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とびきりの


 江戸城に帰還し、かなりの量となった植物系のドロップアイテムを深森に預けて、そうして俺達は一旦組合屋敷へと帰還した。


 再度あの扉に挑むにしてもまずは体を休める必要がある。


 体を休めてしっかりと鍛えて……投擲などの小手先の技が通用しないのだから正面から殴り合う覚悟も決めなければならない。


 ついでに美味い食事もして、魔力も充実させて……そうやって十分に準備を整える必要があり……俺達は早速その準備を始めようとしたのだが、そこでボグとペルがこんなことを言い出した。


「オイラ達、ちょっとシャクシャインに行ってくるよ。

 食事で魔力や器に影響があるというのなら……シャクシャインのあれを試したいからね。

 黒船があれば二、三日で帰ってこれると思うし……ちょっとだけ待っててよ。

 あ、それとネイさんに黒船に乗らせてって連絡もよろしく」


「あれがあればオラはもちろん、兄弟達も皆うんと力が付くだろうから……オラ、頑張って獲ってくるよ」


「お、おう……帰りたいなら帰って良いし、何日か開けるくらいは全然構わねぇが……あれってのは何なんだ?」


 そんなボグ達に俺がそう返すとボグ達は、


「それはひ・み・つ」


「持ってきて驚かせたいからなぁー」


 なんて返事をよこして……そうして休憩は黒船でしたら良いからと、ろくに休憩もせずに旅立っていった。


 旅立っていって、俺達が体を鍛えたり、装備を整えたり、戦略を組んだりして六日が過ぎてようやく帰ってきて……そしてボグの両腕には、それはそれは大きな、一瞬誰かが作った偽物かと思う程に大きな……なんとも新鮮そうな魚が二匹、抱え込まれていたのだった。




「これはね、オペライペとかチライとか、まー色々な名前で呼ばれている……こっちではイトウって呼ぶんだっけ? そんな魚なのさ。

 昔話ではやれクマを食べたとかシカを食べたとか、川を堰き止める程に大きいイトウが湖を作ったなんて話もある程に大きくて、生命力に溢れていて……美味しくて。

 これを食べればきっと魔力と、ついでに力も湧いてくるはずさ」


 台所に移動し、ボグと一緒になって調理を始めたペルが、そんなことを言ってくる。


「この馬鹿でけぇ魚はそんなに美味いのか……?

 これだけでかくて美味かったらそりゃぁ食い甲斐があって良いだろうがなぁ」


 まな板と言ったら良いのか、戸のような板と言ったら良いのか、そんな大きな板を用意して、その上にどてんとイトウを横たえて……下処理やらウロコ取りやらをしているところを覗き込みながらそう返すと、ペルはふふんと鼻を鳴らし、得意げな顔をしながら言葉を返してくる。


「イトウはねー、獲った場所によって味が大きく変わる魚なんだよね。

 住んでいる場所の水と餌の味がこれでもかと影響する魚で……場所によってはこれでもかと野性味に溢れた生臭さが強くて、今ひとつなんだ。

 だけども美味しい水が流れている、美味しい餌が豊富な川とかに住まうイトウは、その美味しさをこれでもかと反映した美味しさになるものでね……このイトウはオイラ達が知る中で一番美味しい水と餌で育った、天下一のイトウなのさ」


「へぇ……そいつぁ期待できそうだなぁ。

 しっかしシャクシャインってのはこんなにも大きな魚が川を泳いでる場所なんだなぁ……こいつを川で見たらさすがの俺も驚いちまうだろうなぁ」


「んまー、これは養殖のイトウだからね、天然物でここまで大きくなるのは稀じゃないかなぁー」


「は……? 養殖?」


 聞き慣れないその言葉をそのまま聞き返すと、それまで話していたペルではなく、ボグがどこか自慢げに、イトウの養殖についてを話し始める。


 ボグの先祖がこちらにやって来た時、シャクシャインの川を見て大層喜んだそうだ。


 美味しい美味しい鮭がいるだけでなく、イトウなんて大物までいて、食うに困らない生活が待っていると。


 ところが食べてみるとイトウは、大きいだけであまり美味しくはなく、そんなボグの先祖達をひどく落胆させてしまったらしい。


 だが極稀にではあるが美味しいイトウがいて……何度かそいつを食べるうちに水の綺麗な川で獲ったイトウは格別に美味しいということに気付いたボグの先祖は、綺麗な水を用意して、そこで馬や牛をそうするようにイトウを飼って増やそう、なんてことを思いついたんだそうだ。


 そんな試み、当然のように失敗ばかりだったのだが、それでも諦めずに無駄に根気良く研究を続けて……今もまだまだ完璧じゃぁないが、小さなイトウを捕まえてきて、自分達が用意した水の綺麗な美味しい餌がたっぷりとある池に放って育てるなんて方法で、養殖とやらを成立させているらしい。


「繁殖もさせてはいるんだけどね……まだまだそっちは研究不足だって皆言ってるねぇ。

 ……とりあえず、うん、これは美味しい美味しい養殖で一番良い出来のだから、期待して待っててくれていいよ」


 と、そう言って話を締めて、調理に集中し始めたボグを見て……俺は「おう」とだけ返し、居間へと移動する。


 どうやら以前食べた鍋とはまた違う料理にしているようだし、本気でやってくれているようだし……後はもうその言葉通りに期待だけして、大人しく待っていた方が楽しめそうだと判断したからだ。


 居間にはポチ、シャロン、クロコマ、それとネイと……黒船関連だからか耳聡く話を聞きつけた吉宗さ……じゃなくて、新さんが囲炉裏の火を囲む形で座り込んでいて……もう来てしまったもんは仕方ねぇと、何も言わずに俺もそこに混ざる形で座り込む。


 するとなんとも予想外なことに間を置くことなくボグがやってきて……串にざっくりと刺して、塩を軽く振っただけのイトウ……ではなく、その皮を持ってきて、囲炉裏の周囲にざくりと刺し置く。


「本体の方の調理はまだ時間がかかりそうだから、それまでこれ食っててくれ。

 皮は脂たっぷり旨味たっぷり、養殖のだと臭みもないからうんまいぞぉ」


 そう言って笑みを見せてからボグは立ち去っていって……俺達は本体同様馬鹿でかいそれをじっと見やり……そこからぽたりとしたたる脂を見て、一同で一斉にごくりと喉を鳴らす。


 そうして俺達は皮が焼き上がるまでの間、炭火に炙られて何度も何度もしたたる脂のことをじぃっと眺め続けるのだった。



お読み頂きありがとうございました。

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