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大江戸コボルト【WEB版】  作者: ふーろう/風楼


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湯殿


 江戸城の湯殿は、大量の湯を使ったひのき風呂となっていて……ドワーフ達が作った汲み上げ道具で地下水が汲み上げられ、同じくドワーフ達が作った特殊な窯で沸かされているものらしい。


 広さは十分、当然のように金と手間がかけられた作りとなっていて……そこに入ることが出来るのは吉宗様を始めとした一部の者達だけだ。


 そんな湯殿へと疲れた体を引き摺って移動をし、脱衣所で服を脱ぎ、入り口側にある小さな桶でもって、壺のような湯溜めから湯をすくって体の汚れを流し……それから奥へと足を進めると、なんとも言えないひのきの香りが身体中を包んでくれる。


 床は石床、天井と壁は木材、そして風呂そのものは当然ひのき木材で……四角く作られた十人どころか、二十三十人は入れる広さとなっている。


 そしてその風呂にゆっくり入ると温かさとたまらない香りが身体中を包んでくれて……体に溜まりこんだ疲れが一気に抜け出てくれる。


 体の奥底から手足の先から、黒い何かが滲み出てくるような幻覚が見えそうなくらいに疲れが抜けていって……俺がその感覚に浸っていると、コボルト用に段差が作られ、特別浅くなっている辺りに腰を下ろしたポチとクロコマが同時に声を上げてくる。


『あぁ~~~~……』


 そう言ってポチ達は脱力しながらゆっくりと湯の中に沈んでいって……沈んだかと思ったら体が軽いせいなのかぷかりと浮かんで、腹を天井に向けた状態で風呂の中を漂い始める。


「お前らな……そこらの風呂屋とは違うんだから、ちったぁ自重しろよ?

 油断しすぎて粗相とか絶対にすんじゃねぇぞ?」


 そんな二人に俺がそう声をかけるが、聞こえているのか聞こえていないのかポチ達は風呂の中を漂い続けて……そこに何人かのコボルトが、袖と裾の短い着流し姿でやってくる。


 確かあれは風呂番とか呼ばれる、風呂の掃除をしたり入浴客の背中を流したり、髷の客がいれば髷を整えたりとする連中だったか……最近では温泉地なんかでも見かけるらしい。

 

 そんな事を考えてぼんやりとそいつらのことを見ていると、一人が湯殿の隅にあった香炉のようなものに手を伸ばし……そこに何かを入れたり、火をつけたりとし始める。


 するとすぐにそこからふんわりと良い香りが……ひのきにも負けないたまらない香りが漂ってきて、風呂番コボルトの一人が声を上げる。


「皆様お疲れのようなので、ほうじ茶の香を点てました。

 これがまたひのきと相性が良く、体の奥底まで染み渡ってくれるのですよ。

 この香りを楽しみながらゆったりと湯に浸かって頂き……体が十分に温まりましたら私どもがお体を洗いますので、お声かけください。

 それと女湯の方のお客人から報告の方を犬界殿に任せて、自分達は湯殿をゆっくり楽しむことにする、との伝言を預かりましたので、お伝えしておきます」


 女湯の方の客人とはネイとシャロンのことで……まぁ、あの二人が長湯なのはいつものことなので何も言わずに頷いた俺は……ほうじ茶の香りを胸いっぱいに吸い込んでから、ゆっくりと息を吐き出し……十分に温まったし、疲れも抜けたしと、湯から出て風呂番の指示に従って、用意された椅子に腰掛け……後は風呂番達に任せてゆったりと体を休める。


 すると風呂番達が手にした布と石鹸でわしゃわしゃと俺の体を洗い始め……そうかと思えばすぐに髪の毛も髪の毛用の石鹸で洗い始め……洗い終わったなら桶でもって何度も何度も湯をかけられ……石鹸の泡を綺麗に洗い流したなら、湯に入るように促され……少し冷えた体をもう一度温め直す。


 俺がそうやって湯に浸かっている間、半ば寝ているような状態だったポチとクロコマが回収されて、その全身の毛をわしゃわしゃと洗われ……それが終わったなら俺と同じように泡が洗い流され、湯へと戻される。


 そうやって体を温め直したら風呂番に脱衣所に向かうように誘導され、湯上がりの汗や雫も風呂番連中が拭ってくれて……拭い終えたなら今度は、髪の毛の手入れまでしてくれる。

 

 水気をよく拭き取り、上等な櫛でもって椿油をそっと、薄く塗ってくれて……塗り終わったなら厚手の布で髪の毛ごと頭を包み込み、ポチやクロコマはコボルト用の浴衣でもって全身の毛を包み込まれ……良い温かさと香りが全身を包み込む。


「……このまま寝てぇとこだが、食堂行って腹満たしたら、吉宗様のとこに向かうぞ……」


 それらの手入れが終わり、浴衣への着替えを済ませた俺がそう言うと、ポチとクロコマは心底辛そうな……今すぐにでも布団に包まれて寝たいとの顔をするが、相手が吉宗様では文句も言えず、素直に頷いて……そうして俺達は風呂番に礼を言ってから湯殿を出て、食堂へと向かう。


 洋風式の洋風机と洋風椅子が並ぶ食堂に入り、用意された席につくと、食べやすいようにと気遣ってくれたのか、料理人が茶漬けを用意してくれて……茶漬けだけでは味気ないと思ったのか、たくあんやらいくつかの漬物を用意して、それらを包丁で細かく刻み、食べやすく……それでいて良い食感になるようにした上で、茶漬けの上にふりかけてくれる。


 米は炊きたて、茶は上等、出汁もこっそり入ってる刺し身も、刻みネギも上等なもんで……漬物もいい具合に浸かってるもんだから、これがまたなんとも美味い。


 味、香り、食感、どれもが口を楽しませてくれて……それらを食っているうちに半ば寝ぼけていたポチとクロコマの顔がしゃっきりとしてくる。


 しゃっきりとしてきて茶漬けを食べ終える頃にはしっかりと覚醒して……そして三人の腹が同時にぐぅ~~と鳴る。


 これでもかと動いて腹は空っぽ、この程度の茶漬けではただの呼び水にしかならず……とは言え吉宗様を待たせる訳にもいかねぇよなぁと頭を悩ませていると、料理人が大慌てで大きめの塩むすびを作ってくれて、俺達の手に握らせ……それを食いながら移動しろと、無言ながら目でもって伝えてくる。


 それに頷いた俺達は立ち上がり、塩むすびを頬張りながら足を進めて……その美味さに唸り声を上げる。


 炊きたての上等米、塩だってかなり良いもんを使ってる。


 噛めば甘くてほんのり塩味で、がっつりと感じる米の旨味のおかげで唾液が口の中で弾ける。


 普通なら茶を飲みたくなるところだが、よく噛んでいるおかげかそこまで気にならず……移動しながら塩むすびを完食した俺達は、口元に飯粒が残っていないかの確認をした上で、挨拶をし、吉宗様の自室へと足を進めるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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