警戒してくれやと、そんなことを思ってしまう。


 そうした面々と市場を巡り、良さそうな品を買い漁り……ダンジョンで散々稼いだんだからと高級な品にも手を出して、もち米も特別上等なもんを家と組合屋敷に運んでくれやと注文をしておく。


 それと酒も……自分達の分だけでなく挨拶に来るだろう客人の分を含めたかなりの量を注文しておく。


「そういやクロコマ、西の方じゃ正月に薬入りの酒を飲むそうだが、お前も飲むのか? 飲むなら組合の予算で買っておくが……」


 酒屋がわざわざ市場に出している注文用の露店の前で俺がそう声を上げると、一瞬首を傾げたクロコマが、すぐに俺が言わんとしていることに気付いて、言葉を返してくる。


「それは屠蘇散のことかのう?

 そりゃぁめでたいもんだし、用意してくれるんならありがたいがのう……無理はせんでも良いぞ?」

 

 と、そんな遠慮気味のクロコマの言葉に対し俺が気にすんなというと、酒屋の主が注文用の紙を差し出してきて……そこに羅列されている生薬を選んでおけば、酒と一緒に届けてくれると、そんなことを言ってくる。


 するとクロコマよりも早くシャロンがその紙に反応し……生薬の名前を読み上げながら力のこもった声を上げる。


「山椒、桔梗、肉桂、防風、陳皮にコボルトクルミ……なるほど、どれもこれも体に良いものばかりですねぇ。

 ただこれらを組み合わせるなら一晩置いてから飲んだほうが効果的なので、届けるのは大晦日にして欲しいですかね。

 調合の方は私がやるので、品さえ届けてくれたらそれで良いですよ!」


 生薬の扱いに関しては右に出る者無し、専門家も専門家、普段から俺達の体調管理をしてくれているシャロンにそう言われたら否もなしで、酒屋の主に大晦日までに届けてくれと念押ししての注文をしておく。


 そうした注文が終わったなら今度は玩具屋の露店に向かい、正月遊び用の玩具を仕入れてやって、それも終わったなら今度は菓子屋に向かって……正月用の菓子の注文をしておく。


 飴に縁起菓子にまんじゅうに。


「……あんこ餅食えるんだから菓子なんていらねぇんじゃねぇのか?」


 注文中にそんな言葉が思わず漏れるが、弟妹達にとってそれは耐え難い言葉であったようで、物凄い不満顔での抗議の声が上がり……ついでにポチ達からも正月を何だと思ってるんだとの声が上がる。


 声を上げるついでにコボルトクルミを使った菓子の注文も済ませやがって……いや、本当にどっちが子供だか分かんねぇなぁ、なんてことを思ってしまう。


 そしてボグとペルにとっても江戸の正月菓子は珍しいもんらしく、見本の菓子をまだ正月じゃねぇってのに今にも食いつかん勢いでじっと見つめて……そんな二人の首根っこをしっかり掴んだなら、引きずるようにして更に奥へと進んでいく。


 もう大体の買い物を終えたのだが、それでもまっすぐに大通りを進むのが毎年の恒例行事だ。


 この空気、騒がしくも楽しそうな皆の笑顔を見るのも楽しいもので……江戸湾についたら今のうちにどんどか獲れとばかりに忙しそうにしている漁師達の船を見やる。


 冬の海は寒々しいもののはずだが、年末の今だけはいつになく賑やかで……その様子をじっくり見やったなら踵を返し、来た道を戻っていく。


 買い物を終えたらいよいよ今年も終わり……後はゆっくりと正月を待つだけとなる。


 正月になったらなったで色々と忙しいが……それはそれで楽しいもんだ。

 組合連中とも色々とやることになるんだろうし……最終ダンジョンに備えての支度もある。


 ……来年は一体どんな年になるのやらなぁとそんなことを考えながら足を進めて、買った飴を早速食べようとしている弥助にげんこつを見舞いながら両親が待つ実家へと帰宅するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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