蔓対策
ドロップアイテムの生薬に価値があるかもしれねぇとなって、それを実験出来るくらいの数集める必要があるとなって……次に考えるべきは、あの化け物蕾の蔓をどうするかということだった。
勝つことが出来て、流し針が有効なことも分かって……後はあの蔓をなんとかできさえすりゃぁ楽勝ってことになりそうなんだが、あんなにも無数かつ縦横無尽な攻撃を防ぐってのはちょっとやそっとのことではなく、少なくとも今の装備じゃぁどうすることもできねぇだろう。
そうなるとあれを防ぐにちょうど良い装備が必要となる訳で……そういう訳で翌日、俺達は組合屋敷の道場に集まって、車座になっての話し合いを行っていた。
「ボグさんは無傷だった訳ですから、単純に考えるなら同じくらい分厚い毛皮を被っちゃえばいいんですよ、顔含めた全身を覆うように」
話し合いが始まって最初にポチがそう意見を上げると、シャロン、クロコマ、ボグの毛皮組がうんうんと頷く。
「あの湿気の中でか……?
顔まで包んじまったら呼吸だって苦しくなるんだろうし、一戦やり終える前に茹でダコになっちまうぞ」
そんな毛皮組に俺がそう返すと毛皮組は、自分達は常にその暑さなのにとでも言いたげな表情になる。
「んな顔をされてもな……ボグの場合、毛皮だけじゃぁなくてその肉の分厚さとかそういった部分でも防いでたんだろうしなぁ。
他に手がねぇようなら仕方なくそれも検討するが……あくまで最後の手段ってとこだろうなぁ」
更に俺がそう続けると毛皮組は一応納得したようなそんな表情になり……そしてペルから声が上がる。
「いや、普通に盾を持ったら良い話じゃないの?
狼月達の攻撃は相手に通用してないっていうか、すぐに再生されちゃう訳なんだし……攻撃を捨てて両手で盾を構えて、蔓を受け続ければいいじゃんか」
「ん? ああ、そうか……盾があったか。
確か以前アメムシと戦う用に拵えてもらったのがあったな……あれがあれば、確かに蔓を防げるかもしれねぇなぁ。
両手で構えて受け続けて、その間にポチ達が流し針を刺し続ける……か。
確かに悪くねぇかもしれねぇな」
俺がそう返すとペルはしたり顔になり……わざとらしい仕草で大きく頷いてから言葉を返してくる。
「まー……あの蔓の動きはかなり変則的だから、もしかしたら盾の形とか使い方に工夫がいるかもしれないけどね。
こー……あのにょろにょろとした動きで盾を避けてきたり、盾で受けたのにその裏側まで蔓がぺろんと届いて手を叩かれたりってこともあるかもだし……そこら辺は工夫が必要なんじゃないかな。
盾を大きくするとか、裏に回らないように盾を大きく反らした形にするとか」
「はぁん、なるほどね。
盾に関しちゃぁそこまで詳しくねぇっていうか、使い方もまだしっかりとは理解できてねぇから参考になるなぁ」
「……そうなの? 狼月って武芸百般、武具の扱いにかけては天下一なんでしょ?
それなのになんで盾の扱いに詳しくないのさ」
「日の本の戦いってのはあんまり盾を使わねぇんだよなぁ。
矢を防ぐために使うこともあるっちゃあるんだが……近接戦で使うとなるとはあんまりなぁ」
「えー……盾って何だかんだと使えて便利な武具じゃない?」
「あー、まずあれだ、昔の日の本はあまり良い鉄が取れなかったんだよ。
そうなると木製竹製の盾ってことになるんだが、それじゃぁ刀での一撃を受けることはできねぇ。
盾ごと真っ二つになるのが落ちで……刀を防げるような盾を、貴重な鉄を大量に使って作るくらいなら、刀の使い手をぶっ倒せる刀や鉄砲を量産したほうが良いとなったんだ。
刀の製法ってのは質の悪い鉄でどうにか頑丈で切れ味の良いもんを作ろうとして発展したもんだからな……質の悪い上に量がねぇ鉄で効率的に戦果を上げようとなったら、盾なんか作ってらんねぇって訳だな」
「なーるほどねー。
……でも今はドワーフのおかげで、鉄の製法とか色々改善されてる訳でしょ?
それならもうちょっとこう、盾とその使い方についての研究とかをしても良いだろうに……ほら、盾道みたいな感じでさ」
「もしかしたらそういった物好きもどこかに居るのかもしれねぇが、少なくとも俺が知る範囲にはいねぇかな。
まぁ、盾が有効そうってのはペルの言う通りだからな、とりあえず今持っている盾で色々試してみるとするか。
ボグも一応盾の使い方を覚えておけよ? あれ以上に強い、毛皮をぶち破るような蔓の攻撃がねぇとも言い切れねぇからな。
……後はあれだな、盾を試すにあたってあの蔓の動きを再現するようなもんが必要だな」
「あの動き、ねぇ。
そうなるとやっぱり……鞭かな? 植物の蔓か何かで鞭を作ってそれをオイラとポチ達で振るって、狼月達をばしばし叩く。
それを盾で防げるようになれば、あの蔓を完璧に……ってのは難しいかもだけど、いくらかは防げるようになるかもね」
と、ペルがそう言うと、黙って話の流れを見守っていたポチ達が、思わずといった様子で立ち上がる。
俺達を思う存分に叩けるという部分に面白さを感じたのか、それとも鞭という未知の武器に惹かれたのか……どっちなのかは分からねぇが、とにかくポチ達の瞳はきらきらと輝いていて、あれこれと楽しげに言葉を交わし始める。
「お、オラって皆に嫌われてる? オラ達を叩けるとなってあんなに嬉しそうにするなんて……」
そんなポチ達の様子に不安を覚えたのかボグがそんな声を上げて……俺はやれやれと頭を掻きながらボグに言葉をかけてやる。
「いや……俺やボグがどうってより、ポチは未知への探究心が、シャロンは自分でも扱えそうな新しい武器への好奇心がそうさせているってとこじゃねぇかな。
……クロコマはもしかしたら、俺達を叩けるってんで悪戯心が騒いでいるのかもしれねぇが、それでもまぁ、嫌いだからってことじゃねぇだろうさ。
気心が知れているから出来る訳で、そうじゃねぇ連中を叩け、なんてことになった日にゃぁあんな風にはしてられねぇはずさ」
するとボグは途端に笑みを浮かべてほっと胸を撫で下ろして……そうしてのそのそと立ち上がり、使用感を試すためなのか、盾がしまってある道場側にある武具倉庫へと向かって歩いていく。
それを受けて俺とペルも一緒に立ち上がり……鞭をどれくらいの長さで、どんな風に作ってもらうかなどを話し合いながら、ボグの後を追いかけて倉庫へと向かうのだった。
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