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ダンジョンとは


 吉宗様の自室へと入ると、もう仕事の時間は終わったということなのか、浴衣姿の吉宗様がゆったりと構えていて……同じく浴衣姿の俺達はいつも通りの態度で吉宗様の前に腰を下ろす。


 それから挨拶をし、ダンジョンで何があったかの報告をすると……吉宗様は脇に置いてあった紙束を手に取り、それを読みながら口を開く。


「なるほど……大体のことは分かった。

 あの騒動があって以来こちらでも出来る限りの調査をしていたのだが……以前深森が口にしていたダンジョンに関する仮説のことを覚えているか?」


「仮説というと……ダンジョンが世界に出来た傷跡のかさぶただとかどうとかいう……あれですか?」


 俺が代表してそう返すと吉宗様はこくりと頷いて言葉を続けてくる。


「世界に傷が出来て、その傷が治りかけている、かさぶたのような状態がダンジョンで、ダンジョン内に出てくるモンスターは傷に侵入した病原菌、つまりは犬界達を迎撃、退治する免疫機構だとする説だ。

 それはあくまで仮説の一つであり、結論の出ていない話だったのだが……深森とエンシェントエルフ達が消えてしまったダンジョンの跡地や、残っている各ダンジョンなどの調査をした結果……ダンジョン消失の際の残滓や、そこからの魔力流れなどから、その仮説はほぼほぼ真実だろうと、そういうことになったらしい。

 そしてその仮説が真実だとした場合、ダンジョンの消失がどんな現象であるのかにも説明がつくとかで……つまりは世界に出来た傷が完治した、とのことだ」


「……完治、ですか。

 では二つのダンジョンが混ざりあったのは一体全体どういう作用で?」


「恐らくは、傷が完治したのを受けて、そこに使っていた治癒力を他の傷に回した、ということなのだろう。

 第一と第五ダンジョンの傷の治療をしていた何かが、第七ダンジョンの傷を治すために合流した、とでも言えば分かりやすいか。

 これもまた憶測でしかないが、犬飼達の報告のように、ダンジョンが混沌とした状況にあるのは合流したばかりの今だけ、なのかもしれんな。

 合流が済んで時間が経って落ち着いたなら……元の第七ダンジョンの光景に戻るのかもしれん。

 いや、戻るというのは正確ではないか、第一と第五が合流した分だけ力が増してより広く強大なダンジョンになるのだろう。

 そして強大になっただけ早く傷が治ることになり……遠からず第七ダンジョンも消えてしまうのだろうな」


「……なるほど。

 そうなると急がなければいけませんね……あちらへの帰還の手がかりがなくなることに……」


「……それなのだがな、犬界……深森達が出した結論によると、ダンジョンを介してのあちらへの帰還は不可能……とのことらしい」


「不可能……ですか」


「ああ、深森達によるとダンジョンは……あれらの傷は、あくまでこちらの世界に出来たものなのだろう、という話だ。

 犬界達は大物がいた場所をダンジョンの奥と表現し、その向こうにあちらの世界があるように考えていたようだが……実際にはそうではなく、犬界達はこちらの世界の壁のようなものの『表面』を移動していただけに過ぎないんだそうだ。

 奥に進んでいたのではなく、表面を上下左右に移動していただけ……皮膚に出来た傷の形にそって皮膚の上を移動していただけ、と言えば分かりやすいか?

 皮膚の上をいくら移動してもその奥にある肉や骨に到達することはない……と、そういうことのようだ。

 では大物を倒し垣間見た光景が何だったのかは……向こうの世界の残滓ではないかということらしい。

 コボルト達がこちらに移動してきた際に巻き込まれたもの、一緒に吸い上げられたもの、ドロップアイテムもその類だが、光景や情報が同じようにしてこちらに入り込み……傷の中に残っていた。

 モンスターについてもそうだ、あちらの世界の情報を傷を治そうとしている何かが……世界の治癒力が利用していただけ。

 それがゆえに既に滅んだ魔物までが現れ、倒せば霞のように消え去ったのだろう。

 ……この結論に関しては今のところ異論はなく、帰還を強く望んでいたエンシェントエルフ達までが間違っていないのだろうと肯定の立場を取っていて……深森達が全身全霊を賭して調査した結果となっている。

 ……深森にとってはこのことがよほどの衝撃だったようでな、いずれダンジョンがなくなり、ダンジョンに関わる様々な調査が出来なくなるということが辛すぎたのか、報告を終えるなり自室に引きこもっての不貞寝をしている有様だ」


 あちらに興味津々の深森や、帰還を強く望んでいるエンシェントエルフ達までがそう言うのならば、それが事実なのだろう。


 そんな嘘をつく理由がなく、他に可能性があればそれに縋るはずで……そんな結論を出さざるを得ねぇ何かがあったからこそ、不貞寝までしている訳で……。


 出来ることなら帰還を望む連中を帰してやりたいと思っていた俺達は、何とも言えねぇ気分になって頭をかき……全員でほぼ同時に小さなため息を吐き出す。


「惜しくはあるが仕方ないということなのだろうな。

 多くの者達の働きでかなりの量のドロップアイテムが手に入った、鉱山一山二山かそれくらいの物資と見れば、十分に過ぎる。

 ダンジョン探索を始めて一年も経っていないというのにこの結果だ……もっと早く始めていればと惜しむばかりだ。

 他のダンジョンが消えるまでどのくらいの猶予があるかは分からないが……それまでに可能な限りドロップアイテムを手に入れて、新しい時代に備える必要があるのだろう」


 そんな俺達に吉宗様はそう声をかけ……俺達が視線を返すと、頷いて更に言葉を続ける。


「そう、新しい時代だ。

 非協力的だった種族には神託が下り協力的になった……帰還を望んでいた者達もこれからは腰を据えてこちらで生きていくための覚悟と支度をすることになるだろう。

 神託や我々からの働きかけの影響を受けて、異界の者達との和平を決めた国もちらほらとだが出てきた。

 コボルト達がやってきたあの日から、様々なことが変化し、前に進み、今の時代を作り上げてきた訳だが、ここからは更にもう一段、進んだ時代となるのだろう。

 ダンジョンが消えてしまうことは惜しいことだが……惜しんでばかりもいられないという訳だ」


 その言葉を受けて俺達は頷き、お互いの顔を見合い……新しい時代に自分達がついていけるかは分からねぇがとりあえず、少しでも力になれるよう、その時が来るまでダンジョン探索を頑張るかと、そんなことを思うのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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