コボルト達への神託
条件を満たしていねぇのにダンジョンから吐き出されたという珍事に見舞われながらも、俺達は特にそのことを気にしてはいなかった。
融合したダンジョンという特殊環境でならそういうこともあり得るだろうと覚悟していたからで……そんなことよりも俺達は江戸城が騒がしくなっていることが気にかかり、吐き出された順に立ち上がって、他の者達の邪魔にならねぇように地下倉庫を出て移動して……江戸城へと首を傾げながら視線を向ける。
するとすぐに江戸城職員のコボルトが駆けてきて、俺達を見つけるなり大きく口をあけて声を荒らげてくる。
「犬界さん! 皆さん! ご無事で何よりです!!
そして急で申し訳ないのですがご報告です! 江戸城のダンジョンほぼ全てが消滅、残るは第七と第八のみだったのですが、第七はどうなりましたか!?」
その言葉を受けて俺達は一斉に振り返って地下倉庫へと視線を落とし……そして俺が代表する形で駆け出し、地下倉庫へと入って確認をすると……そこにあったはずのひび割れ、ダンジョンの入り口が綺麗さっぱりと消えてしまっていた。
さっきまでいたダンジョンが消えちまっているというのは実際に体験してみると中々衝撃的で、大慌てで皆の元に戻ったなら報告をすると同時に、取り残されたものがいないかの確認のための点呼をし……全員が無事に吐き出されていることを確認出来たなら安堵のため息を吐き出し……それから職員へと声をかける。
「江戸城が騒がしいのは、ダンジョンの消滅を受けてなのか?」
すると職員は眉を寄せていかにもな困り顔となって言葉を返してくる。
「はい、それも一つで……もう一つ、恐らくですが江戸中のコボルト全員に神託が下りました。
突然意識を失い暗闇へと落ち、そこで声が聞こえてきて……すぐに目を覚まして。
それはもう本当に一瞬の出来事で、夢幻かと思うようなものだったのですが、全員で同じ内容を見たとなると流石に本物だろうということになり、今上様が対応を検討中です」
「……神託ってぇと人魚達が受けたっていうアレか? ポチ達もコボルトだが……ダンジョン内は江戸じゃねぇってことで受けられなかったのか……?
まぁそこは良いか……で? 具体的にどんな内容だったんだ?」
「はい、神託はとても短いもので曰く『もう馬鹿の相手するの疲れちゃったから、私もそっち行くね』とのことでした」
そんな神託の内容を……神のものとは思えねぇ軽過ぎる発言を耳にして俺が目眩を覚えていると、ポチ達がぶるりと身震いをして……それからポチ、シャロン、クロコマの順に声を上げる。
「ぼ、僕達の神様がこっち来るんですか!?」
「来て一体全体どうするつもりなんです!?」
「そんなことをしてこちらの神々は怒らんのか!?」
続いてエルダー達がざわめき、自分達の神はどうするつもりなのだろうかとそんなことを呟き始め……それを受けて職員コボルトが口を開く。
「神様の意思は分かりませんが上様は急ぎ神社を建立することで歓迎の意志を示そうとなさっているようです。
神社を建立し、そこに神様が遷座していただければその時点で八百万のうちの一柱となるだろうから、問題にはならないはずとお考えのようでして……。
そしてエルフさんやドワーフさんの神様ですが……江戸城職員のエルフさんドワーフさんにも似たような神託が下ったようでして、同様にこちらに来るのではないかと……。
そのため上様は建立した神社に複数の御帳台を用意することで対応するつもりのようです。
それぞれの神のための神社を用意するとかはその後で良いとお考えのようで……と言いますか、いくらなんでも複数の神社をとなると間に合うはずがないので、緊急対応ということで神々にはご容赦頂くしかないと仰せです」
それを受けてエルダー達は納得出来たのか段々と静まり……ポチ達も落ち着きを取り戻し、俺もまぁ、ポチ達がそれで良いならと頷き……上様は当分忙しそうだからと、帰宅の準備をし始める。
換金や報告は色々なことが落ち着いてからで良いだろう、俺達も疲れがたまっているし、今日はもう風呂入って飯食って休むとしようと、そう考えて職員コボルトにその旨を上様に伝えてもらうように頼み、それから皆で江戸城内をえっちらおっちら歩いていると……今度は別の職員コボルトが駆けてきて、大きな声を張り上げてくる。
「犬界さん! だ、第八ダンジョンが! 消えずに残っていた第八ダンジョンがとんでもないことに!!」
「……なんだ? 第八は消えてなかったのか? 最後のダンジョンで異変ってぇと、全てのダンジョンがくっついたか?」
俺がそう返すとそのコボルトは、その口を縦にぶんぶんと振ってから言葉を返してくる。
「調査に入った者達の報告によるとその通りで……融合した結果なのか何なのか、道もなにもない、だだっ広い空間に変化し、第八ダンジョンまでの魔物達がごちゃまぜで現れるようでして、混沌としか言えない空間になってしまったようなんです!」
その言葉は衝撃的なものだった。
驚き困惑し、混乱するものだった……だがまぁ、それはそれとして、今からそこに行くなんてのは無理だし、出来ることもなさそうだし……そういう訳で俺は、
「ああ、分かったよ。
明日以降時間を作って調査してみようとは思うが……その許可が降りるかは上様次第だからな、上様の仕事が落ち着かれるまでは待機とさせてもらうぞ。
流石に体力も限界だからな」
と、返す。
すると職員コボルトは大いに納得出来たとばかりに大きく頷いて……それから別の所に報告に行くのか、凄まじい勢いでどこかへと駆け去っていく。
第八ダンジョンで異変……か。
神々がこっちにやってきて、第八ダンジョンに魔物が集まって……そんな変化が起きている中見たあの光景は、つまりはまぁ、そういうことなんだろう。
揉めてた連中は神々で、向こうでの何かについて神々が揉めて喧嘩となって、呆れて諦めて一部がこちらに来ようとしている。
黒い城と魔物と戦う人間についてはよく分からねぇが……おそらくはその辺りの何かが神々が揉めた原因なんだろうなぁ。
そして神々の移住……それをこちらの神々がどう思うのか、歓迎するのかは分からねぇが、何事もなく済んで欲しいものだと願うばかりだ。
と、そんな事を考えながら俺が足を踏み出すと、ポチ達も何かを考えているのか無言でついてきて……そうして俺達は組合屋敷へと帰還するのだった。
お読みいただきありがとうございました。





