秘密兵器
金銀を拾い上げ、背負鞄にしっかりしまい……それからまたダンジョンの奥へと周囲を警戒しながら進んでいると、先頭を進んでいたポチ達が鼻を鳴らし始め……次に何かを感じたのか、ドワーフ達が前に出て目を閉じた状態で周囲を見回すというかなんというか、とにかく顔を突き出し動かすという不思議な動作をし始めて、それを終えるなりドワーフの一人が声をかけてくる。
「おう、犬界の、この先ちょいとばかり空気の流れが不穏だな。
おれらドワーフは洞窟ん中の空気の流れを感じ取るには長けておるのだが……この先にかなり広い空間があるかもしれん」
かなり広い空間があったとしてそれで何が不穏かと言えば、広い空間があればあの大ワニが自由に暴れられてしまうからで……俺はこの先にあるというその空間へと意識を向けながら言葉を返す。
「空間が広いんだとしてもさっきみてぇに通路に逃げ込んで戦う手があるだろう?
それともその手が使えそうにねぇ地形なのか?」
「ああ、絶対に無理だとは言わないが恐らくそうだ。
道が扇状に広がっていると言えば良いのか……この辺りからだんだんと道の幅が広がって、この先にある広い空間の壁に繋がっているような感じだな。
ここから一歩でも前に出ればそこからがもう空間の一部とも言えて……入ってすぐに大ワニが襲いかかってきてくれんなら、さっきと同じようにやれるかもしれんが……ある程度進んだ先で待ち構えているとか、中央辺りだけを戦場と見てそこから出ないとか、そんな待ちの構えを取られると……厄介だな。
空間の中央からここまで結構な距離があるようで……あの速さ相手にどこまで鬼ごっこが出来るやらな」
「なるほどねぇ……。
何か戦える手を考えるか、ここら辺りから魔法か何かで敵の位置を探って遠距離攻撃を仕掛けるか……。
それか厳しくてもクロコマの符術に頼りながら、通路まで逃げて引き付けるか……。
あれ相手に正面からってのは厳しそうだから、搦手で行きてぇとこだなぁ」
「正面からもやれないことはないだろうさ。
相手がデカブツだってんならそれ相応の、仕掛けや道具を使えば良い。
足止め用の陣地を組み上げるとか、大筒を持ち込むとか、落とし穴が掘れないのは残念だが、それでもなんとでもなるだろう。
あんな風に腹を擦って移動するんだから、大きめの鉄くず……尖らせた鉄棒や、鋼材なんかを溶接して組み上げて、大きめの撒き菱みたいなもんを作り上げてばらまいても良いかもしれないな。
そうなればあやつ、移動しながら腹を傷付け続けるか、撒き菱をいちいち避けなり弾くなりしなければならんだろうからな……かなりの足止め効果がありそうだ」
「ああ、大きい相手にはそういう手もあるのか……だがまぁ、足止めにしろ大筒にしろ、一度戻って支度しねぇといけねぇってのがな……。
……まぁ、それでも怪我したりするよりはマシと思うしかねぇか」
と、俺がそう言うと会話をしていたドワーフがニヤリと笑い……後ろを振り返ってみろと、指で示してくる。
一体何事だと首を傾げ、それでもそれに従って後ろを振り返ると、話を聞いていたエルダードワーフ達が、背負鞄から太い杵のような筒を取り出していて……取り出したならそれを誇らしげに抱えて、こちらに見せつけてくる。
「か、抱え大筒か? 戦国の世で何度か使われたらしいが……よくもまぁ、そんなもん作って持ってきやがったな」
抱え大筒、その名の通り両手で抱えてぶっ放す大筒で……火縄銃としちゃぁ大きすぎて大筒としちゃぁ小さすぎて、使い勝手はいまいちだと聞くが……ドワーフがわざわざ持ってきたんだ、戦国の世のそれと同じような性能ってことはねぇだろう。
「こいつぁそれぞれが趣味で作った試作品でな……例の新型火縄銃を参考にして作ったもんよ。
専用の弾を詰め込んだ実包ってのを押し込んでそのケツを叩いて発射させるって代物で、弾込めが楽で……実包が破れた瞬間、小さな弾がばらまかれるんで、命中性能も威力も抜群、特に大物相手にゃぁ効果を発揮するだろうさ」
その大筒を見やっていると、ドワーフの一人がそう言ってきて……俺は半目になりながら言葉を返す。
「いや、そんなすげぇ獲物があるならもっと早く使ってくれよ」
するとドワーフ達はガッハッハと笑い……良い顔をしながらの返事をしてくる。
「さっきも言ったがこれは試作品、出来ることなら使いたくなかったんだよ。
だがしかしあんな大物がいるなら仕方ねぇってんで使おうと決めたが……まさか打ち合わせもなしにこんなもんぶっ放せねぇだろ?
弾をばらまく関係で前方にいる連中全てに攻撃することになるからなぁ……前衛には知らせておかねぇと被害甚大だ。
ってな訳で、目の前の広場にはこれでもって挑んで……それでも駄目そうなら撤退するとしようじゃねぇか。
撤退したら今度は本物の大筒構えることになるかもしれねぇなぁ」
そう言ってドワーフ達は抱え大砲を構えて見せて……そしてエルフ達は少しだけ嫌そうな顔をする。
弓矢に比べてなんと下品な代物かとでも言いたげだが、ドワーフ達のことをよく分かっているので何も言わず……少しだけ不貞腐れているといったような、そんな顔だ。
それでもまぁ文句も言わずに、自分達も弓矢で戦うぞと構えてくれて……俺はポチ達の方を見やって、自分達の役目を再確認する。
抱え大筒とエルフの弓矢、圧倒的火力での遠距離攻撃。
それらが攻撃してくれるってんなら俺達の仕事は、敵を射程内まで誘うことで、発射までの時間を稼ぐことで……さっき試して大した効果のなかった武器での攻撃は控える形になるだろう。
駆け回り、逃げ切れない時はクロコマの符術に頼り、時たま牽制や挑発目的での攻撃をして……そんな感じでならまぁ、なんとかなるだろう。
そうと決めて改めて立ち位置を調整し……俺達が前、エルダー達が後ろという陣形になったなら、駆け回っても平気なように防具の状態を確認し、背負鞄をしっかりと背負い……帯を結び直し、ついでに髪も整え、そうしてから武器を構え直し。
それから大きく息を吐き出した俺達は……大ワニがいること前提で慎重に、この先に広がっているらしい広間へと向かって足を進めるのだった。
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