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全力撤退


「ぬおおおおおお!!!」


 成り上がった鬼を倒した俺達は、更に先へと足を進めて……そしてすぐにそんな声を上げることになった。


 俺達が戦っている間に伊勢海老を食いまくっていたのか、次々現れる成り上がり鬼、そんな中伊勢海老もしっかり現れて、鬼とこちらを同時に攻撃してきて……俺達はそんな状況の中で戦うことになってしまって……。


 ドロップアイテムに期待が持てねぇのにしっかり強く、小鬼のように数が多く……そんな魔物連中と何度も何度も斬り合った結果、黒刀が以前親玉蕾と戦った時のように陽炎をまとうようになり、おかげで連中をさくさく倒せはするのだが、疲労がどんどん蓄積されていく。


 ……陽炎はどうやら魔物と何度も何度も斬り合うことで発動するらしい。


 斬り合う中で魔物の血を吸って……というよりも魔力を吸ってそうなるようで、魔物連中の魔力を込めた一撃なんかを弾き続けるだけでも発動してくれて……陽炎をまとった黒刀は斬れ味が増すだけでなく、切り傷を燃やし焦がす効果があるようだ。


 そのおかげで鬼だろうが伊勢海老だろうが倒せるのだが……そもそも鬼はダンジョン最奥の親玉、それが何匹も何匹も出てこられたらたまったもんじゃぁねぇ。


 武器も防具も無ぇとはいえ、厄介この上なく……そんな魔物の群れの中で俺達は戦い続け、悲鳴のような声を上げ続け……そしてクロコマの符術を連発するか、撤退するかの選択を迫られることになる。


 ここで撤退すれば今までに倒した、何匹もの鬼や伊勢海老のドロップアイテムを得られない訳だが……かといって次々現れるこいつらを符術で倒していたら大赤字も大赤字。


 陽炎である程度の数を倒せはするが、連戦が過ぎて流石にもう体力の方も限界で……そうして俺は決断を下すことになる。


「撤退だ! 撤退!!

 シャロン! 毒でも煙幕でもなんでも良いから投げろ! 

 クロコマ! 弾力の符術を一枚だけ使って追撃を弾け! 

 ポチ! 先頭を駆けて出入り口までの安全を確保! こんな有様のダンジョンじゃぁどこに敵が現れるか分からねぇぞ!!」


 するとすぐにポチ達が動き始めて……俺が陽炎黒刀を振り回しての殿として踏ん張る中、ポチが駆け出し、シャロンが煙幕用の粉を投げ放ち……それを受けて俺が退き始めるとクロコマが俺と魔物連中の間に符術の壁を張って……そしてシャロンとクロコマは何も言わずに、俺の方へと駆けてきて、飛び上がってきて……黒刀を鞘に納めた俺はそんな二人を掴み上げ、両脇に抱え込む。


 コボルトは足は速いが体力が少ねぇ、長距離を駆けるとなるとかなり不利で……その上、シャロンとクロコマは体よりも知恵の方を鍛えていて……そんなシャロン達が出入り口まで駆けようとしたなら恐らくは途中で息が切れちまうことだろう。


 そこら辺をよく理解しているから二人は何も言わずに俺に頼った訳で、俺もまた何も言わずにそんな二人を受け入れて……荷物やらのせいで結構な重さとなっている二人をがっちりと、絶対に落とさねぇようにと抱え込んで全力で駆け出す。


「……ぜぇぇぇ、はぁぁぁぁ、くそがぁぁぁ……!

 シャロン達よりも無価値に違いねぇドロップアイテムが重ぇぇぇ……!

 鞄ごと投げ出してぇが、あれだけ苦労したのに稼ぎ無しってもやってらんねぇ……!!」


 よせば良いのにそんな声を上げながら駆けて、そのせいで余計に息が切れて……。


 そんな俺を応援しようとしているのか、クロコマとシャロンが声を上げてくる。


「ほれほれ、口を動かさず足を動かせ! 無事に帰れば少なくとも嫁さんが喜んでくれるはずだぞ!」


「が、頑張ってください! 無事に帰れたら美味しいご飯おごりますから!!」


 そんな声を一応の励みとして駆けていって……汗が鬱陶しい程に流れ、足全体が痛みだし、息がもっと欲しいと膨れ上がった胸が張り裂けるんじゃねぇかとなった所で……、


「もう少しですよー!!」


 とのポチの声が聞こえてきて、俺はもう汗で前も見えないような有様で、その声の方へと駆けていく。


 駆けて駆けて……すると出入り口に到達出来たのか、ダンジョンを出入りした際のあの独特の感覚があり……それが終わった瞬間俺は、クロコマとシャロンを手放して地面に倒れ伏す。


 地下倉庫の石床は冬というのもあって冷え切っていて、中々の暖かさだったダンジョンと違って冬の江戸の空気が煮上がった俺の体を癒やしてくれて……。


 そんな俺の口にポチ達が、水筒を取り出して押し付けてきて、その中身を流し込んでくれて……息を整えた俺がそれを飲んでいると、誰かが階段を下りてくる足音が聞こえてくる。


 その足音は落ち着いたもので、堂々としてもいて……その匂いを嗅ぎつけたのかポチ達が居住まいを整え始めたのを見て、誰の足音か察した俺は無理矢理に体を起こし、ポチ達と同じように居住まいを整える。


 すると俺たちの騒ぎを聞きつけたのか、それとも俺が床に倒れ伏している間に誰かが知らせに行っていたのか、吉宗様が姿を見せて……声をかけてくる。


「その様子だとダンジョン内で何かが起きているようだな? 詳しい話を聴きたい……息を整えたなら、用意をさせておいた江戸城内の湯殿で身を清め、食堂で軽い食事をした上で報告にきてくれ」


 その声を受けて俺達はちょっとした驚きを抱くことになる。


 江戸城内の湯殿は、特別製も特別製……吉宗様や江戸城に来るような来賓しか使えない代物だ。


 食堂に関しては職員も使うものの、それでもそこらの飯屋の数段上、料理人も材料も一流の……御庭番の俺でも中々利用できねぇ、特別な飯屋だ。


 なんだってそんな場所を俺達に使わせてくれるのやらと驚いていると、また別の足音が階段を下りてきて、半目のネイが顔を見せて、一言だけを口にする。


「遅い! もうとっくに夜よ!!」


 その声を受けて俺達は目を丸くし、お互いの顔を見合う。


 確かに今回はかなりの苦戦を強いられたし、敵の多さから長時間の探索となったが、まさか日が沈んでしまっているとは……。


 そんなにも長い時間の探索となったらもっと早くに体力が切れていそうだし、空腹や乾きの問題もあるし、そもそもポチ達が休憩を要求してきそうなもんなんだが……。


 そこら辺のことを考えて同時に似たような疑問を抱くことになったらしい俺達は、一斉にダンジョンの入り口の方を見やり……まさかこのダンジョン、中身以外の何かもおかしなことになっているのか? と、そんなことを思うのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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