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金銀


 そこから先はなんともひでぇもんだった。


 大ワニはその体格のせいでこちらに近寄れず、こちらからは遠距離での攻撃が出来るのだが、とんでもねぇ巨体の大ワニ相手に弓矢だけでは決め手に欠け……ついにはドワーフ達が火薬樽でも拵えて大ワニに食わせてから火を点けるかなんてことを言い出し……挙句の果てにそこから発想を得たらしいクロコマが、弾力の符をどうにか大ワニの体内に送り込めないかなんてことを言い出してしまう。


 なんでそんなことを言い出したのかと言えば、大ワニの体内で弾力の符術を発動させられないかと考えたからだそうで……事前にたっぷりと魔力を送り込んだ符を体内で発動させることで、大ワニを内側から破裂させてやろう、なんてことを思いついてしまったからのようだ。


 そしてその案はドワーフ達の大賛成により実行されることになり、ドワーフ達が用意していた投石用の石に符を貼り付けた上で、大きく開かれた大ワニの口の中へと放り込まれることになり……結果、大ワニは爆散。


 爆散した結果大ワニの死体というか残骸というか破片がそこら中に飛び散り、俺達は肉片まみれ色々な液体まみれとなり……それからすぐに大ワニの死体が消えてくれたのは、本当に幸運だったと思う。


「……体内弾力を使う場合は、破片を浴びないで済むよう、弾力の符術を使った上でやってくれよ……」


 大ワニと何体かのワニの死体が消えてドロップアイテムが降ってきて……それらを拾い集めながら俺がそう言うと、クロコマが尻尾と耳を垂れさせながら「うん……」としおらしい一言を返してくる。


 クロコマとしても仲間ほとんど全員を肉片まみれにしてしまったことへの罪悪感があるらしく……そんなクロコマに対して皆は、反省の態度が見て取れるからか、一言も責めることなく、ドロップアイテム集めをしてくれている。


「しかしまさか、ワニのドロップアイテムが金と銀たぁねぇ……。

 小さいのがせめてもの救いっつうか……これが山ほど手に入るようなら、ダンジョンは閉鎖されてなかったかもしれねぇなぁ。

 ……いや、市場の混乱を防ぐために結局閉鎖されてたかな?」


 そう言いながら俺が集めているのは金や銀の『粒』で……鉱石とかじゃぁなく、まるで大きな砂鉄というか、小豆かと思うような金銀がそこら中に散らばっている。


 散らばりすぎて拾い集めるのが面倒で、ほうきなんかが欲しくなる程の有様で……それらを一粒一粒丁寧に拾い集めていると、ポチが首を傾げながら言葉を返してくる。


「しかし今までのドロップアイテムは、なんとなく魔物に関しているんだなぁと納得できるものでしたが……ワニに金銀というのはよく分からない感じですね。

 あのワニが金銀を拾い集めている様子というのも想像できませんし……ワニの生態に関係するものでもなさそうですし……」


「まぁ、たしかになぁ。

 岩山のような光景だし、鉱石ってならまだ分かるんだが、しっかり金と銀になってるってのがなんともなぁ。

 んー……異界だと山とか川にこういった砂金とか砂銀がごろごろ転がってて、それを巣にでもしてる……とかか?」


 ポチに対して俺がそう言葉を返すと、ドワーフの一人が酒に焼けた声を投げかけてくる。


「おお、分かっとるじゃぁないか。

 大体はその通りで……こいつらは金銀を集めて巣材にする習性があるんじゃよ。

 ただ集めるだけじゃぁなくて、金鉱石や銀鉱石を食って腹ん中で精錬したりもするらしい。

 お、その顔は信じてねぇっつうか、なんでそんなことを、って考えてやがるな?

 そりゃぁお前ぇ……金銀を巣に溜め込んでりゃぁ、上等な餌の人間がほいほい来てくれるからに決まっとろう!」


 と、そう言ってドワーフは異界の蜥蜴系魔物と金銀財宝の関連についてを語り始める。


 ワニに限らず異界の蜥蜴系魔物はどれもこれも、金銀や財宝を集める習性があるらしい。


 空を飛ぶ大きな翼を持つドラゴンと呼ばれる蜥蜴もそうだし、龍のような大蛇もそうだし、手のひらほどの小さな毒蜥蜴さえもそうだし……ワニもそう。


 そうやって巣を飾り立て、それら全てを手に入れたら一生楽に暮らしていけるって程の量を溜め込み……それらを奪おうとやってきた人間を捕食する。


 あちらの世界の人間は体内に結構な魔力量を有している。

 それでいて栄養価も高く、弱く……消化しやすいもんだから極上の餌、ということになるらしい。


 これが例えばエルフやドワーフなら魔力は多いが強い上に厄介な手管に精通していて……その上、消化しにくく、食中毒なんかにもなりやすいため、好まれないんだとかなんとか。


 長寿のエルフやドワーフであればいくらでも金稼ぎの方法を学べるし思いつけるし、時間をかけてじっくり取り組めるから財宝を狙うような連中はごく一部なんだそうで……そういう訳で金銀は人間だけを引き寄せる都合の良い餌……なんだそうだ。


「……な、なるほどな。

 確かにこっちの世界でも金銀が手に入るならって、無謀な真似する馬鹿は山ほどいるだろうからなぁ……。

 ん? 待てよ、コボルトって銀の加工が大得意だよな? コボルトはその餌に釣られたりしないのか?」


 ドワーフの説明が終わるなり、俺がそう言うと……ポチ達はやれやれと首を左右に振り、代表する形でポチが言葉を返してくる。


「いやですねぇ、狼月さん……僕達は加工が得意で、得意なことで稼ぎたいんであって、銀そのものが特別好きな訳じゃぁないんですよ。

 他のことで例えるなら農家と料理人の関係と言いますか……自分達でわざわざそんな危険をおかしてまで取りに行かなくても、人間達がどんどかと取ってきてくれるんですから、それを加工したら良いだけじゃないですか。

 昔の昔……向こうの人間達が差別的な目で見てくる前の時代では、そうやって大金を稼いだコボルト長者なんてのも居たみたいですよ。

 まぁ、そうやって二次産業側が一次産業側より儲けてしまったものだから、差別されるようになってしまったのかもしれないですけどね」


「お、おう……そうか……」


 ポチの言葉にそう返した俺は……異界のコボルトの歴史も色々と複雑なことになってそうだなと、そんな事を考えて……そうしながら手を動かし、散らばる金銀をさっさと集めていくのだった。

 


お読み頂きありがとうございました。

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