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時代


 焼貝を存分まで楽しんで……もう十分だというくらいに食べて、エルダー達にも食べてもらって……それでも結構な量の貝が残っていて、それらを見やりさて、どうしたもんかと考えていると、コボルト屋の店員がトタタタッと駆けてきて、大量に余っている貝を指差しながら声をかけてくる。


「こちら、もう焼かないなら僕達で料理しても良いですか?

 蒸し料理にすると、これが中々美味しくなるんですよ」


 それを受けて酒蒸しにでもするのかなとそんなことを考えた俺達が頷くと、店員はさっと編み樽を抱えて台所へと持っていき、そちらでの料理をし始める。


 酒蒸しくらいであれば俺でも真似出来そうで、これからも人魚達が貝をとってきてくれるならここらで一つ料理を覚えても良いかもしれねぇなぁなんてことを考えて、そうして俺も台所へと向かい……足場台を使いながら器用に料理をするコボルト達のことを眺める。


 どうやらコボルト達が作ろうとしている蒸し料理は酒蒸しではねぇようだ。


 まず貝殻を開いて貝の身を取り出し、塩水でそれをよく洗い……次にニンニクを刻み、長ネギと干しショウガを小さく刻み……それらを炒めて、少し冷ましたらポン酢をかけてかき混ぜ、そうして出来たタレを皿に乗せた貝の身へと回しかける。


 回しかけたなら一口ほどの大きさに切った春雨を振りかけて……振りかけたなら皿ごと蒸し器に入れてじっくりと蒸す。


「ニンニク多めにして蒸し上げるとですね、これがまた貝との相性が良くてたまらないのですよ。

 春雨とポン酢とネギでさっぱり楽しめて……臭みや独特のクセが抜けるので貝料理が苦手な人にもおすすめできる一品ですね。

 作るのも楽で、こういう場にささっと出すのにも適してますよ」


 その様子を見つめながら店員がそう説明してくれて……俺が「なるほどなぁ」なんてことを言っているうちに店員は、次々に貝の処理をしていき……蒸し器の中の貝が蒸し上がったなら、すぐに次だと用意をした貝を処理していく。


 蒸し上がった貝の方は別の店員コボルトによって居間へと運ばれ……それを追いかけて居間へと戻った俺は、自分の席へと腰を下ろすなり、貝のニンニク蒸しへと箸を伸ばす。


 しっかりと火が通っているが柔らかく、臭みやクセがすっきりと抜けていて、だというのに旨味はしっかりとあり……ニンニクとショウガとネギと、ポン酢の相性が抜群と来ている。

 

 春雨もしっかりと仕事をしていて……これだけを食べ続けて腹をいっぱいにしても満足出来るくらいに美味い。


「こんなに美味い料理があるたぁなぁ」


 その美味さに思わず俺がそんな声をもらすと……ネイやポチ達も同様の声を上げて、そうこうしていると大体の貝を蒸し終えたのか、店員コボルトがこちらへとやってきて、声をかけてくる。


「お口に合いましたか?」


「ああ、醤油焼きも美味かったが、これもまた別の美味さがあるっていうか、上品さがあってたまんねぇな。

 これもコボルト屋の料理……コボルトの伝統料理なのか?」


 俺がそう言葉を返すと店員は、首を左右に振ってから言葉を返してくる。


「いいえ、いいえ、ご先祖様達も貝を取って食べることはあったようですが、こんな風に料理したりはしてなかったようですよ。

 この料理はですね、海の向こう、大陸で流行っているものだと聞き及んでそれを再現してみたんですよ。

 ……人魚さんや黒船のおかげで、海の向こうとのやり取りも増えますし、こういった料理や新たな食材なんかも入ってくるんでしょうし……海の向こうのお客さんが来ることもあるかもって、研究を進めてる感じなんです。

 このお江戸に僕達がやってきた時のように、海の向こうとの付き合いが始まれば、また新たな文明開化が……新しい時代がやってくるんじゃないかって、皆さん仰ってて……なんだか僕達もそれが楽しみで仕方ないんですよ」


「あー……実際シャクシャインとはもう、やり取りが始まってるし、色々食材が入り込んできているし……いずれは大陸ともそういうことになるんだろうなぁ。

 そうなりゃ色々なもんが入り込んで……大陸や他のとこにも、異界の連中がいる訳で、そっちでもそれなりの文明開化みたいなことが起きてるんだろうし……一気に色々なことが豊かに変化していくのかもなぁ」


「そうですねぇ、きっとそうなりますし……そうなって皆が豊かになれたら嬉しいですねぇ」


 と、そう言ってから店員は、次の料理を作るべく、台所へと戻っていく。


 その背中を見送って……それから台所や庭の方へと視線をやって、寒い中元気にはしゃぐ一同の顔を見て……また時代が変わる時が来てるんだなぁと、改めて思う。


 世界に出来た傷が治り、ダンジョンが崩壊しているのも、そういった時代の流れの象徴……一つの時代が終わりに近付いているということを示しているのかもしれねぇなぁ。


 もしそうなら……まだまだ諦めきれてねぇだろう、森の奥や洞窟に潜み続けているエルダーエルフ達やエルダードワーフ達が少しでも納得出来るよう……次の時代に進めるよう、きっちり始末をつけてやるのが俺達の仕事なんだろうなぁ。


 もうあちらに行けねぇってのは分かってる。


 分かってはいるが、それでもしっかりダンジョンを攻略してやって……そのことを確定させて、連中が前を向けるよう、新たな一歩を歩み出せるようにしてやる。


 後悔だとか後ろ髪だとか、そういったものが残らねぇように、きっちりと片付けやって……それからどうするかはエルダー達の判断次第なんだろう。


 それでもあちらに戻ろうとするやつはいるんだろうし、考えを改めるやつもいるんだろうし……それもいずれは、次の時代へと時代が進めば、また何らかの変化していくのだろう。


「流石にその時には、俺ぁ生きてねぇんだろうけどなぁ」


 なんてことをふいに呟くと、ネイとポチ達が何事だとばかりに首を傾げてくる。


「いや、なんでもねぇよ」


 そんな一同にそう返した俺は……庭の方から何やら、肉か何かを焼いているのか、やたらと香ばしい匂いが漂ってきていることに気付いて、大慌てで立ち上がり、俺にもそれを食わせろと、そんなことを言いながら庭へと向かうのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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