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対決、伊勢海老


 伊勢海老の髭鞭での初撃は、俺が踏み込み黒刀でもって受けて……そのまま髭を斬ってやろうと考えていたのだが、思っていた以上に甲殻が硬く、受けるだけで精一杯で……せめてポチ達に鞭が当たらないようにとぐっと押し込むと、空中で体をひねっていた伊勢海老は、次の一撃を狙ってか、その大きな口でもってがちがちと音を立てながら地面に立って構え直す。


 が、先程小鬼達に足を奪われていたことを忘れていたのか、分かっていても対応出来なかったのか、がくりと態勢を崩し……その右半身を地面に打ち付ける。


 そうして出来上がった大きな隙を見てまずポチが小刀での斬撃を飛ばし、続いてシャロンが礫で、そしてクロコマが飛ばし弾力の符術でもって攻撃を加えるが……そのいずれもが甲殻によって弾かれてしまう。


「おりゃぁぁぁ!!」


 そんな様子を見ながら俺もまた黒刀を全力で振り下ろし……普通の刀だったら折れているだろうなという衝撃が両手に伝わり……黒刀がめきりと音を立てながら甲殻をわずかだがへこませる。


「下がってください!!」


 まさか斬れねぇとはなぁと驚いているとポチのそんな声が響いてきて、俺は何も考えずに即座に飛び退き……直後それまで俺が立っていた場所に、体全体を器用にひねった伊勢海老の髭鞭が打ち付けられる。


「っぶねぇ!? 威力はとんでもねぇなぁこの髭!」


 飛び退いて距離を取って、黒刀を構え直しながら俺がそんな声を上げていると、伊勢海老がひゅんひゅんと音を立てながら髭を振るい……その動きというか、勢いを見て俺の後方に控えているポチが淡々と……というか、呆れ混じりの声を返してくる。


「小鬼との戦いを見ていて、なんとなくそうなんじゃないかなーと思っていたんですけど……あの髭、体全体をひねって勢いを付けないと、十分な威力が出せないみたいですね。

 髭がそれ単体で動く仕組みが無いというか、筋肉がないというか……今みたいに軽く振るくらいは出来るみたいなんですけど、勢いが全然違いますねぇ」


 ポチのそんな言葉に、まさかそんな、中途半端な武器がある訳ねぇだろうと俺は訝しがるが……確かにさっきから伊勢海老は、妙ちくりんな形に体をひねったり、無駄に飛び上がったりと……髭を振るうだけにしては、随分と派手な動きをし続けている。


 てっきりそれは髭鞭の威力を上げるための動作かと思っていたのだが……威力を上げる云々以前の、放つために必要な動作だとすると……なんともはや、随分と無駄な動きが必要になるんだなぁ。


「……小鬼なんかに足を奪われていたのはそのせいか。

 派手な動きが必要で、あっという間に体力を消費する上に隙がでけぇ……小柄な小鬼なら回避も容易だろうな。

 あるいは海の中でならもっとこう、まともに戦えるのかもしれねぇが……陸に上がっちまったのが運の尽きか」


 俺がそんなことを言うと伊勢海老は、まさかこちらの言葉を理解していた訳でもねぇんだろうが、まるで俺の言葉に反応しているかのようにいきり立ち……上半身を器用に持ち上げ、随分と大きくいかつい口をこちらに見せつけるかのように動かし、威嚇のつもりなのか先程よりも大きながちがちという音を立てる。


「……無駄に体力を使うもんだから、こうやって威嚇しながらの休憩が必要という訳なんでしょうねぇ。

 ……実際の伊勢海老もあんな口をしていまして、すごく硬い歯を構えたその口で蟹とか貝とかの硬い海産物も簡単に食べてしまうんだそうです。

 そう言う意味ではあの口も立派な武器で……あれだけの大きさだと鉄塊でも噛み砕けそうですから、気をつけてくださいね」


 そんな口を見てポチがそんな言葉を口にし……俺は思わず、


「なら最初からその口で攻撃してくりゃぁ良いじゃねぇか!?」


 と、そんな風に声を荒らげてしまう。


 するとポチは「ふぅ」とため息を吐き出してから、言葉を返してくる。


「狼月さん、威力はあっても口なんですよ、口。

 噛もうと口を大きく広げた所に、刀を突き立てられたり、礫を投げ込まれたり、毒を投げ込まれたりしたら大惨事じゃないですか。

 恐らくですが、あの伊勢海老……のような魔物は、髭鞭で相手を弱らせるなり気絶させるなりしてから捕食するという生態なのでしょう、それなら安全に食べられますからね……。

 そしてこのダンジョンが高難易度とされた理由は……あの甲殻の硬さゆえに、エルフ達の弓矢が通用しなかったからなのでしょう。

 ドワーフ達だと今度は動きが鈍くて髭鞭の的ですし……つまりまぁ、ドワーフと比べたら非力で、エルフに比べたら俊敏さに欠ける僕達ですが、ドワーフよりも素早く動けて、エルフ達よりも威力のある攻撃を放てるという点から見るに、あの伊勢海老に対して苦戦することはないはずです」


「……いやまぁ、伊勢海老に通じるような威力のある攻撃を放てるのは現状、俺だけのようなんだけどな?」


 したり顔でそう言ったポチに対し、俺がそう返すとポチは、耳をぺたんと垂れさせてしょぼくれて……そんなポチを見てか、符を構えたクロコマがずいと前に進み出る。


「おうおうおう、黙って聞いていれば狼月だけが攻撃の要ってのは聞き捨てならんのう。

 このクロコマの符術だって、先の攻撃で十分な衝撃を伊勢海老に与えていたはず……!

 そしてこのワシの符術は日進月歩! 日々研究、日々改良!

 最近の稼ぎのほとんど投じて集めたドロップアイテムを使うことにより、もっともーーっと威力のある符術の開発に、しっかりと成功しておるわい!!」


 そう言ってクロコマは符だけでなく、シャロンがいつも投げ紐で投げているような礫を懐から取り出し……右手で符を構え、左手で礫を構え、符の前に礫を持ってきて……、


「食らうが良い!!」


 と、威勢のいい声を上げてその直後、符が光をはなってなんらかの符術が発動し……符の前にあった礫が目にも留まらぬ速さでもって伊勢海老の方へと撃ち出される。


 凄まじい速度、遅れて音がやってきて、礫が切り裂いた空気の揺れが頬を撫でて……そして礫は、次の攻撃をしようと体をひねり始めていた伊勢海老のすぐ横を通り過ぎて、見えないダンジョンの壁にぶちあたって凄まじい衝撃音を響かせる。


「……なるほど、確かに威力はすげぇな、威力は」


 黒刀をしっかりと構え、伊勢海老の攻撃に警戒しながら俺がそう言うと、クロコマは「こほん」と咳払いを一つし、もう一度符と礫を構え……そして今度は掛け声なしで礫が発射される。


 速度は恐らく銃以上、弾力の力を集約して礫を射出しているのか……鉄砲の弾よりも大きく硬く重い礫をそれだけの速さで射出するのは正直大したもんで……そしてそんな礫だから威力も当然鉄砲を越えたものとなっていた。


 そしてその直撃を背中というか甲殻というか、まぁ大体そこら辺で受けることになった伊勢海老は、礫の衝撃を受け止めきれず、変に体をひねっていたこともあってか盛大に吹っ飛び……ダンジョンの壁にずがん! という音を立てながらぶち当たり……そうしてずるりと地面に倒れ伏すのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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