鞭対盾
倉庫から盾を取ってきて、二人であれこれと使ってみて……蔓を受けるにはもう少し大きい盾が良いんじゃねぇかとなって、蔓の攻撃を受けるんであれば木製でも十分なんじゃねぇかとなって……そうして俺達は牧田にその旨を伝えた上で、蔓用の盾の注文を済ませた。
そのついでにポチ達も練習用の、疑似蔓こと鞭の注文をし……三日後。
盾と鞭が完成したとの連絡を受けて俺達は牧田の工房へと向かい、それらを受け取り……一直線に道場へと帰還し、早速それらの使用感を試すことにした。
ボグの盾はその巨体全てを覆い隠すような大盾だ、ボグ程の力と体力があれば苦にしねぇだろうってことでかなりの大きさとなっていて……少しだけ内側に丸まったような作りとなっている。
そうすることで蔓やそれ以外の攻撃も受け流しやすくなるはずだってことで……頑丈さもわずかにだが増している……らしい。
俺の盾も似たような形の、ボグのよりはかなり小さな……俺にとっては普通に大きい大盾になった。
この大きさとなると木製でもかなり重く、鉄製でこの大きさとなるとまず持ち歩くのは無理で……軽さだけを考えるなら、竹でも良いのかもしれねぇが……まぁ、木製でもなんとか持ち歩けるので、今回は木製で行くとしよう。
そしてポチ達の蔓を模した鞭は、革紐を編み込んで作る一本鞭というものになったらしい。
盾にしても鞭にしても専門外なのに、たったの三日で仕上げてくれたんだから全く、牧田の腕には感服するしかねぇよなぁ。
そんな風に専門外なものだから、特に鞭の方は牧田からするとかなり出来の悪い、商品にするか迷うような出来だったようだが……それでもまぁ、練習目的の俺達からすれば十分な出来で……そして今俺とボグの目の前で、ポチ、シャロン、クロコマ、ペルの四人が、その牧田製の一本鞭を手に、なんとも嫌な笑みを浮かべている。
「ふっふっふ、狼月さん覚悟してくださいよー……!
またあんなミミズ腫れ顔になって、皆にぎょっとされたり笑われたりしないために、僕達も厳しくいきますからねー!」
ポチに至ってはそんなことを言いながらべしんべしんと鞭を振るっていて……俺は半ば呆れながら、分かったからかかってこいと両手で構えた盾で道場の床をごんごんと叩く。
それを受けてポチ達は鞭を振り上げ「とぉーーー!」なんて声を上げながら飛びかかってきて……それぞれ勢いよく鞭を振り下ろしてくる。
鞭ってもんはそんな風に使う武器じゃねぇと思うのだが、気分が盛り上がってしまっているポチ達にそんなことを言っても聞いてはくれねぇだろうし、黙って盾を構えて振り下ろされた鞭を防ぐ。
案の定しっかり振れていないからか、盾に当たった鞭の音はぺしんぺしんと情けないもので、大した衝撃は伝わってこねぇ。
「なんのこれしきーー!」
するとポチはそんな声を上げて、力が足りてねぇとでも思ったのか更に勢い良く飛び上がりながら鞭を振るってくる。
力を込めて飛び上がって、その体重を鞭に込めるようにするが、刀や槌ならまだしも、ひょろひょろの鞭はそれに応えてくれず、またもへたれた音を出す。
それでもポチとクロコマとペルは、反撃をしねぇ俺達を一方的に叩けるのが楽しいのか繰り返しそんな攻撃を繰り出してきて……そしてそんな中、一旦攻撃の手を止めたシャロンが、俺達から離れた所で鞭を振って振って……そうやって鞭がどんな武器であるかを確かめて、そうしてから投げ紐の要領を応用でもしたのか、ばしんっばしんっと激しく鋭い音を立てながら床を何度も打ち据え始める。
「なるほど!」
それからそう声を上げてシャロンは俺達に向けてその鞭を振るってきて……今までとは段違いの衝撃が構えた盾に襲いかかってきて。
そんなシャロンを見習ってかポチとクロコマとペルもまた、似たような鞭の振るい方をしてきて……ようやく蔓対策の練習が本格化する。
床を叩いていた時はべしんと唸っていた音も、盾で受けると途端にばこんっぼかんっといった音となり、その一撃は長槍を叩きつけられているのかと思う程に重く、思わず怯みそうになっちまう。
上手く力をいなしていかねぇとすぐに盾が壊れてしまいそうで……連続する鞭の攻撃をどうにか受けながら盾をどう動かしたら力をいなせるのかと、試していき……数をこなすうちにどうにか、盾での受け方を理解していく。
上手く受けて力をいなして……ただ盾を構えるだけでなく、盾の横から視線を通してしっかり相手の様子を見て、見た上で立ち位置や構えをしっかりと計算して……。
そうやって受けて受けて……どれだけ受けたか、しばらくすると鞭の音が段々と弱ってくる。
鞭を振るうというのは傍目には楽そうに見えるが、意外と体力を消耗するようで、それでポチ達がバテ始めてしまったようで……そろそろ終わりかな、なんてことを考える。
あと四、五回も受ければ終わりかな、なんてことを考えていると……そこでポチが、
「油断しましたねー!!」
なんて声を上げて、恐らくは全力での……今までの経験をしっかりと活かした鞭での一撃を放ってくる。
少し勢いを緩めて、体力を回復させて、そうしてあらん限りの力を込めての一撃だったのだろう、凄まじい衝撃が盾を襲うが、受けきれなければこの衝撃が自分の体を襲う訳で、そんな状況で油断する訳もなく、しっかりと受けきり……受けきったことでこれ以上は無理だと判断したのだろう「ぷひぃ」なんて声を上げて倒れ込む。
続いてシャロン、クロコマ、ペルも倒れて……どうやら今日の練習はここで終わりのようだ。
「お、オラ、怖かったよぉー……」
練習が終わったとなってボグがそんな声を上げながらこちらを向いてきて……同時にこちらを向いたボグの盾を見て俺はぎょっとする。
ボグの盾はつい先程牧田から受け取ったばかりの新品で、その表面はぴかぴかにヤスリで磨いてあったのだが、それがどうだ、ポチ達の鞭を受けてぼこぼこのずたずたになっていて……そこかしこにヒビまで入ってしまっている。
「お、おいおい、一本鞭ってのはここまでの威力があるものなのかよ。
……下手をすると化け物蕾の蔓もこのくらいの威力は出せちまうのかもしれねぇな」
と、そんな声を上げながら自分の盾を確認してみれば、自分の盾も同様で……ボグは俺の盾を見た後に自分の盾を見て、顎が外れんばかりに大きく口を開けての驚愕の表情を作り出す。
小柄なポチ達でこの威力とは全く……驚くやら参るやらで何も言えなくなってしまう。
化け物蕾の大物がこれ以上の威力での蔓攻撃をしてくる可能性もある訳で、それを食らったらもうミミズ腫れどころの騒ぎじゃぁない訳で……そうして俺は冷や汗をかきながら、こりゃぁ盾だけじゃなく、もう一つか二つ、対策を考えた方が良さそうだと、そんなことを思うのだった。
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